米著名投資家ジョージ・ソロス氏が、「大規模な金融危機が近づいている可能性がある」との警鐘を鳴らしている。米によるイランとの核合意破棄、勢力を拡大する反EU主義、ドル高、新興市場に対する投資家の弱気などがその理由だ。

ほかにも、前金融危機を予言したスコットランドの歴史学者ニーアル・ファーガソン氏や経済学者モハメド・エラリアン氏、「ヘッジファンドの帝王」レイ・ダリオ氏など、多数の経済界の著名人が新たな経済危機の予感に懸念を示している。

米国のイラン核合意離脱が引き金となる?

経済危機,ジョージ・ソロス,世界経済
(画像=Getty Images)

2018年5月29日、パリで開催された「European Council on Foreign Relations(ECFR)」の年次集会に参加したソロス氏は、合意破棄と欧米の同盟関係の崩壊が、新興市場の通貨下落など欧州経済に悪影響をおよぼす可能性を警告し、「我々は次の大きな金融危機に向かっているかもしれない」と述べた(ブルームバーグ2018年5月29日付記事)。

米国のイラン核合意離脱は、合意全体を崩壊させる危険性をはらんでいる。この合意は2015年にイラン・米・英・仏・露・中・独の6カ国間で結ばれたもので、イランに対する経済制裁の一部緩和と核開発の制限を条件としている。

しかし米国が離脱した場合、それが引き金となって様々な政治的・軍事的・経済的脅威が起こり得る可能性が懸念される。その影響は、同盟国だけではなく、世界中に広がるかもしれない。

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欧州で吹き荒れる反EU勢力

一連の反EU的な動きに関して「誤った方向に動きかねないと懸念していたことは、すべて誤った方向に進んだ」とコメント。難民問題やポピュリストの勢力拡大につながった緊縮政策、Brexitが示す「領土分裂」などを挙げ「欧州の存続危機は最早ただの言葉のあやではなく、過酷な現実だ」と語った。

Brexitを目前に控え、イタリアでもEU離脱をめぐり国民の意見が割れている。今秋に実施される見込みの再選挙は、EU離脱の是非を問う国民投票の意味合いを持つとの見方が強い 。 ドイツでは極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が国政進出を果たし、2017年の仏大統領選では反EU派のマリーヌ・ルペン氏が支持率を伸ばした。

ソロス氏は、多くの若者がEUを「自分たちから雇用や約束された将来を奪う敵だ」とみなしている近年、「ポピュリストの政治家がこうした若者の憤りを利用し、反EU党や活動を形成している」と述べた(CNN2018年5月29日付記事 )。

ソロス氏が提案するEU崩壊・経済危機回避策

同氏は悲観的な見解を示すと同時に、回避策も提案している。例えばアフリカの難民問題の対応策として、第二次世界大戦後、米国が欧州のために推進した復興援助計画「マーシャル・プラン」を応用するというものだ。ソロス氏のアイデアでは、借入能力の高いEUがアフリカを援助することになる。

すんなりと全加盟国の同意を得られる計画ではないが、国家の関心よりもEUを維持することへの関心の方が高いことは間違いない。しかし「EUは英国が加盟したくなるような連合体へと一変する必要がある」とも付け加えている。

新たな金融危機の震源地は中国?

前回の金融危機を予言したスコットランドの歴史学者ニーアル・ファーガソン氏は、2018年、米不動産業者ダグラス・エリマンと英不動産コンサルティング企業ナイトフランクが共同で発表したレポートで、「経済危機直後の期間」は終わったとし、現在は恐らく「経済危機直前の期間」に移行しつつあると述べた。

前回の金融危機から早々と回復したことが、その理由である。中央銀行、特に連邦準備銀行が応急処置として投入したゼロ金利政策や量的緩和政策が功を成し、市場は素早く金融危機のダメージから回復した。そのため、だれもが「前金融危機は悪い夢だった」と記憶から消そうとしている印象すら受ける。

しかし一足先に利上げに踏みきった米国を筆頭に、EUでも利上げを示唆する動きが目立ち始めている。市場に優しい環境が、徐々に変化しつつあるのは確かだ。

同氏は次の金融危機の震源地が中国になるとみており、中国の熱心な信用創造がなければ、世界経済は今よりはるかに過酷な状況に陥っていたと主張している。ここで焦点が当たるのは、突然不動産市場が低迷した場合、「中国の銀行はそれに耐え得る資本を十分に備えているのか」である。この点については、既にIMF(国際通貨基金)が疑問を唱えている(オブザーバー2018年3月22日付記事) 。

ダリオ氏、エラリアン氏は2019年後半と予想

ソロス氏は次の金融危機がいつ訪れるかについては言及していないが、2019年説を唱える著名投資家や経済学者間が多い。

世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエーツを率いるレイ・ダリオ氏が「2019年後半から景気後退に陥る」と予測し、220億ドル相当の大手欧州企業株をショートポジションで積み上げていることも、2018年2月に報じられている。

ダリオ氏の懸念は、史上空前の規模にまで拡大した所得格差、欧米を中心に拡大するポピュリズム、先進国における生産性の低下などだ(フィナンシャルタイムズ2018年2月16日付記事)。

オバマ前大統領のアドバイザーに任命された著名エコノミスト、モハメド・エラリアン氏も同様の懸念から、2017年5月、根本的な方向転換を行わないかぎり「2年以内に経済危機が訪れる」と警告した(ガーディアン2017年5月13日付記事 )。

こうした予想が現実のものとなるかとりこし苦労で終わるか、現時点では謎につつまれている。前金融危機から10年以上が経過した今、市場が警告に耳を傾けるべき時がきているのかもしれない。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)

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