事業譲渡による企業買収時に発生する「のれん」。のれんは譲受企業の税金や買収金額などに関わってくる、M&Aにおいては非常に重要なポイントです。M&Aを検討している中小経営者は、これを機にのれんの概要や正しい取り扱い方を理解しておきましょう。

事業譲渡における「のれん」とは?

企業買収時の「のれん」は損金になる?節税のために押さえたい基礎知識と今後の動向
(画像=PIXTA)

「のれん」はM&Aによって企業が売買された時に発生する、勘定科目のひとつ。簡単に言えば目に見えない資産価値(=超過収益力)のことであり、たとえば譲渡企業の技術力やブランド力、人的資源など、個別財務諸表に表れない価値を数値化したものです。

のれんは以下のように計算する方法が決められており、以下の式がプラスになる状態は「正ののれん」、マイナスになる状態は「負ののれん」と言われています。

のれん=譲受企業の取得額-譲渡企業の時価純資産価額

事業譲渡で発生したのれんは損金として計上でき、金額が大きいほど譲受企業の節税効果は高くなります。ただし、株式売買による取引では損金算入が認められていないため、注意が必要です。

収益力を評価するM&Aでは、のれんが発生する

のれんが発生するメカニズムは、譲受企業の立場で考えると分かりやすいです。

譲受企業となる買い手は、超過収益力やシナジー効果などを狙ってM&Aを実施しています。つまり、基本的には何かしらの魅力を持った譲渡企業が見つからない限り、資金を費やしてまで買収を進めることはありません。

仮に魅力的な譲渡企業が見つかると、将来的な収益力も評価した上で買収金額を決定します。このとき、収益力の評価は純資産価額とは関係なく算出されるため、その場合のM&Aではのれんが発生します。

一方で、多額の簿外債務を抱える可能性が高い場合、将来的に退職金が発生する場合などは、負ののれんが発生することもあります。

のれんの正しい処理方法は?会計上・税務上で取り扱いが変わるため要注意

企業買収時ののれんの取り扱いは、会計上・税務上で違いが見られます。そのため、以下では2つのパターンにわけて、のれんの正しい取り扱い方を見ていきましょう。

会計上での取り扱い方

会計上での「正ののれん」は無形固定資産として扱われ、販売費および一般管理費として区分されます。また、一般的には定額法による減価償却(最大20年以内)で処理されており、このときの償却方法と耐用年数は譲受企業が決定します。

一方で、「負ののれん」は事業年度の特別利益として処理されます。つまり、正ののれんとは違い発生した年度での一括処理となるので注意しておきましょう。

税務上での取り扱い方

税務上での正ののれんは「資産調整勘定」、負ののれんは「差額負債調整勘定」として扱われます。ここで注意しておきたいのは、会計上ののれんと税務上での資産調整勘定(差額負債調整勘定)が、必ずしも一致しない点です。

例えば役員退職慰労引当金のように、会計上では費用に計上されるものの、税務上では損金不算入となる項目がいくつか存在します。その影響で、会計上と税務上とでは純資産額に違いが生じるため、純資産額を用いて算出されるのれんの金額にも差が生じます。

また、資産調整勘定では営業権等を取得した日から60ヶ月の月割計算で損金になります。同様に差額負債調整勘定でも営業権等を取得した日から60ヶ月の月割計算で損金になります。会計上とでは償却期間も変わってくるので、違いを正しく理解しておきましょう。

将来的にのれんの取り扱いが変わる可能性も

実はのれんの税務上の取り扱いについては、2006年の税制改正以降にルールが設けられました。そのため、将来的にのれんの取り扱いが変わる可能性も考えられます。

世界的にものれんの処理方法は議論されており、2018年9月には国際会計基準審議会が国際会計基準(IFRS)として、費用計上を義務づける議論を開始。特にIFRSを導入する企業には、近い将来大きな影響が生じる可能性があります。

国内に関しても、税制が見直される可能性はゼロではありません。M&Aを検討している企業は、税制に関する最新の知識をしっかりと身につけておくことが重要です。

会計上・税務上の違いを意識し、正しい理解を

のれんはM&Aの買収金額に関わってくる要素であり、譲受企業・譲渡企業のどちらにとっても重要なポイントです。特に譲受企業は、のれん(資産調整勘定)を損金算入できるかどうかで節税効果が変わってくるので、正しい知識を身につけておくことが大切です。

M&Aを検討している企業は会計上・税務上の違いも意識しながら、概要や取り扱い方をしっかりと理解しておきましょう。(提供:企業オーナーonline


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