要旨

QE速報
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  • 2017年7-9月期の実質GDPは、前期比0.3%(年率1.4%)と7四半期連続のプラス成長となった(当研究所予測10月31日:前期比0.4%、年率1.5%)。

  • 4-6月期にマイナスとなった外需が前期比・寄与度0.5%(前期比年率2.0%)と成長率を大きく押し上げたことがプラス成長の主因である。一方、設備投資は前期比0.2%と4四半期連続で増加したが、民間消費(前期比▲0.5%)、住宅投資(同▲0.9%)が減少したことに加え、2016年度補正予算の効果一巡から公的固定資本形成が前期比▲2.5%と大きく落ち込んだことから、国内需要は4四半期ぶりに減少した。

  • 2017年7-9月期の実質GDPは4-6月期に続き潜在成長率を上回る伸びになったが、4-6月期が内需主導の成長であったのに対し、7-9月期は外需主導の成長となり、国内需要は家計部門を中心に弱めの動きとなった。

  • 先行きは、輸出が底堅さを維持する中、企業収益の改善を背景に設備投資の伸びが高まることが予想される。一方、実質所得の伸び悩みが続く家計部門は厳しい状況が続きそうだ。2017年度中は企業部門(輸出+設備投資)が経済成長の中心となる可能性が高い。

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7-9月期は外需主導で前期比年率1.4%と7四半期連続のプラス成長

本日(11/15)発表された2017年7-9月期の実質GDP(1次速報値)は、前期比0.3%(前期比年率1.4%)と7四半期連続のプラス成長となった(当研究所予測10月31日:前期比0.4%、年率1.5%)。

4-6月期にマイナスとなった外需が前期比・寄与度0.5%(前期比年率2.0%)と成長率を大きく押し上げたことがプラス成長の主因である。一方、国内需要は、企業収益の改善を背景に設備投資が前期比0.2%と小幅ながら4四半期連続の増加となったが、2016年1-3月期から増加を続けてきた民間消費、住宅投資がそれぞれ前期比▲0.5%、▲0.9%と7四半期ぶりの減少となった。

また、4-6月期に前期比5.8%の大幅増加となった公的固定資本形成が、2016年度補正予算の効果一巡から前期比▲2.5%と大きく落ち込んだため、国内需要が前期比▲0.2%と4四半期ぶりに減少した。

実質GDP成長率への寄与度(前期比)は、国内需要が▲0.2%(うち民需0.0%、公需▲0.2%)、外需が0.5%であった。

2017年7-9月期の1次速報と同時に基礎統計の改定や季節調整のかけ直しなどから過去の成長率も遡及改定され、2017年4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率2.5%から同2.6%へと若干上方修正される一方、2017年1-3月期(前期比年率1.2%→同1.0%)は下方修正された。

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名目GDPは前期比0.6%(前期比年率2.5%)と2四半期連続で増加し、実質の伸びを上回った。GDPデフレーターは前年比0.1%(4-6月期:同▲0.4%)、前期比0.3%(4-6月期:同▲0.0%)であった。国内需要デフレーターが前期比0.2%の上昇となったことに加え、輸出デフレーターの上昇幅(前期比1.5%)が輸入デフレーターの上昇幅(同1.2%)を上回ったことがGDPデフレーターを押し上げた。

◆需要項目別の動き

民間消費は前期比▲0.5%と7四半期ぶりの減少となった。雇用所得環境は改善傾向が続いているが、4-6月期が前期比0.7%の高い伸びとなった反動に加え、8月に東日本を中心に記録的な長雨となったことも7-9月期の消費を下押ししたとみられる。

家計消費の内訳を形態別にみると、自動車やテレビなどの買い替え需要を主因として高い伸びが続いていた耐久財が前期比▲1.2%(4-6月期:同1.7%)と7四半期ぶりに減少したほか、天候不順で外出が手控えられたことから旅行、外食などのサービスも前期比▲0.7%の減少となった。

雇用者報酬は名目で前年比2.1%(4-6月期:同2.1%)、実質で前年比1.6%(4-6月期:同1.8%)となった。実質雇用者報酬は2016年中には前年比2%台の高い伸びとなっていたが、名目賃金が伸び悩む中で物価が上昇に転じたことにより2017年入り後は伸びが鈍化している。

2017年7-9月期の民間消費の減少は前期の高い伸びの反動による部分もあるため、基調として消費は持ち直しの動きが続いていると判断される。10-12月期は株価の大幅上昇に伴う資産効果も期待できるため、再び増加に転じることが見込まれる。

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ただし、2017年の春闘賃上げ率が前年を若干下回ったことを反映し、賃金総額の約4分の3を占める所定内給与の伸び悩みが続く中、冬のボーナスも前年並みにとどまることが予想されるため、先行きも名目賃金の伸びが高まることは期待できない。また、財産所得、税負担、社会給付・負担などを含めた家計の可処分所得は雇用者報酬の伸びを大きく下回っているとみられる。個人消費の回復が所得の増加を伴ったものとなるまでには時間を要するだろう。

住宅投資は前期比▲0.9%と7四半期ぶりに減少した。雇用所得環境の改善や低水準の住宅ローン金利が住宅投資を下支えしているが、相続税対策のための貸家建設は頭打ちとなっている。新設住宅着工戸数(季節調整済・年率換算値)は2017年4-6月期の100.2万戸から7-9月期は95.6万戸と水準を大きく繰り下げた。GDP統計の住宅投資は工事の進捗ベースで計上され着工の動きがやや遅れて反映されるため、10-12月期も減少することが予想される。

設備投資は前期比0.2%と4四半期連続で増加したが、4-6月期の同0.5%から伸びが低下した。ただし、7-9月期の設備投資が低い伸びにとどまったのは、1次速報推計の基礎統計となる生産動態統計がこのところ振れが大きくなっており、4-6月期に高い伸びとなる一方、7-9月期が低い伸びにとどまったことが影響している。4-6月期の設備投資は1次速報の前期比2.4%から2次速報では同0.5%へと大きく下方修正されたが、12/1公表予定の7-9月期の法人企業統計の結果次第では4-6月期とは逆に上方修正される可能性もあるだろう。

日銀短観2017年9月調査では、2017年度の設備投資計画(含むソフトウェア、除く土地投資額)が前年度比8.1%(全規模・全産業)となり、前年同時期の前年度比4.6%(2016年9月調査の2016年度計画)を上回っている。設備投資/キャッシュフロー比率は低水準にとどまっており、企業の投資スタンスは積極化しているわけではないが、企業収益の大幅増加に伴う潤沢なキャッシュフローを背景に、設備投資は底堅い動きが続く可能性が高い。

民間在庫変動は前期比・寄与度0.2%(前期比年率1.0%)と成長率を押し上げた。民間在庫変動は+0.2兆円(4-6月期:▲1.2兆円)と4四半期ぶりに積み増しに転じた。製品在庫のマイナス幅縮小(4-6月期:▲1.1兆円→7-9月期:▲0.5兆円)、流通在庫のプラス幅拡大(4-6月期:0.4兆円→7-9月期:0.7兆円)が成長率の押し上げ要因となった。また、1次速報段階では内閣府の仮置き値となっている原材料在庫(4-6月期:▲0.4兆円→7-9月期:▲0.1兆円)、仕掛品在庫(4-6月期:▲0.1兆円→7-9月期:+0.1兆円)も若干の押し上げ要因となった。

公的需要は、政府消費が前期比▲0.1%の減少となったことに加え、2016年度補正予算の執行一巡から公的固定資本形成が前期比▲2.5%と3四半期ぶりに減少した。公共工事の先行指標である公共工事請負金額は2017年1-3月期が前年比9.9%、4-6月期が同2.6%と2四半期連続で増加したが、7-9月期は同▲7.9%の大幅減少となった。2017年度当初予算の公共事業関係費が前年比+0.0%の横ばいとなっていること、2017年度補正予算では公共事業の大幅な積み増しが見込まれないことを踏まえれば、公的固定資本形成は先行きも弱い動きが続く可能性が高いだろう。

外需寄与度は前期比0.5%と2四半期ぶりのプラスとなった。世界経済の回復を背景に財貨・サービスの輸出が前期比1.5%と2四半期ぶりに増加する一方、国内需要の持ち直しを受けて増加を続けてきた財貨・サービスの輸入が前期比▲1.6%と5四半期ぶりに減少した。7-9月期は民間消費を中心に国内需要が弱めの動きとなったことが輸入の減少につながったとみられる。

◆先行きも企業部門中心の成長が続く見込み

2017年7-9月期の実質GDPは4-6月期に続き潜在成長率を上回る伸びになったが、4-6月期が内需主導の成長であったのに対し、7-9月期は外需主導の成長となり、国内需要は家計部門(民間消費、住宅投資)を中心に弱めの動きとなった。

先行きについては、輸出が底堅さを維持する中、過去最高水準の更新を続ける好調な企業収益を背景に設備投資の伸びが高まることが予想される。一方、名目賃金の伸び悩みや物価上昇に伴う実質所得の低迷から家計部門は厳しい状況が続きそうだ。2017年度中は企業部門(輸出+設備投資)が経済成長の中心となる可能性が高い。

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斎藤太郎(さいとう たろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 経済調査室長

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