本記事は、難波 猛氏の著書『ボスマネジメント 「成果を出している人」が上司と話していること』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。
ボスマネジメントが生み出す「4つの価値」
ボスマネジメントの価値は、個人のキャリアデザインだけでなく、上司・組織・周囲にも好影響を与えます。その4つの価値を整理しておきましょう。
価値❶ 「自分」のため
会社に所属している時間は、人生の中でも膨大な割合を占めます。
8時間勤務で8時間睡眠だとすれば、平日に起きている時間の半分は仕事です。かつ、大学を卒業して65歳まで働くとすれば、40年以上その比率が続きます。その膨大な時間が快適なのか不快なのかは、人生全体のQOL(Quality of Life/生活の質)に大きな影響を与えます。大前提として人は、「働くために働く」わけではなく「幸せになるために働く」選択をしているはずです。
それにもかかわらず、自分が何を大切にしたいのか、どのような働き方だと生き生きと働けるのか、どのような仕事をしてみたいのかなど、上司に伝えないまま日々を過ごしているのはもったいない選択です。
伝えなければ、上司も同僚もその人が何に喜びを感じ、何に不満を抱いているのかを知ることができません。結果として、せっかく毎日働いても幸せな人生につながるかは運任せになりかねません。
ボスマネジメントは、そんな“噛み合わなさ”を静かにほどいていきます。
自分の価値観(後述するWILL)を上司に伝えることで、自分の理想に近づく可能性は数%でも向上します。これは決して身勝手な要求ではなく、プロとして成果を提供する対価として望む状態を伝えて獲得するための健全なビジネスコミュニケーションともいえます。
ボスマネジメントは、単なる“自己主張”でも“迎合”でもありません。
自分の幸福と、組織の成果と、上司の期待とが、お互いを損なわずに共存できる形をつくるためのスキルなのです。
価値❷ 「相手(上司)」のため
上司は、一方的に「評価する側」「指示する側」として、絶対的な存在と認識されがちですが、実際には多くの迷いや不安、プレッシャーを抱えたまま、組織と部下をマネジメントしています。
近年は、働き方改革や心理的安全性、ハラスメント防止が重視されるようになり、上司たちは「メンバーの本音が分からない」「1on1で何を話せば良いのか分からない」「何を言ってもハラスメントになりそう」と途方に暮れているケースが少なくありません。
『罰ゲーム化する管理職』小林祐児(集英社インターナショナル)が話題になりましたが、コミュニケーションを取ることさえ臆病になっている管理職もいます。
そのような状況で、部下側から自分の本音や強みを自発的に伝えてもらえることは、上司にとって大きな救いになります。
どのような支援を求めているのか、どのような挑戦をしたいのか、どこに困っているのか、どうすれば成果を出しやすくなるのか。
こうした部下の本音が聴けるだけで、上司の心理的な負担は大きく軽減されます。
上司も人間であり、関係性に支えられて働いています。
部下の率直な言葉を受け取り、上司は真摯に応える。そのやりとりが始まると、上司と部下の関係は“指示する・される”の一方的な関係から、“支え合う”双方向的な循環構造へと変わっていきます。
価値❸ 「組織」のため
組織にとっては、自分の意思を明確にして「自律的に動ける人材が増える」という大きなメリットにもつながります。
いわゆる指示待ちの社員だけでは、組織の業務遂行にはつながっても、推進力や革新力にはなりにくいものです。一方で、自分の判断で動ける社員が増えると、業務のスピード・発想・変化対応力が向上し、組織そのものが活性化します。
正解のない複雑な環境下でビジネスを行う会社にとっては、自律性の高い社員集団であることは極めて大きな価値を持ちます。
上司へキャリアプランを語る社員が増えると、将来の人員計画や育成計画も立てやすくなり、適切なジョブへ適切な人材が流れていくルートが滑らかになります。
価値❹ 「周囲」のため
メンバー同士が各自の価値観や働きやすい条件を言語化し、周囲と共有すると、チームの風通しが驚くほど良くなります。
「この仕事ならあの人は喜んで引き受けてくれる」「自分にはこういう仕事を任せてほしい」「この手の情報はあの人に聞くのが一番」など、各自の得意や好みが明確になり、思い込みや誤解による摩擦が減っていくからです。
マズローの5段階欲求説でも「所属欲求」「承認欲求」は中核を占めています。
「自分は組織で必要とされている」「信頼できる仲間と働けている」「周囲から頼られる存在でいられる」という感覚は、組織全体のエンゲージメントを向上させます。
会社がどれほど制度や仕組みを整えても、実際に機能するかどうかは、一人ひとりのコミュニケーションの質と量に左右されます。
ボスマネジメントを通じて率直な対話の重要性を学んだ人が組織に増えるということは、この“仕組みと人間の間にある摩擦”を取り除く役割を、社員が自ら担えるようになるということです。
また、対話の風土が根づくと、メンバー間で発生する問題に関しても、従来のように「黙って見過ごす」「それは上司の仕事」などと傍観せず、「お互い対話して改善する」という選択肢が生まれます。
そうした環境では、昨今注目されている若手の早期離職を防げる可能性も高まります。
ボスマネジメントは、キャリアデザインの実践的スキルであると同時に、自分・上司・組織・周囲、そのすべての関係性を整えていくスキルでもあります。
マンパワーグループ株式会社シニアコンサルタント
プロティアン・キャリア協会認定アンバサダー/人事実践科学会議事務局長/日本心理的資本協会理事/NPO法人CRファクトリー特別アドバイザー
1974年生まれ。早稲田大学卒業、出版社、求人広告代理店を経て2007年より現職。研修講師、コンサルタントとして4,000名以上のキャリア開発施策、3,000名以上の管理者トレーニング、100社以上の人員施策プロジェクトのコンサルティング等を担当。
セミナー講師、大学講師、官公庁事業におけるプロジェクト責任者も歴任。
※画像をクリックするとAmazonに飛びます。
- 上司はマネジメントする時代、ボスマネジメントが世界標準な理由
- 上司のためにもなる、ボスマネジメント4つの価値
- 上司に話す前が勝負! 対話前後の段取りでキャリアは動く
- モヤモヤの正体を見える化! WILL,MUST,CANで今の働き方を診断
- 上司を動かす前に信頼を積む、秘訣はポジティブ4:ネガティブ1
- 上司任せの面談をやめる、5段階で主導権を握る方法
- 雑談で感謝を1回言うだけで、上司は急に味方になる
