仕事を楽しめる人は「忙しい」と言わない
古川 裕倫(ふるかわ・ひろのり)
1954年、大阪府生まれ。早稲田大学商学部卒業後、三井物産に23年間勤務。その間、ロサンゼルス、ニューヨークで通算10年間の海外勤務を経験。00年、ホリプロ取締役執行役員。07年、(株)リンクステーション代表取締役副社長を経て、現在は一般社団法人彩志義塾代表理事、情報技術開発株式会社社外取締役、企業風土改革コンサルタント。ビジネス書の執筆、講演、研修活動を行い、「世田谷ビジネス塾」、「女性社員のための立志塾」を主宰する。著書に『他社から引き抜かれる社員になれ』(ファーストプレス)、『できる人はすぐ決める!』(大和書房)、『コーチング以前の上司の常識 「教え方」の教科書』(すばる舎)、『女性を活用できる上司になれ』『女性が職場でかしこくふるまう技術』(ともに扶桑社)、『あたりまえだけどなかなかできない51歳からのルール』(明日香出版社)、『バカ上司の取扱説明書』(SB新書)など多数。

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人生の一事を探す旅も楽しい

自分はまだ何をやり遂げればよいかわからないという話をよく聞きます。

講演や研修のときなどに、よく受ける質問です。

また、私も「古川さんの一事はなんですか」と質問されます。

私は、まだ一事はまったく成し遂げていませんが、私のやりたい一事は「先輩・先人の教えを後世に順送りすること」です。そしてもう一つ、「日本と世界の小さな架け橋になること」があります。

ただ、これは昔からずっと思っていたのではなく、20代や30代のときに自分の一事を探すことなんぞ思いもよりませんでした。こう思うようになったのは50代前半です。

坂本龍馬は、土佐藩の下級武士に生まれ、若い頃は剣術に興味があるぐらいで、自分が何をなすべきかなど露ほども思ってもいなかったのです。親に頼み込んで江戸に剣術(北辰一刀流)の修行に出かけます。そういう普通の青年でした。

ところが、あることが転機になります。28歳のときに、勝海舟に会う機会がありました。当時、龍馬は幕府に対して否定的な考えを持っていたのですが、幕臣勝海舟は、龍馬に地球儀を見せて、西洋の近代化の様子やその武力について説明します。勝の話を聞いて、龍馬は考えを変えて、弟子にしてほしいと願い出ます。

そこからです。龍馬が先のような偉業を成そうとしたのは。このままでは、日本国は西欧列強に食い物にされてしまう。刀や槍で、近代軍事力を持つ列強には勝てない。日本も、国力をつけて、独り立ちしなければいけないと思ったのです。バラバラの藩がいがみ合っているのではなく、国として一つにならければならない、そのために尽くしたいと思ったのです。28歳で成すべことを悟り、32歳で暗殺されたのですから、先の偉業はたった4年間で成されたのです。

今、何を成すべきかわからなくても、それを探す旅も楽しいのです。

やるべきことがわからないからと悩む必要などまるでありません。むしろ、何をしようかなと楽しんでそれを探すことです。自分の仕事や周りを見ながら、人生で何をしようかと考えることも大きな楽しみなのです。

虎穴はどこにある?

先ほど自分の成したいことを探すことも楽しみであると申し上げました。

「虎穴に入らずんば虎児を得ず」はご存じの通りです。貴重な虎の子が欲しければ、親虎がいるかも知れない虎の穴に入っていかないといけない。

では、そういう「虎穴」はどこにあるのでしょうか。

自分もかつてはそう思っていたのですが、多くの人に聞いてみると、「虎穴は自分からずいぶん遠くにあるんでしょうね」「一生のうちでそんな虎穴にめぐり合うのはずいぶん先の話だと思います」と答えが返ってきます。

数年前に、ある人から「虎穴は自分の足元にある」と教えられました。その人からいただいた年賀状にこうあったのです。

「虎穴に入らずんば虎児を得ず」「では虎穴はどこにある?」「虎穴は自分の足元にある」

これは、自分の成すべき一事が、自分からはるか遠い世界にあるのではなく、自分の身の回りでやっている仕事にあるということです。

先にご紹介した私の一事「先輩・先人の教えを後世に順送りすること」は、前から持っていた自分の信条ですが、この言葉を見て考え込んでしまいました。

自分の足元とは、海外貿易であり、明治時代に『武士道』を英語で書いた新に渡戸稲造はすごい人だと尊敬している。であれば、少しは、日本と海外のお役に立つべきではないかと考えました。「太平洋の架け橋になる」という新渡戸稲造さんのような偉業は成せないでしょうが、せめて「日本と世界の小さな架け橋になること」を限られた人生でやってみたいと思うようになりました。

先に申し上げたように、一事を探す旅も楽しい。しかし、探すときは、まず自分の足元を探してみることです。きっとありますよ。自分の仕事の得意分野、興味分野を見つめてみる。今すぐに見つからなくても探そうとしてみてください。

人生の大きな目標を自分の仕事の中から見つける。チルチルミチルの「青い鳥」のように、身の回りに幸せはある。それが、人生の楽しさの一つです。

高い志を持つ

西洋の有名な話です。

道端に並んで同じ仕事をしている3人の職人に旅人が「何をしているのですか」と同じ質問をしました。

最初の職人は、「レンガを積んでいます」と答えました。
次の職人は、「壁を作っています」と答えました。
3人目は、「後世に残る教会を建てています」と答えました。

この中の誰が、一番志が高いでしょうか。答えは一目瞭然ですね。

ここで想像力を働かせていただきたいのです。

誰が一番早くスキルアップするだろうか?
誰が一番質の高い仕事をするだろうか?
誰が一番高い責任感を持っているか?
困難に出くわしたときに誰が一番容易に克服するだろうか?

志が高い人は、早くスキルアップし、質の良い仕事をして、責任感があり、困難も克服できます。志が高いと、努力や苦労が気になりません。だから、素晴らしい人生を送りたいのなら、高い志を持つべきであると申し上げたいのです。効率がぐんと上がります。

別の話です。

フェイスブックのCEOマイク・ザッカーバーグ氏は、母校のハーバード大学で講演をした際に、1960年代のジョン・F・ケネディ大統領が成功させた月に人を送る月プロジェクトを例にあげています。

NASAで働く一人のジャニター(清掃員)が大統領に向かって、こう言ったそうです。

「大統領、私は人を月に送るプロジェクトのために働いています」 「私は掃除をしています」ではなく、「私は人を月に送るプロジェクトに貢献しています」

と高い志を持って働いている。

高い志を持てば、幸せにつながる仕事ができるということです。

1983年にスティーブ・ジョブズ氏が将来アップル社のCEOになるジョン・スカリー氏をペプシコーラ社から引き抜こうとしたときの質問がこれです。

「君は残りの人生を砂糖水を売って過ごしたいか、それとも世界を変えるチャンスがほしいか」

なぜこの質問にそれほどの効果があったのでしょうか。好奇心と想像力を刺激したことに加えて、スカリー氏に意味のある仕事をするチャンスを与えたからです。

このことは、ペンシルバニア大学ウォートン・スクール教授のアダム・グラント氏の研究により裏付けられています。グラント氏によれば、「自分の仕事がどのように他人に対して意味のあるポジティブなインパクトを与えるかわかっている社員は、そうでない社員より幸福感が高いだけでなく、はるかに生産的でもあるのです」。

同じことをしていてもそれをどう位置付けるか、それは各自の自由です。

レストランでのアルバイトを時給稼ぎの嫌な仕事と考えるか、それとも、「来てよかった。いいサービスをしてくれて、ありがとう」とお客様に喜んでもらいたいと考えるかによって、接客の質が変わります。前者では自分も成長しませんが、後者はアルバイトを通して(お金をもらいながら)自分の成長の材料として活用できます。

「お客様に喜んでもらう」という志もよし、「将来独立してレストランを経営できるような知識をつけたい」という志もよし、です。

目の前の仕事に不満を持っている人はたくさんいます。確かにその仕事自体の問題やつまらなさもあるかもしれません。しかし、もう一度よく考えてみるべきです。自分の志の高さを自分で考えるべきです。

若くても志の高い人はいます。反対に、私のような年齢になっても志の低い人もいます。躊躇することなく、いち早く志の高い人になるべきです。将来変えてもいいので、今思いつく一番高い志を持つべきです。その気づきと実行は、人生にとって非常に大切です。

高い志を持てば、自分の成長にドライブがかかります。