事前予想を大きく上回る大幅増産
経済産業省が6月28日に公表した鉱工業指数によると、19年5月の鉱工業生産指数は前月比2.3%(4月:同0.6%)と2ヵ月連続で上昇し、事前の市場予想(QUICK集計:前月比0.7%、当社予想は同▲0.1%)を大きく上回る結果となった。出荷指数は前月比1.6%と2ヵ月連続の上昇、在庫指数は前月比0.6%と2ヵ月ぶりに上昇した。
5月の生産を業種別に見ると、国内販売の好調を受けて自動車が前月比5.2%と4月の同3.1%に続き高い伸びとなったほか、世界的なIT関連需要の落ち込みを受けて低迷が続いていた電子部品・デバイスが前月比6.6%、輸出の減少が続いている半導体製造装置が含まれる生産用機械も同4.6%の大幅増産となった。
財別の出荷動向を見ると、設備投資のうち機械投資の一致指標である資本財出荷指数(除く輸送機械)は19年1-3月期の前期比▲7.4%の後、4月が前月比0.7%、5月が同5.0%となった。また、建設投資の一致指標である建設財出荷指数は19年1-3月期の前期比▲1.8%の後、4月が前月比3.0%、5月が同▲0.5%となった。4、5月の平均を1-3月期と比較すると、資本財出荷が3.5%、建設財出荷が1.7%高い水準となっている。
GDP統計の設備投資は19年1-3月期に前期比0.3%と小幅ながら2四半期連続で増加した。鉱工業指数における設備投資関連指標は底堅い動きとなっているが、輸出の減少を主因とした企業収益の悪化を受けて、製造業ではすでに投資計画を先送りする動きが見られる。19年度入り後の設備投資は、非製造業では人手不足対応の省力化投資、都市再開発関連投資の拡大などが引き続き下支えとなるものの、企業収益が大きく悪化している製造業を中心に減速に向かう可能性が高いだろう。
消費財出荷指数は19年1-3月期の前期比1.6%の後、4月が前月比3.5%、5月が同▲0.1%となった。耐久消費財は前月比3.3%(4月:前月比6.3%)の高い伸びとなったが、非耐久消費財が前月比▲2.7%(4月:同2.7%)と落ち込んだ。消費財出荷指数の4、5月の平均は1-3月期の水準を1.7%上回っている。
19年1-3月期のGDP統計の民間消費は前期比▲0.1%と2四半期ぶりの減少となった。業界統計を含めた消費関連指標は、4月は強め、5月は弱めのものが多かったが、4、5月を均してみれば緩やかな持ち直しを示している。4-6月期の民間消費は2四半期ぶりの増加となる可能性が高いだろう。
景気動向指数の基調判断は「下げ止まり」に上方修正
製造工業生産予測指数は、19年6月が前月比▲1.2%、7月が同0.3%となった。生産計画の修正状況を示す実現率(5月)、予測修正率(6月)はそれぞれ▲2.5%、0.6%であった。
6月の予測指数を業種別にみると、電子部品・デバイス(前月比3.6%)、鉄鋼(同3.6%)は高い伸びとなっているが、このところ好調に推移している輸送機械(同▲6.8%)が大幅減産計画となっている。
5月の生産は予想を大きく上回る高い伸びとなったが、鉱工業生産は平日が少ないほど季節調整値が高くなるような調整が施されていることには注意が必要だ。今年の5月はGW10連休の影響で昨年に比べて平日が2日少ないことにより季節指数が昨年よりも▲2.2%低く、季節調整値が高めに出やすくなっている(1)。鉱工業生産を原指数でみると1-3月期が前年比▲1.7%、4月が同▲1.1%、5月が同▲1.8%と低迷が続いている。季節調整値の前月比の伸びは割り引いてみる必要があるだろう。
19年5月の生産指数を6月の予測指数で先延ばしすると、19年4-6月期は前期比1.5%となる。生産の実績値が予測指数の伸びを大きく下回る傾向があることを考慮しても4-6月期が2四半期ぶりの増産となる可能性は高くなった。ただし、1-3月期の大幅な落ち込み(前期比▲2.5%)の後としては戻りが弱く、輸出の減少に歯止めがかかっていないことをあわせて考えると、生産が底打ちしたとの判断は尚早だろう。
内閣府の「景気動向指数」では、CI一致指数の基調判断が19年3月に「下方への局面変化」から「悪化」に下方修正され、4月も同じ判断で据え置かれた。
本日までに一致指数を構成する9系列のうち7系列の5月分が公表された。このうち、生産指数、鉱工業用生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数(除く輸送機械)、商業販売額(小売業)の5系列が前月から改善、商業販売額(卸売業)、有効求人倍率の2系列が前月から悪化した。5月のCI一致指数は前月差1ポイント程度のプラスとなることが予想される。この結果、(1)当月の前月差の符号がプラス、(2)3ヵ月後方移動平均(前月差)の符号がプラスに変化し、プラス幅(2ヵ月の累積)が1標準偏差分以上、という条件を満たすことになるため、景気動向指数の基調判断は「下げ止まり」へと上方修正されることが見込まれる。
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(1)季節調整値=原指数÷季節指数
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斎藤太郎(さいとう たろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 経済調査室長・総合政策研究部兼任
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