ボストンカレッジの退職研究センター(Center for Retirement Research at Boston College)が、定期的にナショナル・リタイアメント・リスク・インデックス(以下、NRRI)を公表している。NRRIは、全世帯に占める退職後の生活水準が退職前より10%以上低下する世帯の割合である。各時点で退職した世帯を対象としているのではなく退職前世帯(勤労者世帯)を対象としており、退職時点の所得や資産状況の予測値に基づき算出されている。

リタイアメント・リスク
(画像=PIXTA)

同センターの報告1によると、1983年におけるNRRIが31%であったのに対し、2016年におけるNRRIは50%にまで上昇している。つまり、2016年において米国の勤労者世帯の半数は、退職後に生活水準を大きく落とさざるを得ない状況に陥っていると言い換えることができる。

生活水準の低下をリスクと捉えている点が興味深い。同センターは、世帯収入に応じて世帯を3分割し、グループ別の退職後に生活水準を大きく落とさざるを得ない状況に陥っている世帯の割合も公表している。その割合は、世帯収入が高いグループから順に、41%、54%、56%(2016年時点)である。世帯年収が低いほどこの割合が高いことは想定の範囲内であろうが、世帯収入が最も高いグループの割合の高さ(41%)は意外ではないだろうか。

様々な媒体で老後に備え用意すべき金額の目安を眼にするが、これは概して平均的な高齢世帯の生活を送るために必要な金額である。貯蓄額が目安より少なくても、退職前から慎ましい生活をしている世帯なら問題ないが、逆に貯蓄額が目安より多くても、豪勢な生活をしている世帯のリスクは高い。これは、生活水準の低下をリスクと捉えているからである。NRRIが定義するリスクを前提にすると、リタイアメント・リスク軽減のためには収入の一定割合を貯蓄に回すことが必要である。つまり、金額が多い、少ないという貯蓄額よりも、収入に対する貯蓄の割合である貯蓄率が重要となるのではないだろうか。

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(1) Center for Retirement Research at Boston College (2006)” Retirements at Risk : A New National Retirement Risk Index”
Center for Retirement Research at Boston College (2018)” National Retirement Risk Index Shows Modest Improvement In 2016”

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高岡和佳子(たかおか わかこ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

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