これまで海外不動産は一部の投資家において節税手段の一つとして活用されてきました。しかし2020年度税制改正により、この節税策が封じられてしまいました。今回は、これまでの海外不動産による節税策の内容を見るとともに税制改正でどのように変わったのかを見ていきます。
これまでの海外不動産による節税策とは
海外不動産による節税策の特徴は一言で表すと「国内外の差をうまく使った節税」です。特にその国の風土や歴史、価値観が大きく影響する不動産は格好の道具でした。
中古資産の減価償却における耐用年数がカギ
節税策の内容を見る前に日本の税制を再確認してみましょう。この節税策でカギとなるものの一つが中古資産の減価償却で用いられる耐用年数です。日本の税制では中古資産の耐用年数は以下のように算出します。
【新築時の耐用年数を経過しきっていないもの】
・新築時の耐用年数-経過年数+経過年数×0.2=取得時の耐用年数(※)
【新築時の耐用年数を経過しきったもの】
・新築時の耐用年数×0.2=取得時の耐用年数(※)
※算出した年数に1年未満の端数がある場合は切り捨てになります。なお算出した年数が2年未満の場合は2年とします。
新品より中古のほうが耐用年数は短くなります。耐用年数が短いということは、その分、1年あたりに計上できる減価償却費が大きくなるということです。これが日本国内に所在する不動産だけに適用されるならまだ経済的合理性があると見られるのですが、海外に所在する不動産に適用すると実態と計算上の数値に乖離が生じます。
なぜなら国内と国外では中古資産の価値の見方が大きく異なるからです。
海外の中古建物なら「保有時」「売却時」の両方で節税できる
欧州などを中心として国外に所在する建物の多くは建築年数が経過しても日本ほど価値が減少せず中古資産であっても高値で取引されます。「ヨーロッパによくある貴族のお城」をイメージするとよいかもしれません。日本の投資家の一部は価値が減少しない中古資産に着目かつ、日本の税制の穴をついて節税を図ったのです。
まず取得後に賃貸を行う場合です。中古建物を取得して早々に多額の減価償却を計上します。賃貸物件であれば不動産所得となりますが、ここで短期での減価償却を計上することで赤字が生じ、かつ他に給与所得などがあれば損益通算をして全体の所得を下げることが可能です。場合によってはより低い税率を適用することになるので結果的に節税となります。
次に一定期間保有した後の売却の場面です。建物を高値で売却し利益が発生すれば譲渡所得としての課税対象となります。不動産の譲渡所得については分離課税が適用され、かつ5年以上保有していた物件については20.315%(所得税15.315%、住民税5%)の税率適用です。譲渡所得を計算する際、取得費(所得計算上の経費)が小さくなっているため課税対象となる所得額は高額になります。
しかし適用される税率が低く、かつ他の所得とは分離されて完結するため、所得税は低く抑えられるのです。
税制改正で海外不動産の税金はこうなった
実態と理論が乖離した、ある種「租税回避」とみられる節税策について日本の税務当局も黙ってはいられません。この状況を是正するため、2020年度税制改正では以下の取り扱いとなりました。
不動産所得のうち国外の中古建物から生じるものが損失の金額(赤字)となる場合、その損失額のうち減価償却額相当額については「生じなかったもの」とみなす
つまり減価償却費の計上で不動産所得が赤字となっても減価償却費部分については「赤字と認めない」と明言されたのです。国内不動産から生じた不動産所得とも相殺できないし、ましてや損益通算もできません。この改正は、2021年以後に発生する不動産所得について適用されます。
損益通算に使えなかった減価償却累計額は取得費計上できる
税制改正があったからといっても損するだけではありません。なぜなら損益通算に使えなかった赤字の累積額は、売却時における譲渡所得の計算では利益を圧縮するのに使えるからです。赤字とみなされなかった減価償却累計額相当分は、国外の中古物件の譲渡所得計算上、取得費に算入できます。多額であればその分所得を圧縮することができるのです。
ただ不動産の譲渡所得については分離課税で低い税率が適用されていたうえ、ここで赤字が発生しても他の所得との損益通算には使えません。こういった点では、高所得者にとって「やはりおいしくない改正」といえそうです。(提供:YANUSY)
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