本記事は、難波 猛氏の著書『ボスマネジメント 「成果を出している人」が上司と話していること』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

ボスマネジメント 「成果を出している人」が上司と話していること
(画像=Jumpei/stock.adobe.com)

信頼関係の構築は「ポジティブ4:ネガティブ1」

上司と「何を話すのか」という観点でキャリアを考えてきました。
「やりたいこと(WILL)」と「期待されていること(MUST)」と「できること(CAN)」が大きく重なっている状態を実現できれば、自分も周囲も幸福度の高い働き方になります。
具体的に上司と「どう話すのか」について解説していきます。

ボスマネジメントを成功させるうえで、土台になるのは何か。
それは、上司を誘導する交渉術でも、うまく立ち回る処世術でもありません。
もっと手前にある、「信頼関係」です。
上司との対話がうまくいかないと感じている人に話を聞くと、共通点があります。
表面的には、対立もない、仕事は回っている、指示のズレもない、面談も定期的に実施している。ただ、その一方で、「腹を割って話せている感じがしない」「本音を言えていない」という違和感を抱えているということです。
当社が2025年12月に実施した「上司・部下の関係構築に関するアンケート」では、上司側が部下を「総じて信頼している・ある程度信頼している」と回答した割合は86%に対して、部下側が上司を「総じて信頼している・ある程度信頼している」割合は63%と、約20%の乖離がありました。
部下側の3人に1人以上は、上司を信頼していないということになります。

「あまり信頼できない」という感情を抱えた状態のまま、年に数回の1on1や評価面談で、いきなり深い話をしようとしても、それはなかなか難しいことでしょう。
ましてや、自分の人生がかかるキャリアの話となると、なおさらです。
深い話をするには、上司との対話に限らず、深い話ができる前提となる関係性を構築する必要があります。それは、日常のコミュニケーションの積み重ねでしか育むことができないものです。
私は、上司であれ部下であれ、信頼関係を構築したいのであれば、「コミュニケーションはポジティブ4:ネガティブ1の割合を意識してください」と話しています。
背景にある理論は、ワシントン大学名誉教授のジョン・ゴットマン博士が研究した、人間関係におけるポジティブ・ネガティブの適切な比率(ゴットマン率)です。
研究によると、「親子3:1」「上司・部下4:1」「夫婦5:1」「友人8:1」が望ましいとされ、この比率をネガティブが上回ると、関係性は毀損きそんしていくとされています。

「関係構築を積極的に行うべきなのは上司側であり、なぜ部下側が上司に気を遣わないといけないのか」という反論も聞こえてきそうですが(実際、先述した意識調査でもそのような意見がありました)、ボスマネジメントの目的は「対話を通じて、自分が望む状況をつくるために上司に行動してもらうこと」です。相手の行動変容を促すという観点では、メンバーマネジメントとボスマネジメントは表裏一体だといえます。
上司とWin-Winの状態をつくりたいならば、まずは自分から上司へポジティブなコミュニケーションを実践しましょう。

ポジティブなコミュニケーションというと、「上司を褒めるのは偉そうな感じがする」「心にもないお世辞は言いたくない」という声をよく耳にします。しかし、ここで話しているポジティブとは、大げさな称賛や自分を偽る追従ではありません。
もっとシンプルで、もっと日常的なものです。
感謝を言葉にする。話をきちんと傾聴する。目を見て相槌を打つ。笑顔を見せる。
名前を呼ぶ。元気な声で挨拶する。困ったときに早めに相談する。聞かれる前に報告する。自分の価値観や趣味を自己開示する。上司の価値観や趣味を聴く……。
小さなことのようですが、こうした日常のやりとりが、信頼関係の土台になります。
この土台がない状態で、「こういう指示は困る」「こういう役割はやりたくない」などアグレッシブ(攻撃的)に主張しても、なかなか上司の耳には届きません。内容が正しいかどうか以前に、「この人の話を真剣に聴こう」「支援したい」という気持ちが、生まれにくいからです。

たとえば、「今回の案件、サポートいただいて助かりました」「急な対応、ありがとうございました」「研修に参加させてもらい、勉強になりました」などです。
上司に繰り返してほしい「いいな」「助かったな」と感じた行動・言動に、そのまま感謝を伝える。イメージとしては、相手の望ましい行動に対して心の中で「いいね」ボタンを押し、それを声に出して伝える感覚です。

心理学の古典的名著『影響力の武器』(誠信書房)で心理学者のロバート・B・チャルディーニは、人が行動する原理として「返報性」「好意」を挙げています。
上司も人間なので、感謝してくれる部下、好意を向けてくれる部下に対して、信頼して支援したくなるものです。

相手に肯定的な感情やメッセージを伝えることは、すべてポジティブなコミュニケーションだと思ってください。
たとえば、このようなアクションです。「褒める」「承認する」「信頼する」「感謝する」「微笑む」「喜ぶ」「明るく声をかける」「興味を持って質問する」「理解を示す」「仕事以外の会話を楽しむ」「注目する」「話を最後まで傾聴する」「誠実な関心を持つ」「喜怒哀楽の感情に共感する」「受け止める」「受け入れる」「一緒に考える」「うなずく」「目を見る」…… など。
また、バーバル(言語)以上にノンバーバル(非言語)は重要です。「返事の内容」だけでなく「返事の仕方(表情・声・視線)」も意識してみましょう。コミュニケーションの総体が8割以上ポジティブであれば、上司との関係性は着実に良好になっていくはずです。

「ポジティブ4:ネガティブ1」の比率が保たれていると、たとえ上司の意向とギャップがあることを伝えたとしても、受け取られ方が変わります。
「この部下の困りごとは、何とか解決したい」「彼・彼女のキャリアを応援したい」と、上司のコミットメントがよりパワフルになるからです。
逆にネガティブなコミュニケーションの比率が高いと、「いつも否定的な反応だな」「たまにはこちらの意見も聴いてほしい」という感情が先に立ってしまいます。

あなたの話している内容が理論的に正しくても、上司が感情的に反発してしまうと、上司の中で行動するインセンティブが湧かず、優先度は上がりません。
「上司なのだから感情で動かないでほしい」と思われるかもしれませんが、「行動経済学」という学問分野でも、人間は常に合理的な理由だけで行動するわけではなく、感情により意思決定する側面が大きいと考えられています。
日頃からポジティブなコミュニケーションを心がけることで、上司に対する信頼感と、いざという時の影響力を蓄積していくことができます。

ボスマネジメント 「成果を出している人」が上司と話していること
難波 猛(なんば・たけし)
人事コンサルタント
マンパワーグループ株式会社シニアコンサルタント
プロティアン・キャリア協会認定アンバサダー/人事実践科学会議事務局長/日本心理的資本協会理事/NPO法人CRファクトリー特別アドバイザー
1974年生まれ。早稲田大学卒業、出版社、求人広告代理店を経て2007年より現職。研修講師、コンサルタントとして4,000名以上のキャリア開発施策、3,000名以上の管理者トレーニング、100社以上の人員施策プロジェクトのコンサルティング等を担当。
セミナー講師、大学講師、官公庁事業におけるプロジェクト責任者も歴任。

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