●空室率と募集賃料のエリア別動向

2018年末時点で最も賃貸可能面積が大きいエリアは「駅前東西地区(29.3%)」であり、次いで「駅前通・大通公園地区(27.8%)」、「創成川東・西11丁目近辺地区(15.6%)」、「南1条以南地区(14.6%)」、「北口地区(12.6%)」の順となっている(図表10)。

賃貸可能面積は、「創成川東・西11丁目近辺地区」(前年比▲1.8千坪)や「南1条以南地区」(前年比▲0.5千坪)では減少したが、「駅前東西地区」(前年比+7.1千坪)や「北口地区」(+0.9千坪)は増加し、合計5.8千坪増加した(図表11)。

札幌オフィス市場,見通し
(画像=ニッセイ基礎研究所)

一方、賃貸面積は、「創成川東・西11丁目近辺地区」を除く全ての地区で増加し(前年比+6.0千坪)、空室面積に大きな変化はなかった(前年比計▲0.2千坪)。

エリア別の空室率(2018年12月末)を確認すると、「駅前通・大通公園地区0.80%(前年比▲0.92%)」や「南1条以南地区4.10%(▲1.02%)」、「創成川東・西11丁目近辺地区4.17%(▲0.35%)」の空室率が改善したのに対して、大規模ビルの竣工等があった「駅前東西地区2.25%(+1.25%)」や「北口地区1.52%(前年比+0.44%)」の空室率は上昇した(図表12左図)。

募集賃料は上昇傾向で推移している。特に「北口地区」(前年比+6.8%)や「駅前東西地区」(前年比+6.0%)の賃料上昇率が大きい。

札幌オフィス市場,見通し
(画像=ニッセイ基礎研究所)

札幌オフィス市場の見通し

●生産年齢人口の見通し

国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」によると、札幌市の生産年齢人口は、減少傾向で推移する見通しである。2025年の生産年齢人口は2015年比▲5.9%減少すると予想されている(図表13)。2025年までの生産年齢人口の見通しを他の地方主要都市と比較すると、札幌市は、減少率が仙台市に次いで高い(図表14)。

札幌オフィス市場,見通し
(画像=ニッセイ基礎研究所)

ただし、住民基本台帳人口移動報告によると、札幌市の転入超過数は2008年を底に緩やかな拡大傾向にあり、2018年は+7,930人となった(図表15)。

また、総務省「労働力調査」によれば、2019年第1四半期の北海道の就業者(非農林業)は、249万人(前年同期比+1万人)と、12期連続で前年同期比プラスとなっている(図表16)。

以上の状況を鑑みると、今後5年間では札幌市のオフィスワーカー数が大幅に減少する懸念は小さいと思われる。

札幌オフィス市場,見通し
(画像=ニッセイ基礎研究所)

●オフィスビルの新規供給見通し

2018年の新規供給面積は「さっぽろ創世スクエア」等の竣工により約5,000坪となり、前年の新規供給面積(約3,200坪)を上回った(図表17)。

2009年以降、札幌市のオフィスの新規供給量は、2008年の約8,000坪を上回ることはなく、低水準の供給が続いている。総ストックに占める過去10年間の新規供給面積は4.9%と、全国主要都市の中で、最も低い水準にある(図表18)。

今後の新規供給も、2019年の「創成イーストビル」や「南大通ビルN1」、2020年の「大同生命札幌ビル」と限定的である。

札幌オフィス市場,見通し
(画像=ニッセイ基礎研究所)

●賃料見通し

前述の新規供給見通しや経済予測(5)、生産年齢人口の見通しを前提に、2023年までの札幌のオフィス賃料を予測した(図表19)。

2018年下期の札幌市の成約賃料は、ファンドバブル期のピークを上回り、高値圏にある。今後の新規供給は限定的なことから、短期間で市況が大きく悪化する懸念は小さい。

札幌市は、他の地方主要都市と比較して、低コストでかつ効率よくオペレーターを確保することが可能な環境にあり、コールセンター企業からの需要は底堅い。ただし、コールセンター業務の多くを担っている「アウトソーサー(6)」の一部は、人件費等の運営コストの増加に伴い、厳しい経営環境にある。また、AI技術等を活用した顧客対応の自動化が進むと、人手に依存する大規模なコールセンターは減少することも想定される(7)。以上のことを鑑みると、コールセンターがこれまでの勢いで札幌のオフィス需要を牽引することは難しい可能性がある。

札幌オフィス市場,見通し
(画像=ニッセイ基礎研究所)

また、札幌市「札幌市企業経営動向調査」によれば、札幌市内の景況感を表す「市内景況判断B.S.I(8)」は、2014年上期以降、マイナスでの推移が続いている(図表20)。札幌市内の景況感は本格的な回復には至っていない。

札幌オフィス市場,見通し
(画像=ニッセイ基礎研究所)

こうした状況を鑑みると、札幌のオフィス賃料は、現時点の高い水準から更に上昇する可能性は低く、横ばい圏での推移が続くと見込まれる。2018年の賃料を100とした場合、2019年の賃料は100、2020年は98となる見通しだ。

2030年の北海道新幹線の全線開通(札幌駅までの延伸)に向けて、札幌駅周辺では再開発が進展する見込みである。JR札幌駅南口の「西武百貨店札幌店」跡地を含む「北4西3街区」では、超高層ビルの建設が予定されており、「大通東1街区」では30階前後の高層ビル構想が立ち上がっている(9)。長期的な札幌オフィス市場を見通すにあたっては、北海道新幹線の延伸を見据えた大型再開発の動向を注視したい。

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(5)経済見通しは、ニッセイ基礎研究所経済研究部「中期経済見通し(2018~2028年度)」ニッセイ基礎研究所などを基に設定。
(6)他社からコールセンター業務を受託し運営することを事業とする企業。
(7)吉田資「地方都市のオフィス需要を牽引するコールセンター」ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2019年7月4日
(8)B.S.I.(景気動向指数 Business Survey Index)
=「前期と比べて上昇(増加)と回答した企業の割合」- 「前期と比べて下降(減少)と回答した企業の割合」
景気、企業の業績等について、+の場合は上昇過程にあると判断され、-の場合は下降過程にあると判断される。 (9)北海道新聞「札幌駅周辺再開発、市主導で続々 容積率の緩和や事業費補助 財政面で不安も 札幌駅南口準備組合が発足」2019年5月24日

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

吉田資 (よしだ たすく)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員・総合政策研究部兼任

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