仕事を楽しめる人は「忙しい」と言わない
古川 裕倫(ふるかわ・ひろのり)
1954年、大阪府生まれ。早稲田大学商学部卒業後、三井物産に23年間勤務。その間、ロサンゼルス、ニューヨークで通算10年間の海外勤務を経験。00年、ホリプロ取締役執行役員。07年、(株)リンクステーション代表取締役副社長を経て、現在は一般社団法人彩志義塾代表理事、情報技術開発株式会社社外取締役、企業風土改革コンサルタント。ビジネス書の執筆、講演、研修活動を行い、「世田谷ビジネス塾」、「女性社員のための立志塾」を主宰する。著書に『他社から引き抜かれる社員になれ』(ファーストプレス)、『できる人はすぐ決める!』(大和書房)、『コーチング以前の上司の常識 「教え方」の教科書』(すばる舎)、『女性を活用できる上司になれ』『女性が職場でかしこくふるまう技術』(ともに扶桑社)、『あたりまえだけどなかなかできない51歳からのルール』(明日香出版社)、『バカ上司の取扱説明書』(SB新書)など多数。

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アランの言う労働について

フランスの哲学者・アラン(1868~1951年)は、幸せになるには楽観的に自分の意志で努力して勝ち取らなければならないと言っています。逆に、不幸になるには、悲観的に「つらい」「嫌だ」などの感情だけがあればいいし、何の努力も行動もしないことだ、と。

「幸福になろうと欲しなければ絶対に幸福にはなれないのは明白だ」

仕事についてアランはこう説明しています。
「役に立つ仕事はそれ自体楽しみであることがわかる。仕事それ自体であって、そこから引き出す利益ではない」

自分や周りの人に役に立つ仕事であると認識すれば、仕事が楽しくなる。仕事への考え方が大事であり、そこから生まれる利益だけを考えているのではいけないという意味です。

またアランはこうも言っています。
「人間にとって最大の楽しみは、共同で行う困難で自由な仕事である」

困難な仕事を仲間とともに自由闊達にやり遂げることが仕事の喜びだとしているのです。

笑顔についてアランはこう言っています。
「幸せだから笑うのではない、笑うから幸せなのだ」

いい人生を送るには、自分の能力を効率よく高めていく必要があります。まさに自分のために自分を高めるのです。

アランの言葉を借りると、「私たちは他人の幸福を考えなければならない、というのはまさにそのとおりだ。しかし、私たちが自分を愛する人たちのためになすことができる最善のことは、自分が幸福になることである、という点は十分に語られていない」。

仕事においてはどうでしょうか。私の持論はこうです。
「自分を高めて、組織に貢献すれば、必ず結果が自分に返ってくる」

仕事は、自分を高めるいちばん手っ取り早い方法です。1日に8時間会社に拘束されているのであれば、仕事を通じて自分を高めるべきです。

たとえば、営業であれば顧客への提案や交渉を通じて、分析力、企画力、説明能力、理解力などを高めることができ、クレームに真正面から立ち向かうことによって問題解決能力が高まります。

お店で接客をする際も、説明能力が上がり、いい笑顔の練習ができると思えば、仕事をしながら自分を高めることができます。

これらは、ただ自宅でビジネス書などを読むよりずっと実践的です。

嫌々長時間拘束されていると思っていたら、自分の進歩はわずかなものでしかありません。仕事が自分を高めてくれる貴重な機会と思えば、仕事にも力が入り、進歩が早い。すなわち、効率的に自分の価値を上げていることとなります。

できる」人は、まずは仕事を通して自分を高めるということを知っています。仕事がつらいと思うか、仕事が自分のためになるのか、それは自分次第です。

「ほしいものはすべてそこにある山のようなものだ。私たちを待っており、逃げていきはしない。だがそれゆえ、よじ登らなくてはならない」

多少の努力は必要ですが、仕事は人生の大切な1ページであり、こういう心得を持つことによって自分の進歩を加速することができます。

カール・ヒルティの言う、幸福と仕事の関係

スイスの法学者・カール・ヒルティ(1833〜1909年)は、その『幸福論』の冒頭から、幸福になるには仕事をちゃんとしなければならない、また仕事をするには勉強をして、行動しなければいけないと説いています。

人は、「できるだけ少ない時間働き、あるいは生涯の短い時間だけ働いて、残りの人生を休息のうちに過ごそうというのが、一般的傾向である」と、人は仕事を嫌なものだと思うという一般論を述べてから彼の持論を展開します。

「人々の求める休息なるものは、まず第一に、精神と肉体とを全く、或いは成るべく働かせないことによって、得られるものではない。むしろ反対に、適度に按排して両者を働かせることによってのみ、それは得られるのである。人間の天性は働くように出来ている。(中略)真の休息はただ活動の中にのみある。即ち精神的には、仕事の着々たる進捗を見ることにより、所与の課題の成就によって、それは与えられる。(中略)自然の休憩によってのみによって中断される、不断の有益な活動の常態こそが、この地上における最も幸福な境地である」(新漢字・新かな表記に修正。本項以下同)

つまり、人はまったく働かず、怠けることによって休息したいと考えるが、そうではなくて、適度な秩序ある労働を行うことによって心地よい休息が得られる。働く中に休息がある。仕事をはかどらせ、任務の成果が出ているのを知って、いい休息が得られる。そのような休息を含めて労働することが、地上で最上の幸せであるということです。

続いて、仕事の種類は、関係ないとも言っています。

「われわれは更に一歩を進めて、こう言い添えることができる。そうなればもはや活動の性質さえも多く問う必要がない、と。単なる遊戯でないかぎり、いかなる真実の活動も必ず、人が真面目にこれに没頭すれば間もなく興味がわいてくるという性質を持っている。人を幸福にするのは活動の種類ではなく、労作と成功との喜びである。この世の最大の不幸は、仕事を持たず、従って生涯の終わりにその成果を見ることのできない生活である」

仕事の種類は、たいした問題ではない。真の仕事ならどのような業種であっても、真面目に没頭すればだんだん興味が湧いてくる。人を幸福にするのは仕事の種類ではなく、仕事を作り出す喜びと仕事に成功を見出す喜びである。最大の不幸は、仕事を持たずに、一生仕事の成果を見ることができない人生であるということです。

いかがでしょうか。ヒルティがいう幸福の第一歩は、いかに幸せに働くかというところがポイントです。

仕事の種類には関係なく自分が打ち込んで、成果を出すことと成功することが大きな喜びになるとしています。

さらにヒルティはこう言っています。
「勇気こそが、人のあらゆる特性の中で幸福になるために最も必要なものである」

私が、ヒルティの『幸福論』をおすすめするのは、働きながら幸せを摑むべきというヒルティの思想にビジネスパーソンの端くれとして共感するからです。

どんな職業であれ、勇気を持って打ち込み、成果を出し、その意義に満足しましょう。