人が住んでいない空き家が増えています。総務省統計局の「住宅・土地統計調査」によると、平成25年の空き家の数は820万戸、住宅総数に占める空き家の割合は13.5%と、いずれも過去最高になっています。

空き家が増えていることで、空き家を相続するケースも増えていくことが予想されます。相続税は、人が住んでいない空き家を相続した場合でも課税されます。しかも、家族が住んでいる家を相続する場合に比べて税額は割高になってしまいます。

この記事では、空き家の相続税対策について解説します。ただし、実際に空き家を相続することになってからではできる対策は限られてしまいます。効果的な対策をするためには、事前に準備しておくことが必要になります。

1.人が住んでいない家であっても相続税はかかる

空き家,相続税対策
(画像=税理士が教える相続税の知識)

人が住んでいない家であっても、土地と建物という財産であることに変わりはなく、空き家を相続した人には相続税が課税されます。

亡くなった人が生前住んでいた自宅を相続する場合は、一定の要件を満たすことで「小規模宅地等の特例」が適用できます。自宅の土地のうち330㎡までの部分の相続税評価額を80%減額して、相続税を大幅に節税できるメリットがあります。

しかし、人が住んでいない家では以下の理由から小規模宅地等の特例は適用できず、相続税評価額を減額することはできません。結果として、家族が住んでいる家を相続する場合に比べて相続税は割高になってしまいます。

亡くなった人が空き家として所有していた家
→ 亡くなった人の自宅ではないため適用不可
住んでいた人が亡くなったことで空き家になる家
→ 誰も住んでいなければ適用要件を満たさないため適用不可
(ただし、配偶者が相続した場合、または持ち家のない相続人が相続する場合は適用できます)

小規模宅地等の特例については、「相続専門税理士が詳しく解説!『特定居住用宅地等』(小規模宅地等の特例)とは」を参考にしてください。

2.人が住んでいない家の相続税対策

これから、人が住んでいない空き家の相続税対策を4つご紹介します。相続が始まってからではできる対策は限られていて、相続税を負担せざるを得ない場合もありますが、相続した空き家でも売却時に所得控除を受けることができます。この相続した空き家の売却時の所得控除も対策の一つとしてご紹介します。

【相続発生前に行う対策】

  • 賃貸に出して小規模宅地等の特例を適用する(相続の3年以上前)
  • 生前の売却で特例の控除を受ける

【相続発生後に行う対策】

  • 空き家に住んで小規模宅地等の特例を受ける
  • 相続した空き家の売却で所得控除を受ける

2-1.【相続発生前】賃貸に出して小規模宅地等の特例を適用する

生前にできる対策として、空き家を賃貸に出して小規模宅地等の特例を適用することがあげられます。小規模宅地等の特例は亡くなった人が保有していた賃貸物件にも適用でき、相続人が賃貸を継続すれば200㎡までの土地の相続税評価額を50%減額することができます。

この対策は生前でなければできません。しかも平成30年4月1日以降は、相続開始までに3年以上賃貸を継続していなければならないという条件が加わりました(※)。亡くなる直前に賃貸に出した場合や、空き家の状態で相続した家を賃貸に出した場合では小規模宅地等の特例は適用できません。

(※)相続開始の3年以上前から事業的規模で賃貸を行っている場合は、3年以内に賃貸を始めた物件についても小規模宅地等の特例が適用できます。詳しくは「節税対策が水の泡に!?小規模宅地等の特例の平成30年改正ポイント」の中の「3年以上前から事業的規模で賃貸していれば引き続き特例の対象」を参照してください。

2-2.【相続発生前】生前の売却で特例の控除を受ける

空き家を相続して割高な相続税を課税されるぐらいであれば、相続が起きる前に空き家を売却してしまうことも選択肢になります。空き家の相続税対策としてだけでなく、生前に不動産を換金することで相続をスムーズにできるメリットもあります。

ただし、相続税評価額が実際の売却価格より低い不動産を現金に換えると相続税が高くなる可能性もあり、税理士によるシミュレーションが欠かせません。また、自身が亡くなることで自宅が空き家になるような場合では、今住んでいる自宅を売却することになり、新たな住まいを確保しなければなりません。

今住んでいる自宅を売却する場合

今住んでいる自宅を売却する場合は、売却益に対する所得税を節税することができます。

所得税の「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」では、自身が住んでいる自宅を売却したときに譲渡所得(売却益)から3,000万円まで控除することができます。自宅を売却した年の1月1日時点で自宅の所有期間が10年を超えていれば、軽減税率を適用することもできます。

マイホーム売却の所得控除や軽減税率の詳しい内容は、国税庁ホームページのタックスアンサー(よくある税の質問)を参照してください。

No.3302 マイホームを売ったときの特例
No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例

すでに空き家になっている家を売却する場合

すでに空き家になっている家を売却する場合でも、売却益に対する所得税を節税できる場合があります。以前住んでいた空き家を住まなくなった日から3年目の年の12月31日までに売却する場合は、3,000万円の特別控除と軽減税率が適用できます。

2-3.【相続発生後】空き家に住んで小規模宅地等の特例を受ける

相続が始まってからの対策としては、持ち家のない相続人が空き家に住むことで小規模宅地等の特例を適用することがあげられます。ただし、以下の要件があります。

  • 亡くなった人が生前にその家に住んでいた
  • 亡くなった人に配偶者や同居の親族がいない
  • 相続人は相続の3年前までに「自己または自己の配偶者」「3親等以内の親族」「特別の関係がある法人」が所有する家に住んだことがない
  • 相続人はその家を過去に所有したことがない
  • 相続した宅地を相続税の申告期限まで所有する

この要件は持ち家のない相続人を対象にしていることから、「家なき子の特例」と呼ばれています。

2-4.【相続発生後】相続した空き家の売却で所得控除を受ける

「家なき子の特例」が適用できなければ、残念ながら相続が始まってから空き家の相続税を節税することはできません。しかし、相続した空き家を売却するときに売却益に対する所得税を節税することができます。

「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除の特例」(空き家譲渡特例)は、平成28年度税制改正で創設された特例です。相続した空き家を売却した場合は、譲渡所得(売却益)から3,000万円まで控除することができます。ただし、次のような適用要件があります。

  • 家屋と土地の両方を相続していること
  • 売却価格が1億円以下であること
  • 相続開始から3年を経過する年の12月31日まで、かつ、平成31(2019)年12月31日までに売却すること
  • 家屋は以下の要件を満たすこと
     ・昭和56年5月31日以前に建築された
     ・区分所有建物登記がされている建物(マンションなど)でない
     ・相続の直前において被相続人が1人で住んでいた
     ・相続してから売却するまで居住、貸付、事業に使用されていない
     ・現行の耐震基準に適合するリフォームが行われている

土地は長男、家屋は長女といったように別々に遺産分割すると、空き家譲渡特例は適用できないため注意しましょう。また、支払った相続税を取得費に加えて譲渡所得を計算する取得費加算の特例と併用することはできません。

空き家譲渡特例に関する注意点は、「空き家譲渡特例の適用にあたっての注意点|チェスターNEWS」を参照してください。また、制度そのものに関する詳しい内容は、国税庁ホームページのタックスアンサー(よくある税の質問)を参照してください。

No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

3.まとめ

人が住んでいない家を相続した場合も相続税が課税され、税額は人が住んでいる自宅を相続した場合に比べて割高になってしまいます。この記事では空き家の相続税対策についてご紹介しましたが、どの方法が最適であるかについては個々の状況によって変わってきます。

空き家を相続した方、あるいは自身が亡くなることで空き家の相続問題が予想される方は、ぜひ相続に詳しい税理士に相談して空き家の相続税対策を検討してください。

(提供:税理士が教える相続税の知識