要旨

経済見通し
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<実質成長率:2017年度1.9%、2018年度1.2%、2019年度1.0%を予想>

2017年7-9月期の実質GDP(2次速報)は設備投資、民間在庫変動の上方修正などから1次速報の前期比0.3%(年率1.4%)から前期比0.6%(年率2.5%)へ上方修正された。

GDP2次速報の結果を受けて、11月に発表した経済見通しの改定を行った。実質GDP成長率は2017年度が1.9%、2018年度が1.2%、2019年度が1.0%と予想する。2017年7-9月期までの実績値の上方修正を受けて、2017年度の見通しを0.3%上方修正した。

海外経済の回復や円安基調を背景に輸出が底堅さを維持する中、企業収益の大幅改善を受けて設備投資が増加し、日本経済は企業部門(輸出+設備投資)主導の成長を続けるだろう。

一方、家計部門は厳しい状況が続く。2018年度は春闘賃上げ率が3年ぶりに前年を上回るが、物価上昇ペースの加速によりその効果は減殺される。年金給付の抑制などから家計の可処分所得の伸びが雇用者報酬を下回ることも引き続き消費を下押しするだろう。

消費者物価上昇率(生鮮食品を除く総合)は2018年後半には1%台に達することが予想されるが、賃金上昇率が低い中ではサービス価格の上昇圧力も限られるため、2%に達することは難しい。年度ベースの上昇率は2017年度が0.7%、2018年度が1.1%、2019年度が1.2%(消費税の影響を除く)と予想する。

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2017年7-9月期は前期比年率2.5%へ上方修正

12/8に内閣府が公表した2017年7-9月期の実質GDP(2次速報値)は前期比0.6%(年率2.5%)となり、1次速報の前期比0.3%(年率1.4%)から上方修正された。法人企業統計の結果が反映された設備投資(前期比0.2%→同1.1%)、民間在庫変動(前期比・寄与度0.2%→同0.4%)が大幅に上方修正されたことが成長率を押し上げた。1次速報から2次速報への改定幅(前期比年率+1.1%)のほとんどが設備投資、民間在庫変動によるものであった。

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2017年7-9月期の2次速報と同時に2016年度の年次推計値が公表され、実質GDP成長率は1.3%から1.2%へと下方修正された。成長率全体の修正は小幅だったが、公的固定資本形成が速報値の前年比▲3.2%から同0.9%へと大幅に上方修正される一方、設備投資が前年比2.5%から同1.2%へ、民間消費が前年比0.7%から同0.3%へと下方修正されるなど、需要項目毎の改定幅は比較的大きかった。 また、2015年度は第一次年次推計値から第二次年次推計値への改定が行われ、実質GDP成長率は1.3%から1.4%へ上方修正された。2016年度とは逆に、設備投資が前年比0.6%から同2.3%へ上方修正されている。

四半期毎の成長率も過去に遡って改定され、2017年1-3月期(前期比年率1.0%→同1.5%)、4-6月期(前期比年率2.6%→同2.9%)が上方修正された。7-9月期と合わせると、3四半期続けて1次速報から上方修正されたことになる。需要項目別には、設備投資が2016年度中の伸びが下方修正される一方、2017年度入り後の伸びが大幅に上方修正されている点が目立つ。2016年度の速報から年次推計への改定に加え、今回から民間消費、設備投資について速報推計における需要側推計値と供給側推計値の加重平均ウェイトの見直しが行われたことも影響している可能性がある。1次速報時点では、企業収益の大幅増加にもかかわらず、GDP統計の設備投資は横ばい圏の動きとなっていたが、今回の改定によって2017年度入り後の設備投資の回復基調がより明確となった。

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◆大幅増益が続く中でも設備投資意欲は高まらず

財務省が12月1日に公表した法人企業統計によると、2017年7-9月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比5.5%と5四半期連続の増加となったが、2017年4-6月期の前年比22.6%からは伸びが大きく鈍化した。製造業は前年比44.4%(4-6月期:同46.4%)と4四半期連続の二桁増益となったが、非製造業が前年比▲9.5%(4-6月期:前年比12.0%)と5四半期ぶりの減益となった。

経常利益の伸びは大きく鈍化したが、これは2016年7-9月期の経常利益が純粋持株会社の子会社からの受取配当の急増という特殊要因で大きく押し上げられていた裏が出た面が大きい。純粋持株会社を除いた経常利益は前年比23.2%(4-6月期:同28.7%)と4四半期連続の二桁増益となる。経常利益は実態としては好調を維持している。

また、季節調整済の経常利益は前期比▲1.5%と6四半期ぶりに減少したが、落ち込み幅は前期までの高い伸びの反動の範囲にとどまっており、過去最高益となった2017年4-6月期に次ぐ高水準となっている。特に、円安、海外経済の回復を背景に輸出の増加が続く製造業は3四半期連続で過去最高益を更新した。

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一方、設備投資は回復しているものの、企業収益の好調さを考えれば、そのペースは引き続き緩やかにとどまっている。2017年4-6月期の法人企業統計では、設備投資(ソフトウェアを含む)が前年比4.2%と4-6月期の同1.5%から伸びを高めたが、引き続き企業収益の伸びを下回り、「設備投資/キャッシュフロー比率」は低水準の推移が続いている。

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設備投資の増加はあくまでも企業収益の大幅な増加に伴う潤沢なキャッシュフローを主因としたもので、企業は設備投資に対する慎重姿勢を崩していないと考えられる。

実質成長率は2017年度1.9%、2018年度1.2%、2019年度1.0%

◆2017年度の成長率見通しを上方修正

2017年7-9月期のGDP2次速報を受けて、11/16に発表した経済見通しを改定した。実質GDP成長率は2017年度が1.9%、2018年度が1.2%、2019年度が1.0%と予想する。2017年4-6月期、7-9月期の実績値が上方修正されたことに加え、2017年1-3月期の上方修正によって2016年度から2017年度への発射台(ゲタ)が上がったことを反映し、2017年度の成長率見通しを0.3%上方修正した。

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先行きの日本経済は、円安基調や海外経済の回復に伴う輸出の増加、高水準の企業収益を背景とした設備投資の回復が続くことが見込まれる一方、実質所得の低迷が続く家計部門は消費、住宅投資ともに低調に推移する公算が大きい。当面は企業部門(輸出+設備投資)主導の成長が続くことが予想される。

2018年度は企業部門の改善が家計部門に一定程度波及することが見込まれる。具体的には、春闘賃上げ率が3年ぶりに前年を上回ることを反映し、所定内給与の伸びが高まること、企業収益との連動性が高い特別給与(ボーナス)も明確に増加することから、名目雇用者報酬は前年比2.4%となり、2017年度の同2.0%から伸びを高めるだろう。

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しかし、同時に物価上昇率も高まるため、実質雇用者報酬は前年比1.5%と2017年度と同じ伸びにとどまることが予想される。引き続き消費が景気の牽引役となることは期待できないだろう。

また、好調が続く企業収益だが、2018年度に入ると賃上げによる人件費の増加や、円安、原油高に伴う原材料費の増加などから、増益率の鈍化が見込まれる。企業の投資スタンスが慎重な中では企業収益の減速に伴い設備投資の伸びが頭打ちとなることは避けられないだろう。この結果、2018年度の成長率は2017年度よりも明確に低下する可能性が高い。

2019年度は2019年10月に予定されている消費税率引き上げ(8%→10%)が経済、物価に影響を及ぼす。ただし、次回の引き上げは前回よりも税率の引き上げ幅が小さく、飲食料品(酒類と外食を除く)及び新聞への軽減税率の適用によって、1%引き上げによる消費者物価への影響は従来の約4分の3にとどまる。また、税率引き上げは2019年度下期からとなるため、年度ベースの影響は2019年度、2020年度ともに1%分(軽減税率導入を考慮すると0.75%分)となる。さらに、年度途中からの引き上げとなるため、駆け込み需要とその反動減は2019年度内でほぼ相殺されることが想定される。

2014年度の実質GDPは消費税率引き上げによる悪影響を主因として▲0.3%のマイナス成長となった。次回の消費税率引き上げは前回に比べて経済に対するマイナスの影響が小さくなることに加え、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に伴う押し上げ効果も期待されることから、2019年度の経済成長率が大きく落ち込むことは避けられるだろう。

◆物価の見通し

消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、2017年1月に前年比0.1%と1年1ヵ月ぶりの上昇となった後、10月には同0.8%まで伸びを高めた。物価上昇のほとんどはエネルギー価格の上昇によるものだが、ゼロ%程度で推移していた「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」の上昇率も2017年10月には前年比0.2%と小幅ながらプラスとなり、基調的な物価にも改善の兆しがみられる。

先行きについては、エネルギー価格の前年比上昇率はいったん頭打ちとなるものの、足もとの原油価格上昇を受けて、2018年半ば以降は再び伸びを高める可能性が高い。また、円安に伴う輸入物価の上昇や景気回復に伴う需給バランスの改善が先行きの物価の押し上げ要因となることが見込まれる。

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さらに、企業収益の大幅改善、物価上昇を受けて2018年度に入ると賃金上昇率が高まることから、低迷が続いているサービス価格にも徐々に上昇圧力がかかるだろう。コアCPIは2017年度末にかけていったん伸び率が頭打ちとなるものの、その後は再び伸びを高め、2018年後半には1%台に達することが予想される。

ただし、企業の価格改定に直結する個人消費の回復が緩やかにとどまり、経済成長率を下回る状態が続くこと、賃金上昇率がベースアップでゼロ%台にとどまる中ではサービス価格の上昇圧力も限られることなどから、2019年度中に日本銀行が物価安定の目標としている2%に達することは難しいだろう。

コアCPI上昇率は2016年度の前年比▲0.2%の後、2017年度が同0.7%、2018年度が同1.1%、2019年度が同1.7%(1.2%)と予想する(括弧内は消費税率引き上げの影響を除くベース)。

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斎藤太郎(さいとう たろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 経済調査室長

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