個人金融資産(19年3月末):昨年末比6兆円増

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2019年3月末(2018年度末)の個人金融資産残高は、前年比6兆円増(0.3%増)の1835兆円となった(1)。年度末時点としては、これまでの最高であった2017年度末をわずかに上回り、過去最高を更新した。昨年終盤の株価急落によって、時価変動(2)の影響が年間でマイナス15兆円(うち株式等がマイナス16兆円、投資信託は0兆円)発生したものの、年間で資金の純流入が21兆円あったことが残高増加に寄与した。

四半期ベースで見ると、個人金融資産は前期末(昨年末)比で6兆円増加した。例年1-3月期は一般的な賞与支給月を含まないことからフローで純流出となる傾向があり、今回も11兆円の純流出となった。ただし、米利上げ休止や米中摩擦緩和期待によって株価が持ち直したことで、時価変動の影響がプラス17兆円(うち株式等がプラス9兆円、投資信託がプラス5兆円)発生し、資産残高を押し上げた(図表1~4)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

なお、家計の金融資産は、既述のとおり1-3月期に6兆円増加したが、この間に金融負債が2兆円増加したため、金融資産から負債を控除した純資産残高は4兆円増の1512兆円となった(図表5)。

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なお、その後の4-6月期については、一般的な賞与支給月を含むことから、例年資金の純流入が10~15兆円程度発生する。一方、これまでのところ、株価は3月末比で横ばい圏、為替はやや円高に振れているため時価変動の影響は小幅なマイナスに留まっているとみられる。従って、6月末の個人金融資産残高は3月末残高を10兆円強上回ると見込まれる。

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(1)今回、国際収支関連統計の遡及改訂に伴い、2014年1~3月期以降の値が遡及改定されている。
(2)統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記。

内訳の詳細: 定期預金からの流出止まらず、着実に投資が進んでいる領域も

1-3月期の個人金融資産への資金流出入について詳細を確認すると(図表6)、例年同様、季節要因(賞与の有無等)によって現預金が純流出(取り崩し)となった。内訳では、現金と定期性預金が大幅な純流出となった(図表7)。現金からの資金流出は季節要因だが、定期性預金からの純流出は13四半期連続となっており、この間の流出規模は累計で35兆円に達している。預金金利がほぼゼロの状況が続くなか、引き出しに制限のある定期性預金からの資金流出には歯止めがかかっていない。定期性預金の残高はまだ426兆円も残っているため、今後も流出が続きそうだ。

一方、流動性預金(普通預金など)については、従来1-3月期に大幅な純流出になる傾向があったが、近年はその傾向が薄れており、今回も0.2兆円の純流入となっている。定期性預金からの資金シフトが続いているほか、リスク性資産への投資が抑制されていることが背景にある。

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リスク性資産に関しては、代表格である株式等、投資信託ともに約6000億円の純流出となった(図表6)。内外株価の持ち直しに伴う利益確定売りが重荷になったとみられるが、家計におけるリスクテイクの活発化は確認できない。

ただし、全体から見ると規模こそ小さいものの、着実に投資が進んでいる領域も確認できる。一つは外貨預金だ(図表8)。外貨預金は2013年から15年にかけて純流出となっていたが、2016年以降は純流入が目立っており、1-3月期も約2600億円の純流入となった。マイナス金利政策導入後に国内金利が殆どゼロになったことで、金利を求めて一部資金が海外に流れているとみられる。また、リスク性資産ではないが、国債への純流入がリーマンショック後では初となる4四半期期連続を記録したことも、同じく金利を求めた動きと考えられる。個人向け国債には一般的な預金金利(定期で0.01%など)を上回る0.05%の最低金利保証が付いているためだ。

一方、政策的な後押しの効果もじわりと出てきている。確定拠出年金(401k)内の株式等・投資信託は純流入が続いており、近年はやや流入額が拡大している。これは、確定拠出年金を通じたリスク性資産への積立投資が続いていることを意味している。

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その他注目点: 海外勢の国債保有高が過去最高を更新、企業の対外投資は急拡大

2018年度の資金過不足を主要部門別にみると、従来同様、企業(民間非金融法人)と家計部門の資金余剰が政府(一般政府)の資金不足を補い、残りが海外にまわった形となっている(図表10)。2017年度との比較では、企業の資金余剰が12.1兆円の減少、家計の資金余剰が3.4兆円の増加、一般政府と海外の資金不足が各1.4兆円、2.6兆円の減少となっている。企業の資金余剰が大きく減少した理由としては、賃上げと堅調な設備投資の可能性が挙げられる。

3月末の民間非金融法人のバランスシートにおける現預金残高は273兆円とこれまでの最高であった昨年9月末(265)兆円を上回り、過去最高を更新した(図表11)。前年比でみると9兆円増加している。

一方、この一年間の借入金残高の増加幅は18兆円と現預金の増加幅を上回っているため、借入金残高から現預金残高を控除した純借入残高(140兆円)も前年比で9兆円増加している。

また、昨年終盤に急減した企業の株式等保有残高は、3月末で347兆円となり、昨年末から20兆円持ち直した。株価が回復したことで、時価の影響がプラス20兆円発生したことが寄与した。

なお、民間非金融法人による対外投資状況(フローベース)を確認すると、対外直接投資は9.3兆円と昨年10-12月期の3.1兆円から3倍に急拡大し、過去最高を大きく更新した(図表12)。国内製薬大手による総額6兆円の大型海外M&Aが完了したことが影響したものと推測される。

また、対外証券投資も2.5兆円と昨年10-12月期の1.5兆円から回復した。やや長いトレンドで見ても、2016年頃から企業の対外証券投資が活発化している。

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国庫短期証券を含む国債の3月末残高は1125兆円で、昨年末から14兆円増加した。その保有状況を見ると(図表13)、日銀の保有高が昨年末から8兆円増加し、全体に占めるシェアも43.2%(昨年末は43.0%)へとやや上昇した。日銀は2016年秋以降に国債の買入れペースを減額させたため、ペースこそ鈍っているものの、金融緩和の長期化に伴って保有高の増加が続いている。

また、海外部門の3月末国債保有高は143兆円(昨年末は138兆円)、全体に占めるシェアは12.7%(同12.4%)とそれぞれ昨年末を上回り、過去最高を更新した。1-3月期の増加額は5兆円と昨年10-12月期の9兆円から減速したものの、速いペースでの増加が続いている。海外勢はドル調達コストの関係で有利な条件で円を入手できる状況が続いており、超低金利にもかかわらず国債への資金流入傾向が続いてきた。さらに、1-3月期には主要中銀のハト派化によって世界的に国債の利回りが低下したが、もともと超低金利の日本国債の利回り低下は小幅に留まったことで、日本国債の相対的な魅力が高まったことも増加に寄与したと考えられる。

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上野剛志(うえのつよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト

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