毎年各所から発表される企業の平均年収の調査結果。実際に働いている人はもちろん、家族や就活生、転職を考えている人などにも関心が高い話題だろう。上場企業に勤めていると平均年収が高いというイメージを持たれやすいが、実は業種によって平均年収に差がある。

今回は、東京商工リサーチの2016年決算「上場3,079社の平均年間給与」調査の結果に基づいて、全体的な平均年収と業界別の平均、平均年収のトレンドについて紹介する。

名目賃金は5年連続の増加で初の600万円台

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(写真=PIXTA)

東京商工リサーチが調べた「上場3,079社の平均年間給与」調査は、2016年決算 (1月期~12月期) の全証券取引所に上場する企業を対象とし、有価証券報告書の情報をもとに平均年間給与を算出したものである。2011年から2016年決算まで、連続比較が可能な企業3,079社を対象 (変則決算企業は除く) にしている。業種分類は、証券コード協議会の定めに準じ、持株会社 (ホールディングス) は中心となる事業会社の業種を採用しているため、事業会社の平均年間給与とは異なっている。

調査結果によると、2016年 (1~12月) の上場3,079社の平均年間給与は、前年より6万3,000円 (1.0%) 増え、605万7,000円だった。2011年に調査を始めて以来、5年連続の増加で、初めて600万円台になったとのことだ。また、平均年間給与が前年より増えたのは1,892社 (構成比61.4%、前年2,060社) で6割を占める一方、減少は1,167社 (同37.9%、同997社) 、横ばいは20社 (同0.6%、同22社) だった。

円安をテコに企業業績を大きく改善させたアベノミクスが実質的に始動したのが2012年末だったことを考えても、企業業績の改善と平均年収の増加はほぼリンクしている。この調査結果からも、上場企業は緩やかではあるものの、業績改善によって積み上げた利益を賃金上昇に振り向けているようだ。しかし、この5年間の比較は、金額の絶対値のみを比較しているに過ぎず、物価上昇率は反映していない。

労働者が受け取った金額を名目賃金という。ただ、名目賃金が増えても、物価も同じ割合だけ上昇したら、労働者の購買力は変わらない。労働者の本当の購買力を表した金額を実質賃金という。実質賃金は、名目賃金を消費者物価指数で割ることで求められる。従って「5年連続での増加」「初の600万円台に到達」といっても、必ずしも労働者の生活が好転しているとは限らないことには注意が必要だ。

業界別の平均年収は ?

では、業種別にみてみると一番平均年収が高いのは、金融・保険業の702万9,000円 (前年698万円) で、唯一700万円台だ。続いて、建設業の671万9,000円、不動産業の663万7,000円、電気・ガス業の658万6,000円である。金融・保険業は、社員数に対して比較的大きな金額を動かす仕事であることが多く、好況期は生産性が高くなりやすいことが理由と思われる。実際、平均年収が2,139万6,000円と一番高かったのはM&Aビジネスを手がける企業であった。

一方、一番平均年収が低いのは、小売業の500万円 (同496万3,000円) で、6年連続一番平均年収が低い。これは、小売業が正規、非正規を問わず社員が多く、平均化すると給与が低くなってしまうことが理由と思われる。実際に、国税庁が公表した「平成28年分民間給与実態統計調査結果」を確認すると、2016年の平均年間給与は421万6,000円 (正規486万9,000円、非正規172万1,000円) である。正規と非正規の平均給与には2.8倍以上の差がある。上場企業の平均給与と、非正規の平均給与を比べると3.5倍以上の差がつく計算となる。

年収1,000万円は全体の2%未満

平均年間給与をみると1,000万円以上は60社 (構成比1.9%) で、調査開始以来もっとも多くの会社数だった。しかし500万円未満も723社 (同23.4%) と全体の約1/4を占め、上場企業の給与は二極化していることも窺える。

「年収1,000万円」と言うと多くのサラリーマンにとって憧れの存在だろう。調査開始以来、最多の企業数といっても全体の2%未満の存在だ。もし年収1,000万円をひとつのベンチマークとしているのであれば、それがどれくらいの割合なのか理解を深めることで、日々のキャリアアップにも身が入るのではないだろうか。(提供:大和ネクスト銀行

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