居住用物件の家賃が非課税ということは、不動産オーナーならご存じの人が多いかもしれません。しかし居住用物件を事務所として貸したり、住宅とは別に駐車場を貸したりしていた場合はどうなるでしょうか。
課税の分かれ目になるのが、事業用収入が1,000万円を超えるかどうかです。家賃収入が非課税になるケースとならないケースを知ることはオーナーにとって重要です。本記事では、家賃収入などの消費税の基本知識について解説します。
目次
1.居住用の家賃収入は非課税
2019年10月に消費税が10%へ増税されましたが、なかには支払いが増えないものもありました。家賃がその一つです。賃貸住宅に住んでいる人は、消費増税があっても家賃負担が増加しなかったため、ホッと胸をなで下ろした人も多かったことでしょう。
逆に不動産オーナーは、消費増税に伴って管理会社への管理委託費などの経費は増えているのに家賃収入は増えず歯がゆい思いをした人も多いかもしれません。
1-1.居住用物件の家賃は消費税が非課税
居住用物件の家賃は、消費税が非課税となる取引の一つです。このほかに非課税取引となる項目としては、例えば以下のようなものを挙げることができます。
・有価証券の譲渡(ゴルフ会員権などは除く)
・商品券やプリペイドカードなどの譲渡
・社会福祉事業などによるサービス
・教育費(授業料や入学金)など
これらは消費税の性格となじまなかったり、社会政策的な配慮であったりすることから課税しない取引として決められています。
ただし、居住用物件であっても入居期間が1ヵ月未満の場合は、住宅用と認められず課税売上の対象となります。したがって、民泊として貸す場合は事業用になるので消費税が課税されます(課税売上1,000万円以下は免税)。
2.事業用の家賃収入は課税される!非課税の場合は?
同じ部屋を貸す場合であっても「事務所利用を目的とする法人」などへ貸す場合はどうでしょうか。この場合は居住用ではないため家賃収入は課税の対象となります。
つまり家賃8万円の部屋を居住用に貸すなら家賃収入はそのまま8万円ですが、事務所用として貸すなら消費税10%が加わって8万8,000円の家賃収入になるということです。この場合、課税売上1,000万円超の課税事業者は消費税として預かった8,000円は、納税のためにとっておかなければなりません。
ただし、法人が借りるとしても従業員のための社宅や寮として借りるなら「居住用」になるため、非課税取引となります。
2-1.礼金、敷金、共益費、更新料は非課税
家賃以外の項目の消費税はどうなるでしょうか。家賃以外にオーナーが受け取るお金は、礼金や敷金、共益費、更新料があります。居住用賃貸ではこれらはいずれも家賃と同様の性質があるため、非課税です。また、入居者から預かる敷金や保証金も非課税となります。
事業用賃貸では敷金や保証金が非課税なのは同じですが、礼金・共益費・更新料は課税されます。
▽居住用と事業用の課税・非課税の区分
居住用賃貸 | 事業用賃貸 | |
---|---|---|
家賃 | 非課税 | 課税 |
礼金 | 非課税 | 課税 |
敷金 | 非課税 | 非課税 |
保証金 | 非課税 | 非課税 |
更新料 | 非課税 | 課税 |
管理費 | 非課税 | 課税 |
共益費 | 非課税 | 課税 |
駐車場 | 課税・非課税 | 課税・非課税 |
2-2.土地を貸すだけなら非課税
空いている土地を資材置き場などとして貸す場合は、非課税です。ただし土地の貸し付けであっても貸付期間が1ヵ月に満たない場合は課税対象となってしまいます。1ヵ月未満の短期の貸出は、物を保管するためのサービスとして扱われるからです。
土地の貸し付けが非課税になるのは、更地のまま貸しているかどうかで決まります。何も手を加えずに青空駐車場として貸し出す場合や、更地のまま草野球やテニスに使用させる場合は土地を消費するわけではないので非課税になります。
一方、施設駐車場にした場合や、野球場、テニスコートとして整備して貸し出す場合は、施設を消費することになるので課税されます。「青空」か「施設」かを、1つの判断材料にするとわかりやすいかもしれません。
もう1点、貸主が更地のまま貸し出して、その後借主が全額自己負担で施設を開設した場合は、あくまで更地を貸し出しただけなので、非課税となります。
2-3.事業用家賃収入が1,000万円を超えると課税事業者
事業用の家賃収入に課税されるといっても、すべてのオーナーが納税しなければいけないわけではありません。その分かれ目になるのが課税売上1,000万円超という水準です。事業用家賃収入が1,000万円を超えた場合は課税事業者となり、消費税の納税義務が生じます。
したがって、売上が1,000万円を超えてもオフィスビルの家賃収入が800万円、マンションの個人入居者からの家賃収入が500万円であれば課税売上が1,000万円以下のため納税義務は生じません。
本来なら事業用家賃収入800万円+消費税80万円=880万円の売上を得たオーナーは80万円の消費税を納税しなければなりませんが、非課税事業者であるため納税が免除されています。この免除された消費税相当の80万円は手元に残ります。これが益税と呼ばれるメリットの1つになっているのです。
消費税は支払う立場ではコストでしかありませんが、非課税事業者の立場になると売上の一部と考えることができます。そのため、居住用物件に消費税がかからないことは、オーナーにとってはマイナスにもなるのです。
3.集合住宅の共益費や管理費は非課税?
集合住宅の共益費や管理費は消費税が非課税となります。他の項目では徴収の仕方によって課税・非課税が分かれるものもあり、オーナーにとっては判断が難しいところです。集合住宅で非課税になるものとならないものを確認しておきましょう。
3-1.集合住宅で非課税になるもの
集合住宅で非課税になるものは、家賃、共益費、管理費、駐車場料金(入居者分の駐車台数が確保され、駐車場料金が家賃に含まれている場合)、家具・家電・トランクルームなどのレンタル料金(あらかじめ設置され、レンタル料金が家賃に含まれている場合)、居住者のみが利用できるプール・アスレチック・温泉施設利用料金などです。
3-2.集合住宅で非課税にならないもの
集合住宅で非課税にならないものは、部屋を法人の事務所として貸した場合の家賃、住宅から離れた場所にある駐車場料金、利用者のみから徴収する駐車場料金、家具・家電・倉庫などのレンタル料金、外部の人も利用できるプール・アスレチック・温泉施設利用料金などです。
家賃と駐車場料金・レンタル料金を別に請求すると消費税が課せられるので、賃貸借契約書を作成する際に家賃に含めるなどの工夫が必要です。
課税・非課税の有無で迷う場合は、下記国税庁ホームページに判定の一覧表があるので、参考にするとよいでしょう。
国税庁ホームページ「集合住宅の家賃、共益費、管理料等の課税・非課税の判定」
4.駐車場の賃料収入は課税される可能性が高い
多くのマンションには居住者用の駐車場が併設されていますが、駐車場の場合は消費税を課税される可能性が高いです。一般的に土地は経年により劣化するという概念がないので非課税とされています。つまり消費する性質のものではないので、土地の貸付は非課税取引とうたわれているのです。
ところが大阪地方裁判所の2012年4月19日の判例によると、「駐車場として利用している土地は単なる土地の貸付と同列に論じることはできず消費税の課税対象とすることが合理的」と判断されています。
また、駐車場に関する消費税課税の有無は、次に説明するように駐車場を貸し出す方法や場所によっても変わってきます。
4-1.マンションやアパートに付随した駐車場も課税対象
マンションやアパートなどに付随した駐車場を貸す場合も、マンションやアパートに付随していない独立した土地を駐車場として整備し貸す場合も、原則として消費税の課税対象です。消費税は物を買う場合だけでなく、サービスを受ける場合にも課税されます。入居者のうち利用を希望する人だけに駐車場を貸与するとサービスの提供にあたるため課税対象になります。
一方で、入居戸数分の駐車場が確保され、駐車料金が別に徴収されず家賃に含まれる場合は入居者に選択の余地はないため、サービスの提供にはあたりません。この場合、入居者の自動車保有の有無に関わらず全戸に割り当てられていることが条件となります。
土地の貸付は通常非課税取引とされていますが、過去の判例を勘案すると駐車場として使用している土地の場合は課税される可能性が高いといえるでしょう。
5.課税対象者になったら消費税はいつから支払う?
消費税の課税対象者になったとしても、実際に支払うのは2年後からとなります。例えば2020年の課税売上が1,000万円を超えたら、消費税の納税義務が発生するのは2022年分の確定申告からとなるので注意しましょう。
その際に納める消費税は課税事業者になった年ではなく、2年後の売り上げを基に計算されます。課税事業者になった年の売上が5,000万円以下の場合は、「簡易課税制度」を利用することができます。
簡易課税制度を利用すると、業種ごとに決まっている「みなし仕入れ率」を基に消費税率を計算することができます。計算式は次のとおりです。
6.課税売上1,000万円以下なら消費税納税は免除される
家賃収入は居住用なら非課税、事業用なら課税、駐車場は判例を踏まえると課税取引になる可能性が高いといえるでしょう。ただし課税取引となる収入が少ないうちは、消費税についてほとんど気にする必要はありません。
なぜなら課税売上が1,000万円以下の事業者には消費税の支払い義務が免除されるからです。しかし課税売上が年間1,000万円を超えてくると消費税の納税義務が発生します。つまり、受け取った消費税から仕入れにかかった費用の消費税分を差し引き、その差額を納税することが必要です。
消費税の申告期限および納期限は、法人が事業年度終了日の翌日から2ヵ月以内です。例えば、6月決算法人の場合は2ヵ月後の8月31日が納付期限になります。法人は中間申告も可能で、前期の法人税額が20万円超、前期の消費税額が48万円超の企業は年1回、前期の消費税額が480万円超の企業は年2回、前期の消費税額が4,800万円超は年11回中間申告することができます。
また、個人事業者の申告期限および納期限は1月1日から3月31日までです。
7.インボイス制度が実施されれば課税売上1,000万円以下事業者の益税がなくなる
2023年10月から「インボイス制度」の導入が予定されています。インボイス制度は事業用物件を経営し、なおかつ免税事業者(課税売上1,000万円以下事業者)であるオーナーは特に内容を把握しておく必要があります。
インボイスとは適格請求書のことです。適格請求書には登録番号、適用税率、消費税額などを記載する必要があります。この登録番号は所轄税務署に「適格請求書発行事業者」として登録した事業者にのみ交付される番号です。
登録番号を持たない売手が発行した請求書はインボイスとして認められないため、買手は仕入税額控除ができなくなります。そのため適格請求書発行事業者にならないと買手から取引を打ち切られる可能性が出てきます。
不動産経営でも入居している企業からオーナーに対し「適格請求書発行事業者に登録するか、家賃を仕入税額控除分値下げしてほしい」と要請される可能性があります。応じない場合はテナント企業が退去する恐れがあるので、適格請求書発行事業者に登録したほうが無難です。
インボイス制度がスタートすると、これまで課税売上1,000万円以下で免税されていた事業者も消費税を納税する必要が生じます。免税で手元に残っていた益税のメリットがなくなるため、小規模事業者にとっては影響が大きい制度がスタートすることになるのです。
当面は免税事業者としてのメリットを享受しつつ、インボイス制度開始に向けて準備を進めることがオーナーには求められます。
(提供:Dear Reicious Online)
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