(本記事は、渡邊浩滋氏の著書『税理士大家さん流キャッシュが激増する無敵の経営』ぱる出版、2018年11月13日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
「低い税率」と「支出を伴わない控除」で劇的にキャッシュを残す
●お金は出るけど実質減らない3つの節税
代表的なものを3つ紹介しましょう。
(1)ふるさと納税
ふるさと納税は、地方自治体に寄付することで所得税・住民税から控除される制度です。
一定の算式により計算された上限(課税所得金額の2%程度)までは、2,000円の負担で全額所得税・住民税から控除されます。
ふるさと納税をしても、支出金額は変わらない(税金で払うか、寄付金で払うかの違いです)のですが、寄付をした地方自治体から特産品などの返戻品をもらえる点で、実質的にはお金が減らさずに、特産品などがいただけることになります。
(2)小規模企業共済
小規模企業共済とは、個人事業主の退職金制度です。
掛金として積み立てた金額を将来共済金として受け取れます。
掛金は月7万円が限度(年84万円)です。
その掛金を支払う場合、全額が所得控除になります。
支出はしますが、共済金として積みあがっていきます。
将来、廃業や役員の退任などにより共済金を受け取ることが可能です(一時所得や退職所得などで所得税が課税されます)。
なお、加入者が死亡した場合には、家族に共済金が支払われることになります。
この共済金を相続人が受け取る場合には、「500万円×法定相続人の数」分だけ非課税になります(この金額を超える部分は相続税の課税対象になります)。
この点で、お金は出て行くけれども、お金が減らないことになります。
加入者は、事業的規模の大家さんか、会社の役員である大家さんが対象になります。
事業的規模があっても、サラリーマン大家さんは加入できないことになっていますのでご注意ください。
(3)確定拠出年金
確定拠出年金とは、ひと言でいうと、「年金の上乗せ」です。
毎月一定額を拠出して、年金として積み立てておく制度です。 掛金が全額所得控除になる点で、小規模企業共済と同じ効果があります。
ただし、原則60歳になるまで解約できないなど、いざというときに資金が使えなくなってしまう点で注意が必要です。
小規模企業共済に加入できないサラリーマン大家さんであっても、加入することができるため、節税策としては有効かと思いますが、複雑な制度でもあるため、メリット・デメリットを理解した上で加入するようにしましょう。
【確定拠出年金のメリット・デメリット】
・メリット
1.掛金が全額所得控除になる
2.運用益が非課税になる
3.複利で運用できる
・デメリット
1.運用コストがかかる
2.運用によっては、元本割れをする可能性がある
3.60歳になるまで解約ができない
法人化すると節税の可能性は無限に広がる
●個人節税に限界を感じたら法人化
個人の賃貸経営の場合、事業規模が拡大して収益が増えてくると、超過累進税率であることから、税金も高くなります。
しかし、個人の「お金が出ていかない節税」は、先に挙げたものくらいしかありません。
節税策が限られてしまうのです。
そこで、個人での節税策に限界を感じる所得になった場合、法人化を検討するようにしましょう。
法人化といっても、一体何をするのか?
よくわからなくて、躊躇する方も多いのではないでしょうか。
法人化とは、一言で言うと、収入(所得)の受け皿を変えるということです。
賃貸物件自体には、物理的な変化は何もありません。
法人を作って、賃貸物件から得られる収入(所得)の一部、もしくは全部をその法人に移転させることです。
では、法人に収入(所得)を移転させることで、どんな節税ができるでしょうか。
それは、主に3つあります。
・法人の3つの節税効果
1.法人の低い税率を利用する。
2.所得分散、給与所得控除が使える。
3.法人特有の節税策が使える。
それぞれ見ていきましょう。
(1)法人の低い税率を利用する
平成30年度の資本金1億円以下の普通法人の実効税率(法人税、法人事業税、法人住民税など実際に負担する税額の所得金額に対する割合)は次になります。
・普通法人の実効税率
個人の場合、所得が330万円を超えると所得税・住民税で、30%を超える税率になるため、所得が高くなればなるほど、法人の方が有利になります。
例(1) 個人で所得2,000万円の場合:
個人の所得税・住民税・事業税の合計 約817万円
例(2) 個人所得1,000万円、法人所得1,000万円に分けた場合:
個人の所得税・住民税・事業税の合計 約316万円
法人の法人税・住民税・事業税の合計 約270万円
→個人・法人の合計 約586万円
となり、例(1)と例(2)の差額は下記の通りです。
節税額(差額)231万円
※役員報酬は支出していない所得で計算しています。平成30年4月1日以後事業年度の税率で計算しています。
(2)所得分散、給与所得控除が使える
個人事業主の場合、基本的には実際に使った経費しか控除することはできません。
一方法人の場合は、給与を支給することで、支払った給与は原則、法人の損金にできます
そして給与を受け取った個人は、給与所得で課税されます。
給与所得の場合、給与額に応じた「給与所得控除」という一定額を差し引いた額に税金がかかります。
法人化して自分自身に役員報酬を支給し、家族に給与を支払う形にすれば、給与所得控除を受けることが可能になるのです。
つまり、実際に経費を使わなくても給与から給与所得控除額を差し引くことで課税対象となる所得額が少なくなるというわけです。
所得税は、所得が上がるほど税率も上がる超過累進税率なので、給与を支払う人数を増やして所得を分散すれば、税率を低く抑えることができます。
なお、名ばかりの役員に給与を支払うと、税務署から否認される可能性があります。
役員としての実態が必要になります。
(3)法人特有の節税策が使える
個人では節税策が限られていましたが、法人では、さらに節税の幅が広がります。
ただし、これらの節税効果は大きなものとは言えません。
大きなものにしようと、支出を増やすとお金が残らなくなる可能性があります。
(1)、(2)の効果で十分法人化の効果があると判断した後に、これらの節税策を検討した方がよいでしょう。
最初から、「この節税策ありき」で法人化するかしないかの判断にしてしまうと、お金の残らない法人をつくることになりかねません。
注意しましょう。
法人特有の節税策一覧は下記のとおりです。
【支出のない控除】
〇社宅家賃
自宅を賃貸している場合、会社契約に変更して社宅とすれば、家賃を法人の損金にできます。ただし、一定の家賃を会社に支払う必要はあります。
〇出張日当
会社で旅費規程等を作成すれば、社長であっても出張に出かけた際の日当を支払うことができ、法人の損金にできます。
日当を受け取った個人は非課税です。
〇退職金
会社で退職金規程等を作成すれば、社長に退職金を支払えます。
退職金は会社の損金になり、受け取った個人は退職所得となります。
退職所得は勤続年数によって計算される退職所得控除額によって多額に所得を圧縮でき、さらに控除後の所得を1/2にできます。
ただし、平成24年度税制改正により、勤続年数が5年以下の役員等は退職金を受け取った際、1/2にすることはできなくなりました。
【課税の繰り延べ】
〇生命保険の加入
個人の場合、生命保険料控除で最大4万円の控除のみですが、会社で保険をかけた場合は、保険の種類等によって保険料は全額損金になります。
〇経営セーフティー共済の加入
経営セーフティー共済は、個人の不動産所得しかない場合は加入しても経費計上できませんが、法人であれば経費に計上することが可能です。
セーフティー共済とは、取引先が倒産し、売掛金が回収困難になった場合に、貸付けが受けられる共済制度です。
貸付けは、掛金総額の10倍(最高8,000万円)までの範囲内で、無担保、無保証人、無利子です。
一定の規模(中小企業)で、引き続き1年以上事業を行っている個人又は法人のみ加入できます。
個人で賃貸経営のみを行っている場合、加入はできますが、掛金を必要経費に計上することはできません。
掛金を必要経費に計上することができるのは、個人の場合、事業所得者に限られ、不動産所得者は、必要経費が認められていません。
したがって、賃貸オーナーは、原則として、法人形態で経営している場合のみ掛金を経費(損金)にすることができます。
以下は加入のメリットです。
掛金として支払った全額が必要経費(損金)になります。
掛金は、月額最大20万円までです。
ただし、掛金総額800万円までが積立限度額で、それ以上の金額は掛けられません。
解約した場合、掛金月数に応じて解約手当金が受け取れます
なお、解約手当金は、全額収入になりますので注意です。