株式や投資信託、不動産などに投資をしていると、元本割れの可能性が必ずつきまといます。せっかくの資産を減らすことが怖くて、「金融機関へ預金しているだけ」という人も少なくないでしょう。しかし、実はお金の価値は時代と共に変化していきます。インフレ(インフレーション)が発生すると、物価が上昇するため、まったく同じ商品でも同じ金額で買うことができなくなるという可能性があるのです。

一般的に定期預金やタンス貯金として保有することは元本割れがありませんので、一見安心といえます。しかし、インフレ下においてはお金の価値が下落するという認識も持っておく必要があるのです。ここでは、インフレ対策として資産運用が存在すること、そして資産運用以外にもお金対策があることを解説します。

「金融機関へ預けておけばリスクゼロ」の疑問

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(画像=Khongtham/Shutterstock.com)

一般的に、株式や投資信託など金融商品へ投資すると、利益を期待できる反面、元本割れのリスクもあります。2008年のリーマンショックでは、わずか1ヵ月で日経平均株価が約35%も下落しました。仮に、日経平均株価に連動するような投資信託を100万円保有していた場合、1ヵ月で約35万円を失っていたというイメージです。これだけの株価の急落に恐怖を感じ、投資自体を止めてしまった人も多いかもしれません。

さらに、時代をさかのぼると、多くの日本人の投資観に影響を与えたのが1990年代初頭のバブル景気崩壊でした。1989年の末には4万円近くつけていた日経平均株価が、翌1990年の9月末には2万円ほどにまで一気に急落しています。こうした歴史を念頭に、「投資はこりごり」「定期預金が一番」と考えてしまうのは仕方がないでしょう。

確かに、金融機関にお金を預けておけば、ほとんど利息がつくことがない代わりに元金が減る可能性もありません。日本証券業協会の2015年度「証券投資に関する全国調査(個人調査)」によると、預貯金を保有する人の割合が91.9%と圧倒的に多い傾向です。一方で、株式保有者が12.7%、投資信託保有者が8.7%、公社債保有者が4.6%しかいないのが実情です。

しかし、金融機関へ預けて放置しておけば全くリスクがないかというと、決してそんなことはありません。金額の数字だけ見れば減っていなくても、物価が上昇すれば実質的にお金の価値が目減りしている可能性があるのです。

インフレ&円安で物価高

預貯金を実質的に目減りさせる要因が、インフレと円安です。インフレとは、物価が上昇することです。たとえば、現在1個100円で買えていた商品が将来150円になったとすると「インフレによって商品価格が上昇した」と考えることができます。ただし、本来のインフレとは「世の中に出回る貨幣の量が増えること」を意味しています。貨幣の量が増えるということは市場への供給が増えるため、貨幣の価値が下がってしまうのです。

同じ「100円」であっても、以前はある商品を1個購入できるほどの価値があったのに、今では1.5倍の貨幣量を用意しないと購入できなくなってしまうような内容がインフレの本質です。また、円安も貨幣の中で「円」の価値を相対的に下げるため、預貯金の価値を目減りさせる要因となります。たとえば、1ドル=100円の時代には100円でアメリカの1ドルの商品を購入できていたのが、1ドル=150円になると1.5倍の量の円を用意しないと購入できなくなります。

現代の経済はグローバルな要因が絡み合っており、世界経済における円の相対的価値はとても重要です。以上のように、インフレや円安によってお金(円)の価値が下がってしまうと、預貯金額が変わらないように見えても「お金の価値が減っている」ということになります。

アベノミクスはインフレ誘導が一つの目的

2012年に政権の座についた安倍内閣では、通称「アベノミクス」と呼ばれる経済政策を推し進めています。アベノミクスでは、以下の3点を「3本の矢」として並行的に進める意向が示されています。

・大胆な金融政策
・機動的な財政政策
・民間投資を喚起する成長戦略

このうち、大胆な金融政策の一つとして挙げられているのが「2%のインフレ」です。前述の通り、インフレが起きると貨幣価値が目減りします。そのため、企業や個人はお金を貯め込んでおいても経済合理性がなくなり、設備投資や消費に回すようになると考えられます。インフレターゲットを設けて金融政策を進めるのは、一種の景気刺激策なのです。

もちろん、インフレがあまりに急激だと経済が混乱してしまうので、マイルドなインフレ目標として「2%」の数字が掲げられています。2015年以降2%には届いていませんが、インフレが進む限り預貯金が「損」になることは確かです。

日本経済がどうなるかを予測することはきわめて困難ですが、円安が進む可能性もあります。少子高齢化の進展によって日本経済の活力が失われていくと、円が世界の貨幣の中で相対的に価値を失っていくとも考えられるでしょう。そうすると円安傾向になるので、円建て資産の価値は世界経済の中で下がることになります。

インフレ率を超える資産アップが必要

資産が実質的に目減りするのが嫌なら、結局のところインフレ率や円安率を超えるくらい資産を増やす必要があるということに他なりません。インフレが年率2%で進むと仮定すれば、資産運用の利回りを2%以上にしないと実質的には資産が目減りすることになります。

当然ながら、預貯金も実質的には資産価値が目減りすると考えられます。なぜなら、預貯金による利回りはほとんどゼロであり、ATM手数料や送金手数料を考慮すると実質的にはマイナス利回りだからです。したがって、インフレしていることを考慮すれば資産は減っていることになります。「リスクゼロ」だと思ってお金を寝かせていると、経済や社会の変化に伴いゆでガエルのように資産が失われていく可能性があるわけです。

インフレ率を超える資産アップを目指すには、お金を増やすための努力を一刻でも早く始める必要があります。その方法は「支出の削減」「収入の増加」「資産運用による利回りアップ」の3種類しかありません。出ていくお金を減らして入ってくるお金を増やし、貯まったお金を運用して増やすことが基本的な流れです。

資産形成の第一歩は「節約(倹約)」

資産形成というと、成長する会社の株式を購入したり、仮想通貨のようにリスクの高い投資・投機にお金を投資したりすることを最初に考えるかもしれません。確かに、一発逆転に近い勝負を賭けることで信じられないほどの利益を出せる可能性もゼロではないでしょう。しかし、当然ながら勝負に負けて一文無しになる可能性は大きいですし、利益が出ても無駄遣いして元の木阿弥に陥る人も少なくないのが実情です。まずは、生活費をコントロールして無駄を排除し、最低限の生活水準で暮らしを営む習慣を身につける必要があります。

節約するときには、効率を意識することが重要です。一般的に「節約」というと、こまめに電源スイッチを抜き差ししたりお風呂の水を減らしたりと、涙ぐましい努力を必要とするイメージがあるかもしれません。しかし、こうした努力によって浮かせられるお金は月間数百円程度ということもあります。

もっとインパクトのある節約をするには、まず固定費に着目するべきです。特に、家賃や通信費を減らすのは、ちょっとした手続き次第で改善の余地があり狙い目です。家賃の安いところに引っ越したり、契約更新のタイミングで管理者に交渉したりすることで、家賃を下げられる可能性があります。

また、通信費については手持ちのスマートフォンを格安スマホに変更することが定番です。キャリアのスマートフォンを容量少なめの格安スマホに変更すれば、月に数千円通信費が下がるケースも少なくありません。家賃と合わせて、年間10万円以上の節約も目指せるでしょう。どちらも、一度改善できれば後は何の努力も必要としません。

節税対策で固める資産の守り

節約の次におすすめしたいのが、節税です。特に、制度的に認められた所得控除を最大限活用すれば、会社員でも所得税・住民税を年間10万円以上減らすことが期待できます。これも、努力というより知識であり、行動がもたらす成果です。

節税対策で最もポピュラーなのが、iDeCo(個人型確定拠出年金)です。会社員の場合、毎月5,000~2万3,000円の掛金を拠出して60歳以降に受け取れる個人型の年金ですが、掛金が全額所得控除されるという税制優遇措置があります。たとえば、年間所得400万円の人が、毎月2万3,000円の掛金を拠出すると、約8万円の所得税・住民税を節税できる計算となります。

また、厚生年金に加入していない自営業者や個人事業主(フリーランス)の人だと、月6万8,000円(年81万6,000円)まで掛金を拠出できます。そのため、納める所得税が多くなる場合はiDeCoによる節税メリットがさらに大きくなります。年間所得400万円で上限まで掛金を拠出していれば、約25万円も節税になるのです。

iDeCoほどの金額的なインパクトがあるわけではありませんが、会社員でも使いやすい節税対策が「ふるさと納税」です。「納税」という名前がついていますが、実質的には自治体への寄付となります。自分の住むところ以外の自治体を選び、返礼品を選択して寄付を行うと、自己負担額2,000円を除く全額が控除対象です。ただし、ふるさと納税による控除には所得に応じて上限額が設けられています。総務省の解説ページをよく読んで、上限を超えない程度のふるさと納税をするのがおすすめです。

こうした対策によって、支払う税金額を抑えることができます。お金を増やすためには、入ってくるお金を増やす前に出て行くお金を減らして守りを固めることです。

リスクを取らないとインフレに勝てない

節約や節税には、お金が減るリスクは存在しません。知識を得て行動すれば、必ず出ていくお金を減らせます。それに対して、仕事や資産運用では、何らかのリスクを取らないと入ってくるお金を増やせないという性質があります。

高度経済成長期やバブルの時代のように、日本全体が急成長を遂げることは期待できません。日本経済が右肩上がりであれば、リスクを取らず黙々と与えられた仕事をこなしているだけで会社も成長し、結果として給料が伸びたかもしれません。しかし、今となっては仕事でも積極的に名乗り出てリスクのある業務やプロジェクトをこなさなければ、収入が目に見える形で伸びる可能性は低いでしょう。他社に転職できるだけの経験もスキルも、身につかないかもしれません。

資産運用でも同様です。一般的に、「結果の不確実性」「リスクと収益」「リターン」との間にはトレードオフの関係が成り立つとされています。大きなリターンを期待するのであれば、高いリスクを引き受ける必要があるということです。投資家は、自分の期待するリターンと自分の取れるリスクの度合いを見極めたうえで、投資する金融商品を選択する必要があります。

もちろん、リスクを冒したくないのが人間の性ではあります。しかし、それではインフレ率に負けない程度の資産運用を期待するのは難しいでしょう。

資産運用の第一歩はつみたてNISA

資産運用に絞って話をすると、「リスクを取らなければいけない」といわれても、「どれに投資すればいいのか」がわからない人も多いでしょう。そうした資産運用の初心者であれば、2018年から開始された「つみたてNISA」という仕組みを利用する方法があります。つみたてNISAとは、金融機関に特別な口座を開設し、一定のペースでお金を積み立てて投資信託を購入していくものです。

積み立てる金額は金融機関によって異なりますが、月100円から可能のところもあります。そのため、資産運用に不安を感じる人でも手軽に始めることができるでしょう。もちろん、積み立てる金額はいつでも増減できます。つみたてNISAのメリットは、運用益が非課税になることです。つみたてNISAで購入した投資信託を解約(売却)したとき、利益が出ても税金がかかりません。通常であれば、売却益には20%(復興所得税を除く)の税金がかかってきます。

運用益が非課税となるため、寄り効率的に資産を形成できるのです。非課税投資枠は毎年40万円で、非課税期間は最長で20年間となっています。また、対象商品が長期・積立・分散投資に適した投資信託とETF(上場投資信託)に限定されており、初心者でも利用しやすい仕組みに設計されています。

ポートフォリオの完成を目指す

つみたてNISAで資産運用を続けていると、自然に投資についての情報を収集することになるはずです。その過程で、つみたてNISA以外でも自分で国内株式や外国株式、投資信託などを購入したくなるかもしれません。

その場合、ポートフォリオの完成を考慮するのが一般的な投資家のあり方といえます。特定の金融商品に偏ることなく、「複数種類に分散させることでリスクコントロールができる」という考え方です。現金(円や外貨)、株式、債券、投資信託、不動産などに資産を分散させておけば、どれか1種類が暴落してもダメージを最低限に抑えられます。

ポートフォリオの完成のためには、事前の計画と時間的な分散投資を心がけましょう。事前にきっちり計画しておけば、一時的な価格の上下動に心を動かされて行き当たりばったりの投資行動を取る可能性を減らせます。また、一度に多額のお金を複数の商品に投じるよりも、少しずつ計画したポートフォリオの完成を目指した方がリスク分散になるのです。

不動産投資で収入源確保を目指す

金融商品の中で、やや特殊な立ち位置を占めるのが不動産投資です。配当金や分配金があるわけではありませんが、家賃という形で定期的な不労所得を得られるのが最大のメリットになります。一度軌道に乗れば、後は定期的な管理だけで安定収入を得られるのは、資産形成において安心材料となるでしょう。不動産はお金ではなくモノなので、インフレの影響を受けると価格が上昇していく傾向があります。そのため、不動産の購入によってインフレリスクを抑える効果があることもメリットです。

ただし、値下がりする価格の幅が他の金融商品より大きくなりがちなことや、空室リスクがあることも踏まえると、決して簡単な運用対象であるとはいえません。事前に専門家に相談したり、自分なりに情報を集めたりして、自ら考え行動することが求められます。不動産会社や資産運用会社などによる無料セミナーも盛んに行われていますので、まずは参加してみるとよいでしょう。インフレに負けない資産を形成するには、お金について真剣に考え、着実に長期的な視野で行動するしかありません。まずは、1ヵ月の支出を計算し、節約や節税を考えるところから始めてみましょう。(提供:Incomepress


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