ソフトバンクグループ創業者の孫正義氏。世界長者番付に名を連ねる一方で、社長を務めるソフトバンクグループは借金の多い企業としても知られている。さらに、一から築き上げてきた本業を次々と変えることもいとわない。その根底には、孫正義流の経営哲学がある。

借金ができるのも実力のうち

孫正義,経営哲学
(画像=PIXTA)

日本人は「借金」という言葉が大嫌いです。「お金を借りること=悪いこと」という価値観が根付いているのでしょう。確かにひと昔前は、自前でコツコツお金を貯めるのが最も確実で安全だったかもしれません。

しかし、孫社長の考えは正反対です。

「お金を貸してくれるということは、ソフトバンクという会社の価値を認めてくれている証拠。だから借金できるのも実力のうちなのだ」つまり借金は、マイナスを背負うどころか、企業価値の証明になる素晴らしいことなのだ。そう孫社長は考えているわけです。

今は世の中の「人・もの・金」を必要なときに必要なだけ調達できる時代です。そして調達に必要なのは事業アイデアだけ。以前は土地や建物を担保にしなければ借りられなかったお金が、発想一つで手に入るのです。孫社長なら、「借金しないなんて損じゃないか!」と言うでしょう。

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孫正義氏が「借金」も「赤字」も恐れない理由(2019/11/09公開)

急成長の陰にある「わらしべ戦略」

日本有数の大企業になった現在のソフトバンクしか知らない人は、「もともと資金力があったから、ここまでビジネスを拡大できたのだろう」と考えるかもしれません。

しかし少し前まで、ソフトバンクは数あるベンチャー企業の中の1社に過ぎませんでした。「Yahoo! BB」の事業を立ち上げた当時でさえ、孫社長以外のプロジェクトメンバーは私とエンジニア二人だけで、与えられたのも小さな雑居ビルの一室でした。

その直前にITバブルが弾けて、ソフトバンクの株価は時価総額で100分の1にまで転がり落ちていました。だからお金もなければ、人手もない。スタートアップと同じような小所帯からの再スタートでした。

ところが、それからわずか3年後には日本テレコムを買収。さらに2年後にはボーダフォン日本法人を1兆7,500億円で買収し、ソフトバンクは通信事業会社として一気に拡大を遂げましたここまでの急成長を可能にしたのが、「わらしべ戦略」です。

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孫正義氏がソフトバンクを急成長させた「わらしべ戦略」(2019/11/28公開)

「3年」で次の事業を始める理由

誤解を恐れずに言えば、孫社長は飽きっぽい経営者です。新しい事業を始めても、3年もすれば飽きてしまいます。携帯電話事業を始めた頃は、日本中の携帯端末を部屋にズラリと並べて、それを眺めながら携帯電話のことばかり夢中になって考えていたものですが、おそらく今の孫社長の頭の中はIoTやプラットフォームへの投資のことで一杯のはずです。

でも実はこれ、企業が成長を続けるにはとても良いことなのです。変化のスピードがどんどん加速している今、事業のライフタイムはどんどん短縮されています。一時は天下をとったビジネスでも、非常に短いサイクルで市場からピークアウトしていきます。早い場合は、それこそ3年くらいで姿を消していく事業もたくさんあります。

Yahoo!オークションもeBayを追い出して一強体制を作り上げましたが、今では中古品売買と言えばメルカリが圧倒的勝者です。その分野でナンバーワンになったとしても、事業そのものが成熟期に入り、やがて衰退期に差し掛かれば、成長期に入った他の事業に押されて縮小や撤退の道を辿ることになります。

(中略)

ソフトバンクは時代とともにエスカレーターを乗り換え続けてきました。「ムーアの法則」に従ってIT業界という大きなドメインには留まり続けていますが、実はその中で成長しているセグメントをいち早く見つけてきたのです。ソフトウェアの販売に始まり、コンピュータ雑誌の出版、ADSL、モバイル通信、ロボットと乗り換え、今またARMの買収によりIoTという上りのエスカレーターに乗り換えようとしています。

孫社長を見ていると、「次の上りのエスカレーターはどこだ?」と探し続けることこそが、経営者の最も大事な仕事なのだとわかります。

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孫正義氏が本業を変え続ける理由(2019/11/17公開)

失敗の責任は全てリーダーにある

経営者として、社員に語るネタは常にストックしておきたいものだ。言葉の力は偉大なもので、ビジネスの本質を突く名言というのは社員の心を揺さぶり、士気を高め、組織力を強化させる。

全ての失敗の責任は己の責任である。全ての成功の要因は仲間の力である。そう思えない人はリーダーになってはならない。(ソフトバンク創業者 孫正義)

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社員に語りたい!偉大な経営者たちが残した、強い組織力を生み出すための言葉(2018/06/26公開)

迷ったときの答えは「YES」

数年前、ソフトバンクの孫正義さんが、ツイッターのフォロワーたちから寄せられるリクエストやアイデアについて、その場で「やりましょう」と応えて話題を集めました。

フォロワーの側からすれば、日本を代表する大企業をユーザーからのリプライひとつで動かせるなんて、夢にも思っていなかったでしょう。しかし、実際に実現した事案は少なくありません。

孫さんの素晴らしいところは、これを直接的なマーケティングととらえた点にあります。あいだに代理店やコンサルタントを介することなく、エンドユーザーからダイレクトに寄せられた声なのですから、これを重視しない手はありません。

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孫正義が人の提案を絶対に断らない理由 常識を覆す「DCAP」とは?(2019/09/11公開)

どんな未来が待っているのか

孫正義氏の独自の経営哲学が、ソフトバンクグループを日本を代表する企業に成長させたと言っても過言ではない。新規事業という「上りのエスカレーター」を次々と乗り換えるその先で待っているのは、どのような未来なのだろうか。