要旨
- 円高ドル安が2つの意味で進まなくなっている。一つは「円高トレンドの消滅」だ。ドル円は2017年以降、概ね105円~115円のレンジ内で一進一退を続けており、かつて(2007年~2012年や2016年)のようにトレンドとして円高ではない。そして、もう一つは短期的な変動としての「リスクオフの円高の鈍化」だ。従来、市場の警戒感が高まる場面では、ドル円でも「リスクオフの円高」が進行してきた。しかし、特に昨年9月以降はリスクオフ局面での円高反応が鈍くなっており、今年年初の中東情勢緊迫化や足元の新型肺炎拡大に際しても、円高ドル安が殆ど進んでいない。
- 高トレンド消滅の背景としては、(1)日米物価上昇率の格差縮小、(2)貿易収支の赤字化、(3)対外直接投資の拡大、(4)米金融緩和に伴うリスクオン地合いの形成が挙げられる。そして、「リスクオフの円高」鈍化の背景としては、(1)米金融緩和によるリスクオフ度合いの抑制、(2)「リスクオフのドル買い」の活発化、(3)国内投資家による円高時の米債購入、(4)投機筋の円売りポジション縮小が挙げられる。
- このように、近年、円高が進まなくなった理由として多くの構造変化が挙げられるが、今後も円高が進みづらい状況が維持される保証はない点には注意が必要だ。現在、円高を抑制している要因のうちの多く、具体的には「米金融緩和に伴うリスクオン地合いの形成」、「米金融緩和によるリスクオフ度合いの抑制」、「リスクオフのドル買いの活発化」、「国内投資家による円高時の米債購入」については、「米国経済は足元堅調で、先行きも堅調が維持される」という米国経済に対する信頼感や安心感が大前提にある。従って、今後もし米国経済に陰りが生じ、この前提に疑問符が付けば、ドル円でも再び円高が進行しやすくなるだろう。円高リスクへの警戒が不要になったわけではない。