不動産投資で順調に収益を上げるようになると、法人化を検討するケースが多いです。その際のポイントは、法人化のメリット・デメリットと法人化する時期です。場合によっては、法人化しないほうが有利になることもあります。法人化に最適なタイミングや、注意点について解説します。
1.不動産投資における個人と法人の違い5つ
まずは、不動産投資を個人で行う場合と法人で行う場合で、大きく異なる点を5つ挙げてみましょう。
個人 | 法人 | |
---|---|---|
最高税率 | 45% | 約30%(実効税率) |
損失を繰り越しできる期間 | 3年 | 10年 |
売却益に対する税率 | 短期譲渡所得:39.63% 長期譲渡所得:20.315% | 所有期間に関係なく約30% |
減価償却費の取り扱い | 強制償却 | 任意償却 |
節税手段 | 少ない | 多い |
最高税率
所得にかかる税率は、個人の場合は所得が増えるにしたがって税率も上がる累進課税制度になっています。たとえば所得が900万円を超えると税率は33%となり、実に所得の3割を税金で持っていかれることになります。それに加えて、住民税が10%かかります。不動産投資で事業を拡大していくと、アパート数棟規模でも所得1,000万円を超えることは珍しくありません。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 9万7,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 42万7,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 63万6,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円超 | 45% | 479万6,000円 |
法人の税金の仕組みは個人と違うので単純比較はできませんが、法人税率は最高でも23.2%、年800万円以下の法人なら15%です。法人税に法人住民税や法人事業税を加えた実効税率は、最高でも約30%です。所得が高くなればなるほど、法人のほうが有利になることがわかります。
法人税率
税率 | |||
資本金1億円以下の法人 | 年800万円以下の分 | 下記以外の法人 | 15% |
適用除外事業者 | 19% | ||
年800万円超の部分 | 23.2% | ||
上記以外の普通法人 | 23.2% |
損失を繰り越しできる期間
損失が発生して年間の収支が赤字になった場合、その赤字を繰り越しできる期間は、個人(青色申告)が3年であるのに対して、法人は10年です。
売却益に対する税率
不動産の売却益に対する税率は、個人の場合は物件の保有期間に応じて長期(5年超)と短期(5年以下)に分かれます。長期譲渡所得では20.315%ですが、短期譲渡所得では39.63%もの高い税率が課せられます。これらの譲渡所得は分離課税なので、他の不動産所得などと合わせて計算することができません。つまり不動産所得が赤字でも、売却益に対する税金は納めなければならないのです。
法人の場合は、物件の保有期間で税率が変わることはなく、分離課税でもありません。全体の所得に対して、前述の法人税率が適用されます。
減価償却費の取り扱い
減価償却費の計上については、個人の場合は減価償却のルールに則って必ず行う必要があります(強制償却)。これに対して法人は、会社の判断で償却するかどうかを決めることができます(任意償却)。あえて減価償却費を計上しないことで黒字を増やし、銀行借入をしやすくするといったことができるのです。
節税手段
個人よりも法人のほうが多くの節税手段を利用できます。たとえば、生命保険を利用して節税する方法があります。個人の場合、いくら高額の生命保険料を支払っても、生命保険料控除額の上限は4万円です。法人の場合、「全損」「半損」タイプの保険を活用すれば、生命保険料の全額、半額を損金(経費)扱いにできます(全損、半損タイプの保険はその時々によって扱いが変わっています)。
また法人の場合は、代表者や家族に対して役員報酬を支払うと、そのすべてが損金になります。報酬を受け取った代表者や家族は個人所得が増えてしまいますが、給与所得控除が適用されるので、個人で事業所得を得る場合よりも税額を抑えられます。
2.法人税のメリット5つとデメリット5つ
法人化によって得られるメリットとデメリットを5つずつ挙げてみました。
(1)法人化のメリット
・メリット1:税率が個人よりも低い
前述のとおり、個人の最高税率が45%(住民税と合わせて55%)であるのに対して、法人の実効税率は約30%。所得が上がれば上がるほど、法人のほうが有利になります。また、物件を短期間で売却した場合の売却益に対する税金も、法人のほうが有利です。個人のように、短期譲渡所得となって税率が跳ね上がることがないからです。税金面の優位性が、法人設立の最大のメリットと言えるでしょう。
・メリット2:所得の分散効果がある
メリット1と連動しますが、法人を設立することで所得の分散効果を得られます。個人事業の場合、たとえば事業主が妻を青色申告専従者にして給与を払ったとしても、事業主と妻の2名だけで所得を分散することになります。法人であれば、法人・オーナー・妻の3者に所得を分散できるので、それぞれの所得が抑えられて低い税率が適用され、税金の総額を低く抑えられることが多いです。
・メリット3:経費計上できる項目が多い
前述の生命保険料控除や役員報酬のほか、旅費規程を設けて出張旅費を計上したり、自宅の一部を社宅として家賃を経費にしたり、スポーツクラブの会費を福利厚生費にしたりするなど、さまざまな項目を経費として計上できます。経費として計上できる項目は、個人よりも法人のほうが多いです。
・メリット4:相続税対策もできる
不動産を持つオーナーが亡くなって相続が発生した場合、遺族の間でその不動産をどう分割するかという協議を行う必要があります。不動産は分割することが難しいので、話がまとまらず相続トラブルに発展することもあります。法人が不動産を所有していれば、法人の株を分割すればいいので、相続トラブルにはなりにくく、意図しないタイミングでの売却を回避できます。
・メリット5:融資に有利になる可能性
一般的に個人よりも法人のほうが社会的信用力があるので、銀行融資を受けやすいと言われています。銀行によっては、個人に対して融資額の上限を設けているところもあります。法人なら限度額はないので、規模を拡大していきたいなら法人のほうが有利です。
(2)法人化のデメリット
・デメリット1:赤字でも必ず税金が発生する
個人の場合、収支が赤字であれば税金は発生しません。しかし法人の場合、赤字でも法人住民税の均等割(7万円前後)を必ず納める必要があります。
・デメリット2:経理・申告作業が面倒
個人事業の経理や確定申告の作業はそれほど難しくはなく、会計ソフトを使えば誰でも簡単に済ませることができます。しかし法人の経理や申告となると、ハードルがグッと上がります。会計ソフトの利用料も法人のほうが高いです。経理や申告を税理士に任せるとなると、その費用が発生します。ランニングコストは、個人よりも法人のほうが多くなるということです。
・デメリット3:社会保険の加入義務が発生する
法人がオーナーに対して役員報酬を支払うようになると、社会保険の加入義務が発生します。つまり、厚生年金と健康保険の支払いを、税金とは別に負担する必要が出てくるのです。
・デメリット4:設立に費用がかかる
個人事業であれば、税務署に届けを出すだけで事業を開始できます。しかし法人の場合、設立が最も簡単な合同会社でも最低6万円はかかります。司法書士などの専門家に依頼した場合は、十数万円かかることになります。
・デメリット5:事業廃止に費用がかかる
個人事業であれば、事業廃止するには届けを出すだけで済みます。しかし法人の場合、解散登記などの手続きに3万円以上の費用がかかります。
3.法人化のベストタイミングとシミュレーションの重要性
不動産投資を法人で行っていくとして、法人化をするタイミングはいつが最適なのでしょうか。最適な時期は人によって異なり、「これがベスト」と言えるものがないというのが結論です。とはいえ、ある程度の目安はあります。以下の3点を法人化の目安とお考えください。
法人化のベストタイミング 3つの目安
(1)所得税率が33%を超えた時
法人実効税率は約30%なので、これを個人の所得税率が超える時が、法人化を考えるタイミングと言えます。つまり所得900万円、所得税率33%を超えたタイミングです。逆に言えば、所得税率が33%以下なら、法人よりも個人のほうが所得税の面では有利と言えます。
(2)不動産投資一本で食べていける自信がついた時
サラリーマン大家さんとして、不動産所得を兼業ととらえているうちは、事業規模を一定以上に拡大することは難しく、個人事業主としてやっていたほうが面倒がなくていいでしょう。しかし、不動産投資事業がうまく回るようになり、不動産投資だけで食べていけるという自信がついたなら、将来の規模拡大を見据えて、早いうちに法人化したほうがいいでしょう。
(3)最初から
人によっては、最初から法人で不動産投資を行うケースもあります。最初は個人事業で始めて、途中から法人に移行するという方法もありますが、その場合は面倒なことがあります。個人所有の物件を法人に移すには、費用と手間がかかるからです。新設法人であっても、オーナーの信用力で融資をしてくれる銀行もあります。最初から法人を設立して、不動産投資をスタートする投資家は少なくないのです。
法人化のベストタイミングを図るにはシミュレーションが必須
不動産投資で収益が上がっているなら、法人化は非常に効果的な節税対策になります。一方で法人化すると、不動産は法人所有となるため、簡単に個人事業に後戻りすることはできません。法人化する前には、十分なシミュレーションをすることが大切です。
法人化のシミュレーションでは、個人事業の場合と法人化した場合に分けて、発生する税金や維持コストを比較検討しましょう。
個人事業の場合、所得金額に応じた所得税・住民税の負担が発生します。法人化した場合、役員報酬を経費にした上で、法人に残った利益に対して法人税がかかります。本人や家族に支払った役員報酬には、それぞれ所得税がかかります。さらに、法人税の申告を税理士に依頼する場合は、法人の維持コストとして税理士報酬という経費が新たに発生することになります。
法人の維持コストとあわせて検討する必要があるのが、法人化による初期コストです。法人設立の登記費用、司法書士報酬といった項目を洗い出し、初期コストを試算しましょう。
法人化による初期コストは、法人化後の節税メリットによって数年で回収できることが前提です。実際に何年後から法人化による節税メリットが得られるかは、法人化を考える上で重要な判断材料になります。
まとめ
不動産投資を個人事業として行うか、法人として行うは、その人の置かれた状況や将来の計画にもよるので、どちらが有利とは一概には言い切れません。ただし、事業規模が一定以上に拡大した場合には、法人のほうが有利な面が多いと言えます。法人化を判断する前に税理士などに相談し、しっかりシミュレーションを行い、納得した上で法人化することが大切です。(提供:YANUSY)
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