本記事は、難波 猛氏の著書『ボスマネジメント 「成果を出している人」が上司と話していること』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

ボスマネジメント 「成果を出している人」が上司と話していること
(画像=dimlight/stock.adobe.com)

世界標準のビジネススキル「ボスマネジメント」

ボスマネジメントの考え方は、日本より海外のほうが先行しています。
ハーバード・ビジネス・レビューには、1980年に“Managing Your Boss”(ジョン・P・コッター)という論考が掲載され、上司との関係構築を「マネジメントスキル」として扱っています。
40年以上前からすでに、「上司との関係性をどう築くか」は、マネジメントスキルとして正面から議論されてきたのです。
この考え方は、海外の企業だから自然に生まれたというより、雇用のあり方そのものに根ざしています。
欧米では、ジョブ型雇用が前提で、ポジションごとに期待される成果が明確です。
採用や評価や昇進、契約更新において、上司の判断はキャリアに直接影響します。
つまり、「上司との関係性を最適化できるかどうか」は、感情的な悩みではなく、キャリアの成否を分ける実務的スキルとして位置づけられてきたのです。そのため、ビジネススクールや企業研修では「Managing Up(部下が上司との関係を良好に保つためのスキル)」を扱うことが珍しくありません。上司との関わり方は相性の問題ではなく、職業能力の一部だと考えられているのです。
シリコンバレー等のテック企業を見れば、部下が上司に働きかけるという文化はさらに明確です。たとえば、GoogleやIntel、Microsoft等が導入しているOKR(Objectives and Key Results/目標と主要な成果)では、自分が達成したい目標と成果指標を、上司と本人が合意したうえで組織内に公開するなど、部下の意思表示を前提に設計されています。

部下が何も言わなければ、情熱を伴うゴールも支援も組み上がりません。だからこそ、ボスマネジメントは標準スキルとして扱われているのです。
こうした環境下では、上司は単なる評価者ではなく、「成果を一緒につくるパートナー」「自分のキャリアを左右するサポーター」として位置づけられていますし、上司にパートナーやサポーターになってもらうための努力も必要になります。

海外拠点に赴任した、ある日本人社員の例です。
日本では、上司の指示を待ち、意向を察して動くことが評価されてきたため、1on1でも「何かあればご指示ください」と答えるのが習慣になっていました。
ところが、現地の上司からは、毎回こう問いかけられたそうです。
「いま何に困っている?」「この1週間で、私が判断すべきことは何?」
自分から課題や判断材料を提示しないまま面談を終えると、「情報がないとサポートできない」「判断材料を出してほしい」と、フィードバックを受けたと言います。
そこで彼は、課題や仮説、意思決定してほしい点を整理して伝えるようにしました。すると、上司からの支援は明確になり、仕事のスピードも成果も大きく改善したそうです。
沈黙や遠慮は美徳ではなく、むしろ自分にとっても組織にとってもリスクとなり得ます。

仕事における期待値、困っている点、挑戦したい領域、自分が活かせる強みを上司と共有することは、プロフェッショナルとしての責任範囲に含まれる、という考え方です。
ここで重要なのは、これは上司に媚びる話ではない、という点です。上司が意思決定しやすい状態をつくり、チームとして成果を出すために、必要な情報を整えて伝える。そこにあるのは上下関係ではなく、役割分担です。
Managing Upは、個人がキャリアを切り拓くための「世界標準スキル」として位置づけられています。

Managing Upはビジネススクールや大学でもカリキュラムに組み込まれているケースがありますが、University of FloridaのManaging Upに関するコピーは秀逸です。

“If you do not manage up,you may never have the opportunity to manage down.”
(上司をマネジメントできなければ、部下をマネジメントするポジションに行けない)

マネジメントとは、上下を問わず、人との関係性を最適化する力です。上司との協働関係を築けない人は、いざ自分がリーダーになったときにも同じ問題を繰り返してしまう人と判断される恐れがあるでしょう。
だからManaging Upは、キャリアマネジメントという側面だけでなく、自身がリーダーを目指すために重要なマネジメントスキルでもあるのです。

上司は部下の声を聴く義務があり、部下は意見を述べる責任がある。
お互いが率直に意見や情報を出し合うことで、ミスコミュニケーションを防ぎ、チームの成果を高めることができます。この双方向性が当たり前に機能している会社では、ボスマネジメントは特殊なスキルではなく、基本的なリテラシーといえるのかもしれません。
上司に意見することは人格攻撃ではなく、共通のゴールに向けた役割を持つ者同士のすり合わせです。この認識を持つことで、部下からも「会社の期待がズレている気がします」「ここは調整が必要です」などと、率直に話しやすくなります。
より良い成果のために関係性を整える。この発想が、Managing Upの根底にあります。

「日本は海外より遅れている」「海外のやり方が絶対に正しい」などと言いたいわけではありませんが、こうした海外の流れと日本の労働環境は無縁ではいられません。
近年では従来の「適材適所(その人に合う仕事を探す)」メンバーシップ型から、「適所適材(そのジョブに合う人材を探す)」ジョブ型人事制度への転換を進める日本企業が増えています。ジョブ型では従来のように「彼・彼女も5年目だからそろそろ次のポストに」のような考え方はありません。「沈黙していること」がキャリアのリスクになり得ます。
「自分は何ができて、何に挑戦したいのか」「どのようなジョブで価値を出せるのか」を自発的に上司や周囲へ伝えなければ、たとえ社内でも自分のジョブも評価も機会も獲得できない可能性があります。だからこそ、日本においてもボスマネジメントは、思想ではなく現実的なスキルとして必要性を増しているのです。

ボスマネジメント 「成果を出している人」が上司と話していること
難波 猛(なんば・たけし)
人事コンサルタント
マンパワーグループ株式会社シニアコンサルタント
プロティアン・キャリア協会認定アンバサダー/人事実践科学会議事務局長/日本心理的資本協会理事/NPO法人CRファクトリー特別アドバイザー
1974年生まれ。早稲田大学卒業、出版社、求人広告代理店を経て2007年より現職。研修講師、コンサルタントとして4,000名以上のキャリア開発施策、3,000名以上の管理者トレーニング、100社以上の人員施策プロジェクトのコンサルティング等を担当。
セミナー講師、大学講師、官公庁事業におけるプロジェクト責任者も歴任。

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