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5)「情報は株価に反映しているはずだ」と考える

個人投資家,トウシル
(画像=トウシル)

株価下落の背景には、たいてい「悪材料」がある。

この材料が主に株価のリターンを決めるのだと考えた場合、投資家が株式を売ることが有利に働くのは、悪材料が株価に「まだ十分反映していない」場合と、この「悪材料」が市場の参加者が考えているよりも「もっと悪くなる」ことが確実だと考えられる場合だ。

しかし、悪材料の株価への織り込みが「不足なのか」・「行き過ぎなのか」を判断することは、市場参加者の誰にとっても簡単ではない。投資家である、あなた自身にとってもそうだろう。

また、悪材料について、現在市場参加者が予想するものよりも、将来さらに悪化するか否かを判断することも大変難しい。

結局、市場の参加者よりも情報と判断の上で優位に立てるという確度の高い根拠があるのでなければ、「悪材料は、不足か過剰かはわからないが、おおむね現在の株価に反映している」と考えて、これまでもそうして来たように、現在の株価で株式を保有してリスク・プレミアムの獲得を目指すことが「現実的な情報の制約を考えた場合の最適な戦略」となることが理解されよう。

6)「下げ相場にはアクティブ」という言葉に惑わされない

株価が上昇し続けている時には、「一本調子の上昇相場はインデックス・ファンドを持っていればいい」と言い、株価が下落すると「下落相場(ボックス相場)では、投資銘柄を選別するアクティブ・ファンドが有利だ」と言うのは、二昔くらい前の証券会社のセールスマンによくあったことだが、こうした言葉を真に受けて、下落相場を見てからインデックス・ファンドをアクティブ・ファンドに入れ替えるのはやめた方がいい。

下落相場でアクティブ・ファンドが有利という話は、半分嘘で、半分本当だ。

嘘の方から説明すると、市場全体では、アクティブ運用の平均がインデックス運用(時価総額加重タイプの指数の場合)で、インデックス・ファンドの方が、商品としてのファンドの手数料も、ファンド内で掛かる売買手数料も安いのだから、上昇相場・下落相場には無関係にインデックス・ファンドが有利なのだ。

付け加えると、相対的にパフォーマンスの良いアクティブ・ファンドを「事前に」見分けることは誰にとっても困難である。つまり、平均的に劣って、しかも相対的に良いものを選べないのだから、アクティブ・ファンドに投資することは合理的ではないというのが原則的な理屈だ。

さて、別の側面を説明しよう。現実のアクティブ・ファンドは、まず、インデックス・ファンドよりもキャッシュポジションが大きいし、バリュー株(割安株)に投資するものや最小分散ポートフォリオ型の運用(リスクの最小化でポートフォリオを作る)をするものは、インデックス・ファンドよりもβ値(市場全体の変動に対する感応度)が小さいので、下落相場では、インデックス・ファンドよりもマイナスが小さい傾向がある。

だから、「インデックス・ファンドよりも下落相場に強いアクティブ・ファンド」を持つことは可能なのだ。ただ一方で気をつけたいことは、そうしたファンドが長期的に保有した場合にインデックス・ファンドよりも有利だと言える根拠がないことと、もう一つは、「ここまで」が下落相場でも、「これから」が下落相場であるか否かについて投資家は判断ができないのだから、結局、下落相場に強いことを理由にアクティブ・ファンドを買える理由はないことになる。

7)経験則的に「あと1割の下落」を当てても儲けることは難しい

理屈っぽい話の次に、いきなり筆者の個人的な「経験則」で恐縮だが、過去にバランス・ファンドを運用したり、年金運用のアセット・アロケーションを考えたりする仕事をして来た経験から言って「これから1割は株価が下がるだろう」と予想して、これが上手く的中した場合でも、「売って・買い戻す」一連のアセット・アロケーションの変更をプラスの効果に持っていくことは案外簡単ではない。

株価下落が当たっても、10%下落する手前までであるケースもあるし、10%下落が達成されても、その後どの程度下落するのかわからないので、心理的には直ちに買い戻せる訳ではない。

加えて、もちろん、売るにも買い戻すにも手数料とマーケット・インパクトのコストが掛かるので、10%の下落分をきっちり利益にすることなどできない。

「ありそうだ」とイメージされるのは、「売った株価から、…、5%下げて、10%下げて、11%まで下がった。しかし、どこまで下がるのかと様子を見ているうちに、8%下げの株価まで戻ってしまった。…。10%の株価への下げはたぶんあるだろうと思いさらに様子を見ていたら、5%、4%下げの株価水準に戻って来てしまったので、慌てて買い戻すと、マイナスにはならなかったが、殆ど儲からなかった…」といったケースだ。そして、これは割合ましなケースなのだ。

現実には、「下がる」と思った株価が上がることもよくあることだ。「ここまでは、下げ相場だ」ということは確実にわかったとしても、「これからも、下げ相場か?」について判断する確度の高い方法はない。

マーケットのタイミングを利用しようとする勝負は割りが悪い。年金運用など、機関投資家の世界では半ば常識なのだが、それでもファンドマネージャーはマーケット・タイミングで勝負したいという誘惑に駆られることがある。

プロであっても素人であっても、自分が行おうとしている賭の有利・不利については理性的に判断して、その判断に従うことが適切な場合が多い。

8)「仮想敵」を作って売りの誘惑と戦う

一般論として「正しいアドバイス」は、「下げ相場では、リスクと理屈!」、すなわち、自分の適切なリスクについて点検して、理屈の教える損得に従って行動するということに尽きる。多くの場合、以下のような結論になるはずだ。

◎結論

ーー 現在の株価にはおそらく現在利用可能な情報が反映しており、そうでない場合も、悪材料への反応が不足なのか・過剰なのかは分からないし、今後の材料についても他人よりも確かに分かる訳ではない。

リスク・プレミアムの獲得を目指して投資を続ける場合、株式やファンドを長期的に保有し続ける方が有利だ。リスクの保有形式は、手数料面で圧倒的に有利で広範な分散投資が行われているインデックス・ファンドの保有でいい。

加えて、今後の下げ相場を予想して、いったん売って、下がった株価で買い戻そうとする行動は割が悪い賭だ。結局、現在の投資をそのまま続けるのが得策だ。ーー

インデックス投資ナイトの参加者の多くが賛成し実行するであろう「内外株式のインデックス投資の継続」が現実的な正解だと考えていいだろう。

さて、理性的には、以上のような判断ができるとしても、下落相場で感情を揺さぶられた場合に、感情面で何らかの対策を持ちたいと思う人が少なくないかも知れない。

こうした方には、「何かを信じて、ついて行く」というアプローチではなく、むしろ「正しくない相手を仮想敵として、自分の方針を以て戦う」というくらいの心の持ち方をおすすめしたい。

前述のように、過去のデータや世界経済の成長などの理論的に脆弱な「絶対」を頼ろうとすると、かえって不安が増す可能性が大きい。論理のレベルで言い得るのは、皆が株価の下落を「嫌な感じだ」と思うなら、おそらく株価形成にはリスク・プレミアムが含まれているだろう、という程度のことなのだ。

加えて、インデックス投資ナイトでは、竹川美奈子氏が、「誰かを、信じてついていこうとするのはダメですよ」とおっしゃっていたが、これはまさにその通りだ。判断の責任を他人に転嫁したところで、自分がその他人を正しいと判断したことの当否は疑問として残るし、その人間をどのくらい信用できるのかという「程度の問題」が自分には残る。例えば、全財産を預けるくらい信用するのか、財産の半分を任せたいくらいなのか、という判断は結局自分がしなければならない。そして、竹川氏が例示したように、信じていた人物が、不適切な判断やビジネスの方向に走り出すケースもあるのだから、油断はできない。

他人を頼るのではなく、むしろ、批判すべき他人を見つけて、「正しい理解を持っている自分」を対峙(たいじ)させようと考えるくらいが、気の持ち方として有効な場合が多い。

ある意味では残念なことだが、あえて言っておこう。普通の人にあっては、「皆で仲良く」とか「社会のために」といった言わば「善の感情」よりも、「あいつには負けたくない」とか「私は間違いを許さない」といった「悪の感情」の方がモチベーションの支えとしては強力に作用しやすい。偽悪的な自己啓発書のような言い草で恐縮だが、特に創業経営者などの成功者の多くが、こうした感情を利用してビジネスに徹してきたように見える。大金持ちが、人格的にも立派な事を言い、自分が元から立派な人格だったと思い込むようになるのは、たいてい大金持ちになった後のことだ。

この点を考えると、間違った考え方や、投資行動として損な例などを知っている方が、正しい投資だけを知っているよりも、適切な投資行動を実行しやすい。

通俗的な意味では「性格が悪い」方が、投資には向いているかも知れない(ビジネスの場合多分もっとそうだろう)。こうした方には、悪い性格を大いに利用して儲けた後で、「いい人」にモデルチェンジして大いに社会貢献してくれることを期待したい。

最後に一言、筆者が今年のインデックス投資ナイトで言ったことを付け加える。「万一、投資で損をしても、お金で済む問題なのだから、いいではないか!」。投資家には、このくらいの割り切りを持って投資に臨んでもらいたい。人生には、お金よりも重要な問題がたくさんあるのだから。

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山崎 元(やまざき はじめ)
楽天証券経済研究所  客員研究員
1958年、北海道生まれ。東京大学経済学部卒業。三菱商事→野村投信→住友生命→同信託→シュローダー投信→バーラ→メリルリンチ証券→パリバ証券→山一證券→DKA→明治生命→UFJ総研と12回の転職を経て2005年より現職。

(提供=トウシル

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