矢野経済研究所
(画像=PIXTA)

29日、国内造船1位の「今治造船」は同2位「ジャパンマリンユナイテッド」(以下、JMU)との資本業務提携を発表した。今治造船は資本比率3割を目処にJMUが新たに発行する普通株式を引き受けるとともに、既に三菱造船と協業関係にあるLNG運搬船を除く商船分野で共同営業設計会社を設立、将来的には生産体制の効率化も視野に入れる。

造船業界は慢性的な供給過剰状態にある。かつて “造船王国” と称された日本であるが、90年代後半以降、韓国、中国が猛追、現在、世界シェアの7割を中韓勢が占め、日本は2割に止まる。
中韓は業界再編でも日本に先行する。中国では国内1位「中国船舶工業集団」と2位「中国船舶重工集団」が統合、一方、韓国は経営が悪化した国内3位の「大宇造船海洋」を1兆2千億円の公的資金で救済、そのうえで同1位「現代重工」との経営統合を進める。
IHIとJFEの造船部門の統合によりJMUが誕生したのが2013年、それ以来、日本では大きな動きはない。当時、川崎重工と三井造船(三井E&Sホールディングス)の統合交渉も進んだが結果的に破談となっている。

その三井E&Sが苦境にある。2020年3月期は3期連続の最終赤字となる見通しで、11月11日には半年前に策定したばかりの事業再生計画の見直しを発表した。背景にはインドネシア火力発電事業の巨額損失がある。とは言え、祖業である造船事業の再建も遅れている。川崎重工との交渉決裂後、中国の揚子江船業と提携するなど事業の立て直しをはかってきたが、船舶部門の2019年3月期売上高は前期比156億円減の969億円、営業利益は71億円改善したものの81億円の赤字である。再建策では玉野工場での中小型商船事業への絞込み、大型タンカーの建造を担ってきた千葉工場の受注停止、工場用地の売却が表明された。加えて、三菱重工との提携も選択肢にあるとされるが先行き不透明感は拭えない。

今治造船とJMUの資本提携は歓迎すべきだ。それでも統合後の建造量は中韓トップに遠く及ばないし、現時点では造船所の再編、統廃合に関する発表もない。その意味でやや中途半端な感は否めない。
日本勢が唯一頼みとする技術優位は今後更に縮まる。とすると国を越えてのグローバル再編も現実味を帯びてくるだろう。今治とJMUの動きはその起点となる可能性がある。世界市場に対する攻撃的なM&Aに期待したい。

今週の“ひらめき”視点 11.24 – 12.5
代表取締役社長 水越 孝