「働き方改革関連法」には正規社員と非正規社員の間の不合理な待遇差の解消に向けた規定が盛り込まれ、大企業は2020年4月(中小企業は2021年4月)からの対応が求められる。大企業の中にはパート・アルバイト中心に業務を行っている企業が多い。実際に数万人ものパート・アルバイトの賞与の支払いで年間数十億円もの人件費が増加する場合もあり、多くの企業が頭を悩ませている。

法律で是正が求められる不合理な待遇差の解消とはなにか、不合理な待遇差解消のための点検・検討方法を解説する。

「同一労働同一賃金」とはそもそも何か

賃金
(画像=Artur Szczybylo/Shutterstock.com)

最初に「同一労働同一賃金ガイドライン」から同一労働同一賃金の考え方を見てみよう。

同一労働同一賃金ガイドラインは、短時間、または有期雇用労働者と通常の労働者との待遇の違いの解消に向けた原則的な考え方や具体例を示すものである。基本給、賞与、手当等の個別の待遇ごとに「問題となる例」「問題とならない例」を用いながら解説する。正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で待遇差が存在する場合に不合理であるかどうかの判断基準となる。

同一労働同一賃金の考え方は難しいイメージがあるかもしれない。簡単にいうと「判断要素が同一であれば同一の待遇」「一定の違いがあれば違いに応じた待遇」にしなければならないということである。そして労働者の求めに応じて待遇の違いを「分かりやすく具体的に説明する」義務があるということだ。この考え方を念頭に読み進めてほしい。

同一労働同一賃金ガイドライン内の個別具体例

以下で説明する5項目にない退職金、家族手当、住宅手当なども対象となり各社の個別具体的な事業に応じて労使で議論していくことが望まれる。

1.基本給に関する規定

短時間、または有期雇用労働者と通常の労働者の基本給において、経験や能力、業績や成果、勤続年数などが同じ場合には同一の基本給を支給しなければならない。一定の違いがある場合には、その違いに応じた基本給を支給する。「昇給」についても同様である。

勤続による能力の向上によって決定される場合、この能力の向上に応じた部分については通常の労働者と同一の昇給を、能力向上に違いがある場合にはその違いに応じた昇給を行わなければならない。

2.賞与に関する規定

労働者の貢献に応じて「賞与」が支給されるとき、同一の貢献である場合には同一、貢献に一定の違いがある場合にはその違いに応じた支給をしなければならない。

3.手当に関する規定

企業が支給している手当のすべてが対象になり、不合理な待遇差である手当の性質・目的に照らして判断される。代表的な手当には以下のようなものがあげられる。

 ・役職手当(役職の内容に対して支給)
 ・特殊作業手当(業務の危険度または作業環境に応じて支給)
 ・特殊勤務手当(交代制勤務などの勤務形態に応じて支給)
 ・精皆勤手当
 ・時間外労働、深夜労働、休日労働に対して支給される手当
 ・通勤手当および出張旅費
 ・食事手当
 ・単身赴任手当
 ・地域手当

4.福利厚生に関する規定

企業が付与している福利厚生のすべてが対象になり以下のようなものがあげられる。

 ・福利厚生施設(給食施設、休憩室、更衣室)
 ・転勤者用社宅
 ・慶弔休暇、病気休暇
 ・健康診断に伴う勤務免除や勤務時間中に受診する場合の受信時間にかかる給与の保障
 ・法定外の有給の休暇や法定外の休暇など

5.教育訓練と安全管理に関する規定

「教育訓練」が職務の遂行に必要な技術または知識を習得するために実施するとき、職務の内容が同一である場合には同一、職務の内容に一定の違いがある場合には違いに応じ、教育訓練を実施する。また、「安全管理」について通常の労働者と短時間・有期雇用労働者が同一の業務環境に置かれている場合も、同一の措置および給付をしなければならない。

「問題となる例」「問題とならない例」

参考にガイドラインにある賞与の「問題となる例」「問題とならない例」を紹介しよう。「判断要素が同一ではなく、一定の違いがあれば待遇に差が生じても問題ない」ということでもあるのだ。

・「問題となる例」

会社の業績などへの労働者の貢献に応じて賞与を支給しているA社では、通常の労働者には職務の内容や会社の業績などへの貢献にかかわらず全員に何らかの賞与を支給している。しかし、短時間・有期雇用労働者には賞与を支給していない。

・「問題とならない例」

A社においては、通常の労働者であるXは、生産効率および品質の目標値に対する責任を負って当該目標値を達成していない場合、待遇上の不利益を課されている。その一方で通常の労働者であるYや有期雇用労働者であるZは、生産効率および品質の目標値に対する責任を負っておらず当該目標値を達成していない場合にも待遇上の不利益を課されていない。

A社は、Xに対しては賞与を支給しているが、YやZに対しては、待遇上の不利益を課していないこととの見合いの範囲内で賞与を支給していない。

法改正の背景と経緯

働き方改革関連法施行と法改正までの流れを簡単に見てみよう。

パートタイム・有期雇用労働法(短時間労働者および有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)施行までの流れ

2017年3月28日に「働き方改革実行計画」が決定され、「同一労働同一賃金」の実現に向けて法制度とガイドラインを整備することが打ち出された。そして同年4月から労働政策審議会で法整備に向けた検討が繰り返された。2018年6月には、不合理な待遇差の解消に関する規定も含めた「働き方改革関連法」が国会で成立した。

働き方改革推進に向けた法律関連の整備は、労働政策審議会で引き続き議論が行われ、2018年12月28日に打ち出されたのが、この同一労働同一賃金ガイドラインである。2020年4月に施行される「パートタイム・有期雇用労働法」は従来からある「パートタイム労働法」に労働契約法第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)が加わり「パートタイム・有期雇用労働法」として施行されるのだ。

この結果、2020年4月以降は通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間の不合理な待遇差に係わる規定は「パートタイム・有期雇用労働法」、通常の労働者と派遣労働者の不合理な待遇差に係わる規定は「労働者派遣法」に定められることとなった。

なぜ同一労働同一賃金という考え方が必要か

少子高齢化が進むことにより生産年齢人口が減少し、企業の人手不足はより一層深刻化している。このような情勢下で企業が成長していくには、通常の労働者だけではなく短時間・有期雇用労働者もまた活躍できるような職場環境を整えることが重要だ。企業にとって公正な評価が人材確保につながる。また、公正な評価に納得感が生まれればモチベーション向上につながり、労働生産性が向上する。

つまり正規・非正規社員の待遇差の解消は「働き方改革」の目的の一つといえるだろう。

パートタイム・有期雇用労働法のポイント 均等待遇と均衡待遇

パートタイム・有期雇用労働法の「均等待遇」「均衡待遇」の考え方をみてみよう。

基本となる不合理な待遇解消の考え方~有期雇用労働者と短時間労働者の定義~

企業によって正社員・準社員・契約社員・嘱託社員・パート・アルバイトなど働き方に応じてさまざまな呼び方がある。用語の定義は以下の通りである。

・「通常の労働者」(正社員、準社員、時短正社員、期間の定めのないフルタイムパートなど)
いわゆる正規型の労働者と期間の定めのない労働契約を締結しているフルタイム労働者

・「短時間労働者」(パート、アルバイト、短時間社員など)
 有期・無期にかかわらず1週間の所定労働時間が通常労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者

・「有期雇用労働者」(有期パート、契約社員、嘱託社員など期間の定めがある者すべて)
 期間の定めのある労働契約を締結している労働者

・「比較対象労働者」(正社員、準社員など期間の定めのない労働契約を締結しているフルタイムの労働者)
 不合理な待遇差の有無を検証するために比較する通常の労働者

不合理な待遇差があるかどうかは、基本給や各種手当、福利厚生、教育訓練・安全管理など個々の待遇ごとにその待遇の目的や性質に照らし合わせて判断をする必要がある。通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で「業務の内容」「責任の程度」「職務の内容・配置の変更の範囲」が異なれば、待遇に差があっても問題はない。

しかし、ただ単に「非正規社員だから」という理由で、待遇に差があるのは不公平であり、認められるものであってはならない。

均等待遇(パートタイム・有期雇用労働法第9条)

通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の間で「(1)職務の内容」「(2)職務の内容・配置の変更の範囲」が同一の場合は、短時間・有期雇用労働者であることを理由とした差別的取り扱いを禁止するものである。均等待遇では、(1)(2)が同じであれば同じ取り扱いをすることが義務付けられている。ただし能力や経験などの違いにより差があるのは問題ない。

均衡待遇(パートタイム・有期雇用労働法第8条)

通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で、「職務の内容」「職務の内容・配置の変更の範囲」「その他の事情」を考慮して、不合理な待遇差を禁止するものである。職務の内容、職務の内容・配置変更の範囲以外の事情(成果・能力・経験・合理的な労使の慣行など)は、その他の事情として個々の状況に合わせてその都度検討しなければならない。つまり違いがあれば違いに応じた待遇という意味になる。

パートタイム・有期雇用労働法の説明義務について3つのポイント

通常の労働者との間の待遇差の内容やその理由について求められた場合には、説明義務があることも大きなポイントの一つである。労使のトラブルになったときに説明義務を怠ると、訴訟リスクも懸念されるので気をつけたい。3つの留意するポイントを見てみよう。

1.説明にあたって比較する通常の労働者は誰か

待遇差の内容や理由の説明にあたっては、職務の内容等が最も近い通常の労働者が比較対象となる。

2.待遇差の内容・理由として、何を説明するのか

「待遇差の内容」は、待遇の決定基準に違いがあるかどうか、待遇の個別具体的な内容または待遇を決定する基準を説明しなければならない。「待遇差の理由」は、「職務の内容」「職務の内容・配置の変更の範囲」「その他の事情」に基づき客観的、具体的に説明しなければならない。

3.短時間・有期雇用労働者に説明する際の説明の方法

資料(就業規則や賃金規程など)を活用して、口頭で説明するのが原則である。説明すべき事項をわかりやすく記載した書面を作成して交付することでも問題はない。就業規則や賃金規程に記載して労働者に周知する方法も効果的で、事前に周知することで労使間のトラブルの未然防止に役立つと考えられる。

パートタイム・有期雇用労働法~裁判外紛争解決手続き(行政ADR)について

パートタイム労働者や有期雇用労働者と雇用主との間の紛争についても定められているので、紹介する。

裁判外紛争解決手続きとは

行政ADRとは、労働者と事業主との間の紛争を裁判以外の方法で解決する手続きのことである。パートタイム・有期雇用労働法施行後は、「均衡待遇」「待遇差の内容、理由に関する説明」についても行政ADRの対象だ。パートタイム・有期雇用労働法では行政ADRの根拠規定が整備され、行政(都道府県労働局長)は事業主への助言・指導が直接できる。

紛争となっている労働者または事業主が無料で利用できる制度

1.都道府県労働局長による紛争解決援助
2.均衡待遇調停会議による調停

この2つは、公平な第三者として都道県労働局長または調停委員が当事者の間に立ち、解決策を提示することで、紛争の解決を図ることを目的とする行政サービスである。均衡待遇調停会議で成立した合意は、民法上の和解契約となるのが特徴だ。

待遇差で争われた裁判例

有名な裁判例として有期嘱託社員の各種手当に関する待遇の違いが不合理か否かを争われた「長澤運輸事件(2018年6月1日 最高裁判所判決)」や正社員と契約社員との間の諸手当支給の相違を争った「ハマキョウレックス事件(2018年6月1日 最高裁判所判決)」がある。同一労働同一賃金の考え方は判例の法理を法律化したものでこれまでの裁判における判断基準の積み重ねだ。

基本給、賞与、各種手当、福利厚生や教育訓練と安全管理などの待遇差が不合理かどうかは、個々の事情を総合的に判断し、最終的には判断は司法に委ねられることになる。裁判となると時間も費用もかかるため、行政ADRと呼ばれる裁判外紛争解決手続きの規定が整備されているのだ。

不合理な待遇差を解消する際の注意点

不合理な待遇差解消を検討する際の注意点を見てみよう。

労働契約法の労働条件の不利益変更とは

労働契約は、使用者と労働者の合意により成立するのが大前提であり、労働契約の変更には使用者と労働者の合意が必要になる。

労働契約法9条によると、原則として労働条件を不利益に変更する場合には労働者個々の同意が必要であるため、同意なく就業規則の変更により労働条件を変更しても無効だ。労働契約法10条では、就業規則の変更により労働条件を変更する場合、変更後の就業規則を労働者に周知し、かつ合理的なものでなければならないとしている。

労働者の不利益を受ける程度や変更の必要性、また変更後の就業規則内容の相当性、労働組合等との交渉の経緯などを総合的に考慮して判断することが必要だ。就業規則の変更により、一方的に労働条件の変更を行うのは、ハードルが高く訴訟リスクがある。

同一労働同一賃金の対応として、現在ある精皆勤手当の廃止やパート・アルバイトの時給を下げてボーナスを支給する企業もあるが、このような対応は不利益変更にあたり望ましくない。これではかえってモチベーション低下につながり、離職リスクが高くなってしまうであろう。

不合理な待遇差の有無を確認したり労使で情報を共有したりするなど話し合いで合意形成を図ることが重要である。

不合理な待遇差を点検・検討する方法

不合理な待遇差を点検・検討する方法について、順を追って説明する。厚生労働省で作成した「パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書」にワークシートがあるので、あわせて参考にしていただきたい。

1.対象となる労働者のタイプを整理・分類

まず、労働者を社員のタイプごとに区分することが必要だ。それぞれの社員タイプの特徴を「労働契約期間(有期雇用労働者)」「1週間の労働時間(短時間労働者)」を基に整理し、対象となる労働者の有無を検討する。正社員、準社員、契約社員、嘱託社員、パート、アルバイトと企業によって社員の呼び方はさまざまなため、まずは社員の種類を分類しておこう。

2.労働者のタイプごとに個々の待遇適用の有無と決定基準を整理

待遇の種類には、基本給、賞与。各種手当、福利厚生、安全管理などがあり、それぞれの待遇について比較対象となる労働者と「同じか」「異なるか」を確認する。ガイドラインにない家族手当や住宅手当、退職金等についても個別具体的な各社の事情に応じて検討する必要がある。

3.個々の待遇ごとに「違い」が不合理であるかどうかを点検・検討

・均等待遇が求められる場合
すべての待遇について、比較対象労働者と同様の扱いにすることが義務付けられる。「職務の内容」「職務の内容・配置の変更の範囲」が比較対象労働者と同じ場合、すべての待遇を同一にしなければならず、均衡待遇について検討する必要はない。

・均衡待遇が求められる場合
「職務の内容」「職務の内容・配置の変更の範囲」「その他の事情」の3要素のうち、比較対象労働者と比較して不合理な待遇差となっていないかを点検・検討する。

正社員には能力に応じて職能給を支給し、パート社員には職務の内容に応じて職務給を支給するというように、待遇に関する決定基準を労働者の種類で異なるものにすることは禁止されていない。賃金や賞与、手当、福利厚生など、すべての待遇の性質や目的を確認整理し、その違いが「不合理ではない」と説明できることが必要である。

4.「法違反」が疑われる場合には是正策を検討

均等待遇で待遇の決定基準が異なる場合や、均衡待遇で「違い」が適切に説明できない場合には、是正策を検討しなければならない。例えばパート労働者へ賞与を支給する必要がある場合には、財源の確保も検討することが必要だ。資金調達を検討するうえでは、人件費を洗い直し、時には事業計画の変更も必要になることがあるだろう。

5.各種規程の改定と労働者に周知

対応方法については、労働組合や従業員代表と話し合って合意を得なければならない。そして、合意内容に応じて賃金規程や就業規則を改定し、労働者に周知する。給与計算ソフトの設定や給与システムの改修も時には必要となるであろう。

同一労働同一賃金への対応は人材確保につながる

同一労働同一賃金の対応は、人手不足の現在企業にとって大きな課題になるため、これを機に人材確保や人材定着に役立てたいものである。大企業は、人件費の増加により中期事業計画の見直しも検討中だ。中小企業においても「パートタイム・有期雇用労働法」の施行まで約1年間で対応が必要となる。ここでしっかりとした対応ができれば、離職率の低下や有能な人材確保にもつながるのだ。企業が生き抜くためにも同一労働同一賃金に向けた対応を今から実行してみよう。(提供:THE OWNER

文・加治直樹(特定社会保険労務士)