(写真=PIXTA)
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ここ数年、世界中で導入・是非に関する議論の熱が高まっている「ベーシックインカム」。テスラのイーロン・マスクCEOや、Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOらIT業界の大物も続々と導入の必要性を訴えている。

政府が住民すべてに現金を給付するこの制度には、住民全員が最低限度の生活ができるようになるというメリットはあるものの、財源はどうするのかという問題は小さくない。これまでに社会実験レベルで取り入れている国や自治体はあるが、本格的な導入にいたった例は存在しない。

働かなくてもお金がもらえて生活ができるだけに「幸せの最終兵器」ともいえそうだ。しかし国が全国民に現金を支給すると考えれば、国の財産などすぐになくなり、国家は破滅してしまうのではないか。そんな心配が頭をもたげる。果たしてこの制度にはどんな利点や課題があるのだろうか。

ベーシックインカムとは


ベーシックインカムは、国などの政府が住民に対し、毎月一定額を無条件に支給する仕組み。ポイントは「無条件」であることだ。

生活保護や失業保険と比べられることが多いが、大きく異なる。

まず生活保護には収入に一定の制限があり、収入が増えると支給額が減ったり支給を停止されたりする。だがベーシックインカムでは、毎月の支給額とは別に、働いて稼いだお金は収入として受け取ることができ、ベーシックインカムの額を減らされることはない。

失業保険にも受給の要件があり、仕事がなければ誰でも受け取ることができるわけではないが、ベーシックインカムの場合は受給に要件はない。

ベーシックインカムのメリット・デメリット


ベーシックインカムで期待されているのは社会的弱者の救済だ。たとえば身体にハンディキャップを抱えていたり、小さな子どもを一人で育てていたりして、十分に働くことができない人たちが、最低限の収入を保障されることになるからだ。

ここで「生活保護制度ではいけないのか ? 」という指摘もあろう。しかし生活保護の認定にはコスト――本人には申請の負担が、行政には認定の負担が――かかるのだ。また窓口の担当者によって認定手続き結果が異なる場合があるという指摘もある。

この点、ベーシックインカムは一律に支給されるため、本人にも行政にも手続きは不要だ。さらに現在の生活保護制度では、生活保護費を受給している人よりも苦しい生活を強いられながらも、受給できていない人もいると見られる。こうした人たちも救われることにはなるだろう。

さらに生活保護では、仕事を失った人が再び就業することで支給が打ち切られるが、ベーシックインカムではその心配がない。失業しても最低限の収入はあるため、収入にこだわって次の仕事を選ぶ必要はなくなる。雇用は流動化し、失業率は抑制されることも期待できる。

一方でベーシックインカムの実現には、財源という大きなハードルが立ちはだかる。もし日本で、年齢を問わず全員に毎月7万5,000円支給するなら、年間で100兆円規模の財源を確保する必要となる。生活保護費はおよそ3兆円といわれているから大きな増額だ。

たとえ他の社会保障費を削減したり、無駄な行政コストをカットしたりして生まれた財源をベーシックインカムに充てるにしても、大幅な増税は避けられないだろう。

また働かなくても最低限の収入が得られることから、労働意欲が削がれてしまうという懸念もある。

欧州でも前向きな国と否定的な国が存在、日本はどうか ?


ベーシックインカムは、複雑になった社会保障制度をシンプルにし、社会的弱者も安心して暮らすことのできる理想的な社会を実現する可能性を秘めている。

その反面、財源の確保や労働意欲の減退という難題も抱えている。運用に失敗すれば国家破綻という最悪の結果を招きかねない。

フィンランドでは2017年1月から失業者2,000人への実験的支給が始まっており、全国民への支給が検討されている段階という。一方で、スイスでは2016年に導入是非を問う国民投票が行われ、反対多数で否決されている。

世界中で議論が進んでいるベーシックインカムだが、日本ではまださほど議論の熱は高まっていない。あと20年もしないうちに3人に1人が高齢者という超高齢社会にある日本。若者が高齢者を支える世代間扶養を原則とした年金制度も、将来はその財源問題がより深刻化するはずだ。今後日本でもベーシックインカムの是非に関する議論が高まる可能性は十分にありそうだ。

(提供: 大和ネクスト銀行

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