シンカー:日本経済は、潜在成長率が上昇するなかで、実際の成長率がそれを上回っていく、スイートスポットに入った可能性がある。景気拡大の初期はインプット、後期には生産性で、潜在成長率は上昇していくことになる。完全雇用と需要超過の中で、生産性の改善を目指す投資活動が強くなった時に、労働者がラーニングカーブを登るとともに、生産性の向上により潜在成長率が更に上昇し、経済成長率が持続的に強くなる好循環が生まれるという経験則がある。その局面で、賃金も著しく上昇し、家計にも景気拡大の実感が生まれ、デフレ完全脱却を達成することになろう。ようやく完全雇用と需要超過になったところで、財政を緊縮にしてしまうと、好循環に入れぬまま、景気がピークアウトしてしまうリスクが大きくなる。生産性の強い向上がまだ確認できていない現在は経済成長率が持続的に強くなる好循環にはまだ入っていない景気拡大の初期であり、企業の投資活動が強くなり生産性の著しい改善が確認されるまで、経済政策を拙速に引き締めてはいけないことを示している。「完全雇用=財政緊縮がすぐに必要」ということにはならない。リフレ政策による総需要の拡大策が継続されれば、今後、生産性の改善を目指す投資活動による資本の蓄積とともに、生産性の改善による潜在成長率の上昇という本格的な日本経済の回復が確認されてくるだろう。その局面で、賃金も著しく上昇し、家計にも景気拡大の実感が生まれ、デフレ完全脱却を達成することになろう。
7-9月期の実質GDPは前期比+0.3%(年率+1.4%)となった。
4-6月期の同+0.6%(年率+2.6%)の後としては、強い成長であると言える。
7四半期連続のプラス成長となり、この間の平均成長スピードは年率1.7%となり、潜在成長率を明確に上回っている。
内閣府の潜在成長率の推計では、アベノミクス前の+0.8%程度から+1.0%程度へ、しっかり上昇していることが確認された。
足元の成長スピードは更に上を行っているため、トレンドが大きな影響を及ぼす潜在成長率の推計値は、2018年には1%を上回っていく可能性が高い。
潜在成長率上昇の背景には、労働投入量の寄与度が-0.1%から+0.3%へ改善し、少子高齢化と景気低迷などにより労働投入量の寄与はマイナスが続いてきたが、1990年4-6月期以来のプラスに転じ、アベノミクスの成長戦略の柱である女性・高齢者・若年層の雇用拡大の寄与がかなり大きいことがある。
7-9月期の総賃金(名目雇用者報酬)は前年同期比+2.1%の堅調な増加となり、少子高齢化で縮小していたのを拡大に転じさせたのがアベノミクスの最大の成果である。
7-9月期の実質消費は前期比-0.5%とマイナスになったが、長雨などの異常気象の影響と、4-6月期の同+0.7%ときわめて強かったことを考慮すれば、賃金上昇を背景に消費活動が回復してきていると引き続き判断してもよいだろう。
7-9月期の実質民間在庫の実質GDPに対する寄与度は+0.2%となり、消費需要の増加に対する企業の在庫積み上げがみられた。
失業率がNAIRU(物価上昇が加速しない水準)とみられる3%を下回り、労働参加率の上昇もかなり進行してきたため、潜在成長率の上昇の寄与は、労働から資本の積み上げに変わってくるはずだ。
深刻な雇用不足感による効率化・省力化、そしてコスト削減が限界になる中で、過去最高に上昇した売上高経常利益率を維持するためトップライン(売上高)の増加の必要性になってきている。
好調な経済ファンダメンタルズにともない企業の設備投資が拡大し、資本投入量の寄与度が強くなっていくことで、潜在成長率は持続的に上昇していくことになろう。
7-9月期の実質設備投資は前期比+0.2%と小幅な増加となった。
この7四半期で年率2.4%の強い増加トレンドとなり、2017年度の設備投資計画は強いため、企業の設備投資が回復してきていると引き続き判断してもよいだろう。
7-9月期の実質公共投資は前期比-2.5%と弱く、昨秋に編成された2017年度の補正予算による景気刺激策によって押し上げらた4-6月期の同+5.8%からの反動がみられる。
しかし、総選挙の連立与党の大勝で、2020年度までは生産性の向上とデフレ完全脱却のための集中投資期間と、財政政策は緩和方向にむかっている。
2018年の年初には更なる補正予算による生産性の向上への投資が計画され、オリンピックに向けた建設もあり、公共需要はしばらくは堅調に推移していくだろう。
7-9月期の実質輸出は前期比+1.5%と強く、4-6月期の同-0.2%からリバウンドした。
これまではIT関連財を中心とする生産・在庫循環のグローバルな好転に支えられていた。
その動きが一服した後は、IoTなどの産業変化もあり、データセンサーや車載向けの部品などは増加を続けている。
更に、日本が比較優位を持つ資本財が堅調な伸びをみせるとともに、円安をともなう競争力の改善を反映して世界貿易に対する日本のシェアも上昇しているとみられる。
生産の先行きの増加に対応するために前もって租原材料の輸入が増加するなどして4四半期連続で大きく増加した実質輸入は、7-9月期には前期比-1.6%と弱かった。
10-12月期の鉱工業生産指数は7-9月期の前期比+0.4%から加速するとみられ、堅調な内需と合わせて、実質輸入は増加を続けていくと考えられる。
7-9月期はテクニカルに外需の実質GDPに対する寄与度は+0.5%とかなり強かった(4-6月期同-0.2%)。
しかし、今後のトレンドは、内需主導の成長の形がより鮮明となってくるだろう。
7-9月期のGDPデフレーターは前年同月比+0.1%(4-6月期同―0.4%)と5四半期ぶりに上昇に転じ、内需デフレーターは同+0.5%(4-6月期同+0.3%)へ上昇幅が加速している。
日本経済は、潜在成長率が上昇するなかで、実際の成長率がそれを上回っていく、スイートスポットに入った可能性がある。
景気拡大の初期はインプット、後期には生産性で、潜在成長率は上昇していくことになる。
完全雇用と需要超過の中で、生産性の改善を目指す投資活動が強くなった時に、労働者がラーニングカーブを登るとともに、生産性の向上により潜在成長率が更に上昇し、経済成長率が持続的に強くなる好循環が生まれるという経験則がある。
その局面で、賃金も著しく上昇し、家計にも景気拡大の実感が生まれ、デフレ完全脱却を達成することになろう。
ようやく完全雇用と需要超過になったところで、財政を緊縮にしてしまうと、好循環に入れぬまま、景気がピークアウトしてしまうリスクが大きくなる。
生産性の強い向上がまだ確認できていない現在は経済成長率が持続的に強くなる好循環にはまだ入っていない景気拡大の初期であり、企業の投資活動が強くなり生産性の著しい改善が確認されるまで、経済政策を拙速に引き締めてはいけないことを示している。
「完全雇用=財政緊縮がすぐに必要」ということにはならない。
リフレ政策による総需要の拡大策が継続されれば、今後、生産性の改善を目指す投資活動による資本の蓄積とともに、生産性の改善による潜在成長率の上昇という本格的な日本経済の回復が確認されてくるだろう。
その局面で、賃金も著しく上昇し、家計にも景気拡大の実感が生まれ、デフレ完全脱却を達成することになろう。
表)GDPの結果
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部 チーフエコノミスト 会田卓司
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