インデックス投資ナイト2018

個人投資家,トウシル
(画像=トウシル)

さる7月7日(土)、渋谷の東京カルチャーカルチャーで「インデックス投資ナイト2018」が開催された。主にインデックス投資家が集まって、投資のあれこれについて、飲み食いしながら大いに語り合う集まりで、ざっと200席のチケットが今年も発売後数分の争奪戦の下で売り切れたという人気のイベントだ。

ご縁があって、筆者は初回から登壇させてもらっているが、今年は、インデックス投資に詳しいFPのカン・チュンド氏の司会の下で、金融ジャーナリストの竹川美奈子さんとご一緒に「インデックス投資を継続するためのメンタリティ」というテーマの対談に参加した。

ここのところ、内外の株式市場が軟調だ。iDeCoや一般NISA、つみたてNISAなどの新しい制度の影響もあり、最近になって投資を始めた人にとっては、はじめて経験する「下げ相場」かも知れない。今、投資を続ける上での心構えについて論じることは、大変いいタイミングであったと言えよう。

さて、筆者は、もちろんこのテーマについて事前に考えていたし、自分ではいいことを言ったつもりなのだが、話し手も聞き手もかなりお酒の回っている最終盤のプログラムだったことでもあり、改めて、下落相場に直面した個人投資家が考えるべき事・実行すべき事を8カ条にまとめてみた。

ところで、この対談のテーマは、投資を継続することがいいことであるとの前提で設定されたもののようにみえる。しかし、投資を続けることは、常に本当にいいことなのだろうか?

読者は、投資を続ける方がいい理由を他人に説明できるだろうか。それとも、実は、投資を続けない方がいい場合もあるのだろうか。後者の場合があるとすれば、それは、どのような場合なのだろうか? 以下の8カ条を理解する上で効果的な問なので、ぜひ考えてみて欲しい。

【下落相場で個人投資家が考えるべき8カ条】

1)まず「リスク」を、次に「理屈」を考える

投資家の皆さんには、「下がった時には、リスクと理屈!」と覚えて欲しい。

相場下落時に限らないが、投資家にとって最も大切なことは、「適切な大きさのリスクを、適切な形で持つこと」であり、特にリスクの大きさの確認が重要だ。株価が下がったり、為替レートが円高に振れたりといった変化があって、マーケットが気になる時には、ぜひ、自分が取っているリスクの大きさが適切なのか否かを改めて点検してみて欲しい。

問題のある典型的な場合は、これまで上手く行っていた事が手伝って、自分に取って不適切に大きなリスクを取ってしまっているケースだ。一方で、少数かも知れないが、本来ならもっとリスクを取ってもいいはずなのに、リスクが小さ過ぎるケースもあることを知っておいて欲しい。後者の場合、たまたま遭遇した下落相場はリスク・ポジションを積み増すいいチャンスかも知れない。

自分が取っているリスクの大きさは適切なのだと納得したら、次に行うべき事は、「投資とはどういう行為なのか」、「株価はどのように形成されるのか」、「長期のバイ・アンド・ホールドにはどのような意味があるのか」、「情報は株価にどのように反映するのか」、といった根本的な事柄に関する理屈を確認した上で、自分の投資をどうしたらいいのかについて考える事だ。

この際に適切な問は、「私も含めて誰でも情報と判断力には制約がある。この制約を前提として、私にとって最も適切な投資行動とはいかなるものであるか?」である。

2)リスクは「360万円」を単位に考える

たとえば、3,600万円の資産を保有している投資家がいるとして、この人が下落相場で360万円ほど資産額を減らすとしよう。当面の生活に対して影響がない場合が多かろうが、小さくない損失にも見える。この状態をどう解釈したらいいのだろうか。

仮にこの人が65歳で引退して95歳までの「老後」の生活を送るとした場合、その30年間は360カ月だ。つまり、資産の360万円の減少は、年金などに追加して老後に取り崩して使うことができるお金が「一月あたり1万円」減るということだ。先の投資家の場合なら、損失前には老後に一月当たり10万円の資産取り崩しが可能であったものが、一月9万円に減る。

老後の資産取崩額の一月1万円の減少に耐えられるということは、360万円の損失の可能性を許容できるということであり、内外の株式のインデックス・ファンドに投資しているような場合であれば、1年後の最大損失を投資額の3分の1と見込むとして、360万円×3=1,080万円くらいまでのリスクを取ることができるということだ。

資産額の大きさによって変化する事が多いだろうが、老後のひと月あたりの取崩額の減少について、2万円まで耐えられるという方なら、2×360万円×3=2,160万円までのリスク資産投資が可能だということになる。

ただし、この計算は、個別株への投資や、特徴のあるアクティブ・ファンド、新興国株式などが顕著である。より大きなリスクのリスク資産ではなく、内外(外国株式は先進国中心)の株式のインデックス・ファンドのような分散投資の効果が大きな投資対象に投資していることを前提としている。

なお、「リスク資産」として、筆者が現在良いと思っている投資比率と投資対象は

●外国株式(先進国株式中心)のインデックス・ファンドを60%
●TOPIX連動のインデックス・ファンド(ETFを含む)を40%

の組み合わせだ。

リスク資産への配分を決めるには、リスクだけでなく期待リターンも勘案する必要があるが、これは諸説あり絶対的な意見はないとしても、多くの機関投資家が使っている期待リターンから考えて、「年率5%」くらいの数字を想定しておいていいだろう。

3)株価下落の「嫌な感じ」こそが投資の儲けの源泉だと理解する

さて、さきほど株式の期待リターンを年率5%で考えるといいと申し上げた。現在の無リスクな金利水準を0%とすると、なぜ5%も高いリターンが期待できるのだろうか。

それは、株式に投資する人が、株式のリスク負担に対してこれを補償する追加的なリターン(「リスク・プレミアム」と呼ぶ)を織り込んで株価を形成すると期待できるからだ。

この際に重要なことは、企業や国の利益成長や経済成長の予想は、株価が形成される際に織り込まれているはずだということだ。つまり、経済成長率が高い国の株式も、経済成長率が低い国の株式も、将来の成長率の予想は株価に反映しているはずであり、そうだとするなら、現在の株価でそれぞれの国の株式を保有することの期待リターンは、それぞれのリスクに見合ったリスク・プレミアムを含む期待リターンであり、どちらのリターンが高いと一概に言えるものではないという点だ。

そうなのだとすると、株式市場に参加している人たちの株価が下がった時に持つ「嫌な感じ」こそが、株式の高いリターンの源泉なのだということが分かる。

実は、「資本主義や世界経済の成長」も皆が分かっていて高い株価を付けているなら、それ自体が株式への特別に高い期待リターンを根拠づけることができるものではないし、「過去の株式の高いリターン」といったデータも今後の株式リターンが高いことを確証するには全く不十分なのだ(「長期」について統計的信頼を得るためには、「超長期」あるいは「超々長期」くらいの同一条件のデータが必要だ)。

ロジカルに考えると根拠の乏しいものを無理に信じようとした場合、(賢い人ほど強く)根拠の乏しさが気になって仕方がなくなる。

株式に対して高いリターンを期待できる最大の根拠は、株価が下落した時に誰でも「嫌な感じ」がすることなのだ。あなたが、「本当に、嫌な感じだ!」と思い、それが他人にも当てはまるだろうと想像できるのだとすると、それ以上に確実な、株式の高いリターンの根拠は存在しない。

もちろん、あなたは、「こんなに嫌な感じなので投資を止める」と考えてもいいし、「こんなに嫌な感じを他人も持つのだろう。それなら、投資を続ける方が有利ではないか」と考えてもいい。勿論、投資家に向いているのは後者なのだが、どうしても嫌な場合には無理をしなくていい。投資のリターンが無くても、計画的な生活をするなら人生に問題はない(このような当たり前のことを、金融機関はなかなか教えてくれないのだが)。

4)「売らずに持ち続けること」の有利性を理解する

たとえば、米国の著名な投資家でバークシャーハザウェイ社のCEOであるウォーレン・バフェット氏は長年卓越した運用パフォーマンスを得たが、その理由の一つを彼が持ち株をなかなか売らなかったことに求めていいだろう。

持ち株を売って、利益に課税されると、すぐに再投資したとしても、複利運用の効果が小さくなってしまう。

また、持ち株を全部ないし一部売って株式の保有リスクを低下させた時期に株式にプラスのリターンが発生することは大いにあり得るし、平均的にはそうなる可能性が大きい。「嫌な感じがするから様子を見よう」といった弱い根拠で株式のリスクを低下させると、その間に、パフォーマンスを取り損なう場合が少なくない。

加えて、売買にコストが掛かるので、「売って・買い戻す」行動が平均的に不利に働くことは言うまでもない。

バフェット氏は、割安な株価で買える銘柄を買って、その銘柄の株価が適正価格まで上昇したら売却するベンジャミン・グレアム式のバリュー投資から、強い競争力を持っている会社をできれば割安な株価で買ってその後持ち続ける投資スタイルに、割と早い時期に転換した。米国の株式市場が長期にわたって高いリターンを上げていたことを思うと、彼の行動が適切であったことがわかる。

運用成績を競うゲームを考えてみよう。例えば、S&P500をベンチマークとするとして、1年目にS&P500を1割上回る持ち株の上昇があったとしよう。この後、持ち株をずっと持ち続けてこれがS&P500と同じパフォーマンスを上げ続けたとすれば、S&P500がその後平均的にプラスのパフォーマンスをあげるとするなら、「通算のパフォーマンス」はS&P500に対して有利であり続けることができる。

一般投資家は、過去のバフェット氏のように競争力のある銘柄を見極めることができないかも知れないが、代わりにインデックス・ファンドを持ち続けることができる。

山崎 元(やまざき はじめ)
楽天証券経済研究所  客員研究員
1958年、北海道生まれ。東京大学経済学部卒業。三菱商事→野村投信→住友生命→同信託→シュローダー投信→バーラ→メリルリンチ証券→パリバ証券→山一證券→DKA→明治生命→UFJ総研と12回の転職を経て2005年より現職。

(提供=トウシル

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