トウモロコシが人類を利用している?
食品だけではない。現在では工業用アルコールや糊もトウモロコシから作られており、ダンボールなどさまざまな資材も作られている。
最近では、限りある化石資源である石油に代替するものとして、トウモロコシから燃料であるバイオエタノールも作られている。
21世紀の現代、私たちの科学文明は、トウモロコシ無しには成立しないほどだ。もしかすると、どんなに科学技術を誇っても、私たちの文明もマヤの文明と本質的にはあまり変わっていないのかも知れない。
もっとも、科学技術が進んだ現代では、トウモロコシはさまざまな品種改良が行われている。最近では遺伝子組み換え技術も盛んに行われて、改良を加えられた新しい品種が次々に生み出されている。
しかし、どんなに改良が進められても、トウモロコシはトウモロコシである。遠い昔に、「トウモロコシ」という、他の植物とはまったく性質の異なる奇妙な植物を作りだすような劇的な改良は行われていない。いや、そんなことは現代の科学技術をもってしてもできないのだ。
それでは、遠い昔、どのようにしてトウモロコシは作りだされたのだろうか。
もしかすると、本当に宇宙からもたらされたのだろうか。
謎は深まるばかりである。
そして、人間はトウモロコシを栽培し、利用していると思っているかも知れないが、トウモロコシからしてみれば、今や人間の手によって世界中で栽培されている。
植物は分布を広げるために、さまざまな方法で種子を散布する。そう考えれば、トウモロコシほど分布を広げることに成功した植物はない。
もしかすると、トウモロコシの方が人間を利用しているのかも知れない。
(『世界史を大きく動かした植物』より一部再編集)
稲垣栄洋(いながき・たかひろ)植物学者
1968年静岡県生まれ。静岡大学農学部教授。農学博士、植物学者。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て現職。主な著書に『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『植物の不思議な生き方』(朝日文庫)、『キャベツにだって花が咲く』(光文社新書)、『雑草は踏まれても諦めない』(中公新書ラクレ)、『散歩が楽しくなる雑草手帳』(東京書籍)、『弱者の戦略』(新潮選書)、『面白くて眠れなくなる植物学』『怖くて眠れなくなる植物学』(PHPエディターズ・グループ)など多数。(『THE21オンライン』22018年07月17日 公開)
【関連記事 THE21オンラインより】
・日本を作った「イネ」。そのすごい力とは?
・コロンブスがトウガラシを「ペッパー」と呼んだ意外な理由
・「ジャガイモ」を愛したマリー・アントワネットの悲劇
・かつてトマトは「赤すぎる」と忌み嫌われていた?
・「食べすぎ」がうつを引き起こす!?