本記事は、難波 猛氏の著書『ボスマネジメント 「成果を出している人」が上司と話していること』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

ボスマネジメント 「成果を出している人」が上司と話していること
(画像=taka/stock.adobe.com)

上司との「対話前」「対話後」の対処法を用意する

友人、家族、同僚などは、事前相談として位置づける

自分のキャリアについて考え始めたとき、最初に話をするのは、友人、家族、同僚、あるいはSNSでつながっている友人というパターンが多いのではないでしょうか。いきなり上司と話をするという人は、少数派だと思います。

自分の仕事や評価に大きな影響を持つ上司を、最初の相談相手として避けるのは、ごく自然な流れであり、間違っているとは思いません。ただし、上司以外の人とは、あくまで方向性を検討する事前相談で、現実を動かしたいなら上司との対話は避けて通れません。
「友人や家族とキャリアについて話してもムダ」というわけではなく、上司以外の人とは不満も含めた本音を吐き出し、思考を整理する会話、上司とは現実を動かすための戦略的な対話というように、役割を分けて考えたほうが良いでしょう。
友人や家族などとの会話を、上司に話す前の思考を整理する場と捉えると、自分のキャリア自律にとって、とても価値のある時間になります。出たとこ勝負で上司との対話をスタートすると、感情的な不満が先に立つアグレッシブコミュニケーションになる危険性もあります。あらかじめ自分の感情やゴールを整理しておけば、思っていること、考えていることを上司に分かりやすく伝えることができるからです。
上司は、思いつきで話されたり、話していることにまとまりがなかったりすると、部下のことをどう理解していいのか判断に迷います。何かしてあげたいけれど、何もしてあげられないということになりかねません。

友人や家族とキャリアについて話すときに注意すべきなのは、「上司には話せない」「この状況は変えられない」という前提ではなく、「最終的に上司とどう話すか」「どう実現するか」を前提に相談することです。
たとえば、キャリアに関する不安や職場の関係への不満などを伝えると、友人や家族は共感や同情をしてくれるかもしれません。
そこで終わらせると「話すことができて良かった」「自分が感じていることは間違っていない」と、心がスッキリするかもしれませんが、現実的なアクションにつながりません。そこから、「職場に戻って何をするか」「どう上司と交渉するか」まで掘り下げてみましょう。
キャリアの話をいきなり上司にするのは気が引けるという場合は、事前に、ロールプレイの相手として友人や家族と話してみるといいでしょう。そして、考えやストーリーが整理できたところで、上司と話す。もし社内制度でキャリアコンサルタントとの相談制度などがあれば、それを活用することも有効です。
友人や家族への相談を事前相談と位置づけると、単なるストレス発散ではなく、上司と話すための準備の場になります。

いざというときは他部署のリーダーも相談先のひとつ

ボスマネジメントで良好な関係をつくるべき相手は、基本的には直属の上司です。
しかし、どんなにアサーティブコミュニケーションを試みても、話が噛み合わず、相性や価値観がどうしても合わない上司がいるのも事実です。
だからといって、「この人に伝えても意味がない」「この会社で望むキャリアは実現できない」と結論づけ、なんの対策も講じないのは事態を悪化させるだけです。
組織内のキャリア形成を諦める前にやるべきことがあります。周囲を見渡してみて、頼りになりそうな人や目指したい人はいるでしょうか。必ずしも同じ部署の人である必要はありません。
会社の中には、部署の枠を超えて「あの人のようになりたい」「あの人の下で仕事をしてみたい」「あの人が上司だったら良かったのに」という「ロールモデル」と呼べる人が、一人や二人は思い浮かぶのではないでしょうか。
ボスマネジメントがどうしてもうまくいかないと感じたら、相談すべきはその人です。
直属の上司と丁寧に対話を重ねたうえでの相談ならば、他部署のリーダーや上司であっても、「上司飛ばし」や「裏切り行為」にはなりませんし、あなたの力を組織内でより発揮できることは会社にもメリットがあります。

近年では、人事部や所属長主体の人事異動ではなく、「社内公募制度」「ジョブポスティング」など、自分の意思で異動を実現する制度を導入する企業も増えています。また、「社内越境」「社内副業」のように、異動せずに他部署業務を経験する仕組みを持つ会社もあります。
「上司ガチャ」「配属ガチャ」という言葉がありますが、現在の部署や上司が絶対ではありません。自分自身でキャリアや上司を選択することができる制度が存在しているのであれば、有効に使うこともキャリア自律に向けた選択肢のひとつです。

自分が希望している部署のリーダーや、自分が尊敬しているロールモデルの人と対話の機会を持つことで、うまく話が噛み合えば、「そのような分野の仕事がしたいのであれば、このような勉強をしたほうが良いですよ」「自分の場合は、このような形でやりたいことを実現しましたよ」「その件なら、○○さんに相談したらいいと思います」など、具体的なアドバイスが出てくることもありますし、優秀な人材だと認められれば新たなキャリアのチャンスをつかむことができるかもしれません。実際、以前の部署ではあまり評価されなかった人が、社内公募制度で部署と上司が変わり、社内でMVPとして表彰された事例もあります。

他部署のリーダーであっても、同じ組織を構成する一員です。力を発揮できていない人が別の場所で活躍できるなら歓迎すべきことです。ボスマネジメントは単に「今の上司と良好な関係を築く」だけの技術ではなく「自分が関係を築きたい上司を手繰り寄せる」技術でもあります。

ボスマネジメントがうまくいかなくても、失敗だと思わないでください。それは、「今の上司との組み合わせでは最適解が出なかった」という、ひとつの結果にすぎないのです。

「組織を去る」という決断に必要となる基準

ボスマネジメントがうまくいかなかったときの選択肢としても持っておいたほうがいいのが、「Win-Win or No Deal」という考え方です。
これは、『7つの習慣』で広く知られるようになった言葉で、「双方が納得できなければ、無理に取引(合意)しない」という交渉・意思決定の原則です。
どれほど誠実に対話しても事態が改善しないような環境に無理に居続けると、上司も部下もお互いに損をするLose-Loseや、部下側が一方的に追い込まれるLose-Winになってしまことがあります。

それでは、どこまでやれば「No Deal」と判断できるのでしょうか。
基準は、自分自身が「本音をしっかり伝えきることができた」「上司の本音もしっかり聴くことができた」と納得できるかです。お互いのギャップを言語化し、ギャップを埋めるための話し合いを重ね、それでも解決策が見つからない、または相手に解決する意思がないのであれば、それは今の環境では解決できないと判断していいと思います。
No Dealを選ぶことは、決して逃げることではありません。これ以上、お互いが消耗しないための賢明な判断です。
このプロセスを踏まずに組織を離れると、「もう少し話しておけば……」という後悔が残りやすいですし、別の組織に移って同じような境遇に置かれたとき、また同じことを繰り返すことになります。

ボスマネジメントがうまくいかなかったからといって、ボスマネジメントのスキルを身につけられなかったのではありません。会社組織には色々な事情や優先順位が存在するので、上司が理解を示しても実現できないことも存在します。プロセスを踏んで関係構築したうえでの決断なら、ボスマネジメントは十分にできています。
あなたが会社を離れる選択をしたとしても、上司や周囲が応援して見送ってくれる関係は構築可能です。
上司や会社の方向性と、あなたの方向性の重なる部分が現時点では見つけられなかったというだけで、対話を尽くしたうえでの結論なら、お互いに納得できるはずです。
それこそ、アルムナイネットワークのように、退職後も上司や会社と良好な関係を維持できることでしょう。私自身も、18年前に辞めた会社の同僚や上司たちとは、今でもビジネスや友人として付き合いが継続しています。

ボスマネジメント 「成果を出している人」が上司と話していること
難波 猛(なんば・たけし)
人事コンサルタント
マンパワーグループ株式会社シニアコンサルタント
プロティアン・キャリア協会認定アンバサダー/人事実践科学会議事務局長/日本心理的資本協会理事/NPO法人CRファクトリー特別アドバイザー
1974年生まれ。早稲田大学卒業、出版社、求人広告代理店を経て2007年より現職。研修講師、コンサルタントとして4,000名以上のキャリア開発施策、3,000名以上の管理者トレーニング、100社以上の人員施策プロジェクトのコンサルティング等を担当。
セミナー講師、大学講師、官公庁事業におけるプロジェクト責任者も歴任。

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