(本記事は、田村 秀氏の著書『データ・リテラシーの鍛え方 “思い込み”で社会が歪む』イースト・プレスの中から一部を抜粋・編集しています)

からくり
(画像=PIXTA)

「年利15%相当額プレゼント」キャンペーンのカラクリ

クリック証券(現在はGMOクリック証券)は、2005年設立のインターネット証券会社です。2010年に設立5周年を記念して、中吊り広告などで大々的に宣伝したのが、「クリック証券史上最大級の顧客還元!! 創立5周年記念 年利15%相当の現金プレゼントキャンペーン」というものでした。

定期預金に入れても限りなくゼロに近い超低金利の時代に、年率15%というのは多くの人の目をくぎづけにしたことでしょう。実際、このキャンペーンは応募者が殺到する大反響だったようで、当初は6月14日から7月31日までを予定していたのが、6月30日になって7月17日までに短縮せざるをえなくなったようです。

ところで、この年利15%相当額というのは、どの程度のものだったのでしょうか。同社のニュースリリースによれば、次のように書かれています。


〈キャンペーン概要〉
FX取引で一定条件を満たされた個人のお客様を対象として、キャンペーン期間中におけるFX取引口座への入金額から、当社の定める判定日までの出金額を差し引いた、純入金額に対して、年利15%相当額である2.5%(年利15% ÷12カ月×2カ月)分を現金でプレゼントいたします。

〈プレゼント金額〉
純入金額(※)×2.5%(最大250000円)
※(キャンペーン期間中のFX取引口座への入金額) -(当社の定める判定日までの出金額)

〈適用条件〉
•キャンペーン期間中にFX取引口座へ通算で10万円以上の入金 ※振替含む
•取引回数計算期間において、FXの新規建て取引を5回以上

他にも色々と細かなことが書いてありますが、15%相当とは言っても2カ月分の金利(=2.5%)だけしか受け取れないことになっています。2.5%でも高金利であることは間違いないですが、この資格を得るためには通算10万円以上の入金を行ったうえで、1カ月余りの間にFXで新規に外貨を買う(売る)取引を5回以上行わなければならないのです。また、どんなに余剰資金があっても最大25万円となっていることから、入金額も最大で1000万円までとなっています。

このような条件をクリアして初めて年利15%相当額を獲得できるわけですが、キャンペーン期間を短縮しなければならないほど希望者が多かったことを考慮すれば、クリック証券としては大成功といったところなのでしょう。

しかし、中には年利15%相当という甘い言葉に吸い寄せられてFX取引を始めたものの、ハイリスクを負ってしまった人も少なくないでしょう。中吊り広告でも、小さく条件が書かれてはいたものの、細かな適用条件などはホームページで確認しないとわからないようになっていました。

いずれにしても、こうしたキャンペーンには様々なリスクがあるということを、よく確認したうえで応募するべきです。痛い目にあってしまってからでは遅いので、くれぐれも注意が必要です。

疑問
(画像=Antonio Guillem/Shutterstock)

「月5万円の積立で1億円が貯まる」と聞いて信じる?

「1億円貯めるなんて無理と思っていませんか?」「1億円は貯められる。月5万円の積立で。」という広告もありました。イケメン俳優に囁(ささや)かれれば、そうかなと思ってしまう人もいるのかもしれませんが、これもやはり非現実的なデータと言わざるをえないものでした。

この広告を出していたアブラハム・プライベートバンクは、2008年に設立された海外投資を専門とする投資助言会社でした。そのHPで、金融商品「いつかはゆかし」について次のような説明がなされていました。


老後の生活費は1億円必要と言われています。自分年金としての1億円は、もはや誰にでも必要なお金だと言えそうです。将来1億円を確保するための最良の方法は、複利効果とリスク分散効果を前提にした「長期積立」です。理論的には、年利10%で月5万円を30年間積み立てすれば1億円が貯まります。では、現実的に年利10%以上のファンドはどこにあるのでしょうか?

実は、海外には年利10%以上の優良ファンドが豊富に存在しています。第100位のファンドでも16%の好成績というデータが出ています(Barron's TOP100 Hedge Funds)。そもそも日本の販売会社で買えるファンドは世界で流通している金融商品のわずか3%に過ぎません。しかしいくら視野を広げたとしても、こうした優良ファンドを日本の販売会社で買うと、販売手数料がかかってしまうのが今までの日本の常識でした。そこで、全く新しい仕組みで自分年金を支援するために生まれたのが「いつかはゆかし」です。

このように言われると、これは凄い金融商品ではないかと思ってしまう人も出てくるでしょう。では、そもそも30年で1億円が本当に貯まるのでしょうか。

確かに年利10%以上の複利計算をすると、月5万円の積み立てを30年続ければ1億円に到達することになります。しかし、30年間、いわば勝ち続けられるような投資は本当に可能なのでしょうか。

そもそもこの会社は投資助言会社ということで、投資は直接本人が行わなければならないものです。しかも投資助言会社とは、「いわば医者と同じ立場。だからこそいかなる金融機関とも資本関係を持たずに、中立の立場で世界の評価機関のデータを基にファンドを紹介することができます。」としていますが、医者であれば治療や手術も行い、患者に対して一定の責任を持つものではないでしょうか。このあたりもどうも奇異な感じがしてしまいます。

同社は「日経ビジネス」をはじめ様々な雑誌に広告を掲載し、その中で「急成長企業ランキング2年連続受賞」(デロイトトウシュトーマツ日本テクノロジーFast50)、「個人投資家500人に聞いた海外投資を相談したい会社第1位」(2011年度、マクロミル調べ)といったように、各種ランキングでトップクラスの評価を得ていると誇示していますが、この辺りは先述したようなランキングの罠といったところです。

結局のところ、2013年10月11日、金融庁関東財務局は同社に対する検査の結果、複数の法令違反行為が認められたため、半年間の業務停止命令と業務改善命令という行政処分を行ったのでした。具体的には、


①無登録で海外ファンドの募集又は私募の取扱いを行っている状況
② 著しく事実に相違する表示又は著しく人を誤認させるような表示のある広告をする行為
③顧客の利益に追加するため財産上の利益を提供する行為

という3点の法令違反の事実が認められたとしています。特に、②については、


当社は、雑誌記事広告において、当社の提供する助言サービスである「いつかはゆかし」並びに国内証券会社及び国内投信会社が販売する積立商品の合計6商品を「国内外の主要積立商品比較(過去5年間の年平均利回り)」との表題の下、グラフにより比較し、6商品の中で「いつかはゆかし」が15.34%と、最も高い平均利回りを上げていると記載している。

しかしながら、過去5年間の年平均利回りとして15.34%というパフォーマンスを上げていた投資商品は、当社顧客が投資対象を選択するに当たり選択肢となり得る投資商品の一つではあるものの、当社は、当該投資商品の取得を顧客に助言したことはなく、顧客が当社の助言を受けて当該投資商品を取得した事実もない。

と指摘を受けています。やはり「いつかはゆかし」には、大きな問題があったのです。

これによって、「いつかはゆかし」の広告は消え、同社も社名を変えましたが、依然として事業は行っているようです。

2018年には、ケフィア事業振興会という食品通信販売会社が破産しました。ここでは、オーナー制度と称して、干し柿などのオーナーになれば半年で約10%の利回りを保証するなどとしていました。やはりうまい話には要注意です。

データ・リテラシーの鍛え方 “思い込み”で社会が歪む
田村 秀
1962年生まれ。北海道出身。東京大学工学部卒。博士(学術)。自治省、香川県企画調整課長、三重県財政課長、東京大学教養学部客員助教授、新潟大学法学部教授・学部長を経て、長野県立大学グローバルマネジメント学部教授(公共経営コース長)。専門は行政学、地方自治、公共政策。著書多数。

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