補助金、助成金を受給した場合に、あとになってから「消費税分を返せ」と言われて、面食らった人も多いだろう。補助金、助成金は一般に、返済不要な資金調達方法といわれることも多い。それなのになぜ、消費税分の返還などのいう論点が出てきてしまうのだろうか。
また、補助金、助成金をせっかく受け取ったのに、莫大な利益になってしまい、高額な納税の必要に駆られたという話もきく。今回は、そのような消費税返還など、補助金・助成金の税務上の論点をみていきたい。
目次
補助金・助成金の仕組み
補助金も助成金も返済不要な資金調達という点で、会社にとっては、非常に魅力的である。助成金と補助金は返済不要という点では違いがないが、異なる点もある。必ずしもこの通りというわけではないが、助成金は、ある政策目的を達成するために、ある一定の条件を満した事業者に広く薄く支給するものだ。条件を満たせば、必ず支給されるという形式になっているケースが多い。代表的なものが厚生労働省管轄の雇用関係の助成金である。
補助金は、国や地方公共団体の政策に沿った目的のために設定され、比較的少数の事業者にまとまった資金が支給されることが多い。そのため審査も厳格で、形式的に条件を満たしていたとしても、審査の過程で受給できないことも少なくない。
補助金は助成金と比べて種類も多く、多くの省庁や地方自治体がそれぞれ独自の補助金のメニューを用意している。それぞれ、仕組みや条件が大きくことなるので、要綱を熟読しておく必要があるだろう。
補助金で消費税を返還しなければならない2つの理由
補助金・助成金(以下、補助金等)は返済不要の資金として、多くの事業者が事業を拡大するうえで活用しているものである。基本的には、補助金収入自体は対価性がないことから不課税取引とされており、それ自体に対する消費税はかからない。しかし、補助金等を原資として経費を支払った際に、一部の補助金等については、その一部分を返還しなければならないといったルールもある。
1.消費税の二重納付を防ぐため
通常、補助金等を受給した場合について、資金使途を指定していない一部の助成金を除き、目的に従った用途に支出する必要がある。その支出については、消費税法の規程上、課税事業者であれば、「仕入税額控除」が可能である。仕入税額控除とは、納付する消費税額の算出にあたり、売上げの消費税額から仕入れの消費税額を差し引いて計算する消費税の制度であり、仕入れ分消費税額を差し引くことをいう。
仮に税込110万円の機械を補助金等で導入した場合を考えてみたい。通常、110万円の導入費用は後々の売上と対応するものであるため、含まれている10万円の消費税については、仕入税額控除の対象として、売上で預かった消費税から差し引いて納税することになる。そうしなければ、消費税を税務署に対してと、調達先に対してと二重払いになってしまうからだ。
2.補助金が不課税取引であるため
補助金等が原資の場合は、そのまま適用してしまうとおかしなことになってしまう。補助金等は不課税取引であるため、消費税は含まれていない(不課税取引であるため、通常課税売上割合でも考慮されない)。そして、110万円の機械には10万円分の消費税が含まれているため、普通に消費税の納税額を計算すれば、預かった消費税から10万円分を差し引くことができ、節税ができてしまうことになる。
そのような不都合を解消するために、消費税の課税事業者で、原則課税方式を採用している事業者は、消費税分の返還を求められることがあるのだ。消費税の課税事業者とは、基準期間における課税売上高が1,000万円以上の事業者のことをいう。原則課税方式とは、2つある消費税の納税額の計算方法の1つで、基準期間内の売上高が5,000万円を超える事業者は強制適用される。
基準期間内の売上高が5,000万円以下の事業者は、簡易課税方式を選択しなかった場合に適用される計算方法である。
返還する補助金の計算方法は?
上記のように、補助金等の返還には説明できる理由が存在する。では、いくらの補助金等を返還すればいいのか?
補助金や助成金で賄った分を返還
実は、前述の10万円にあたる、消費税額のすべてを返還しなければならないとは限らない。それは補助金等を用いて投資を行う場合、全額補助金等で賄われることのほうがむしろ少ないからである。
投資額の中に自己負担額がある場合については、その部分に係る消費税については返還の必要はない。あくまで補助金等で賄った部分についてのみ返還すればよい。ただし、仕入税額控除の計算方法により返還する金額が変わってくる。
消費税の仕組み
補助金を受け取ると、なぜ消費税を還付しないといけないケースが出てくるのだろうか。そのことを理解するには、消費税の仕組みを知ることが必要だ。原則、納める消費税額の計算は「売上に係る消費税-仕入や費用に係る消費税(仕入税額控除)」で計算される。例えば、税込220万円の売上(内消費税20万円)と110万円の仕入(内消費税10万円)だったとすると、納める消費税額は次のようになる。
- 売上に係る消費税20万円-仕入や費用に係る消費税(仕入税額控除)10万円=10万円
この消費税の計算方法は、一般的なものだが簡易的な計算方法として簡易課税方式がある。簡易課税方式は、売上に係る消費税のみで納める消費税額を計算するものだ。前々年度の課税売上高が5,000万円以下で、事前に所轄の税務署に簡易課税制度の適用を受ける旨の届け出を提出している場合のみ採用できる。
簡易課税方式では、業種ごとに定められた一定割合(みなし仕入率)を売上に係る消費税に乗じて仕入税額控除を計算する。例えば、上記の例で卸売業(みなし仕入率90%)の場合、売上に係る消費税18万円(20万円×90%)が仕入税額控除になるため、2万円(20万円-18万円)のみ消費税を納めれば良くなる。
このように消費税の計算には、一般的なものと簡易的なものがあるが、補助金で消費税還付が発生するのは、一般的な計算方法のみとなる。
また、一般的な消費税の計算には「95%ルール」というものがある。95%ルールとは、「その年の課税売上割合が95%以上なのか95%未満なのかで、仕入税額控除が全額控除できるかどうかが決まる」というものである。
課税売上割合とは、全体の売上のなかに消費税が課税されている売上(課税売上)がどのぐらいの割合となっているのかを示すもので【課税売上高÷(課税売上高+非課税売上高)】で計算する。
・全額控除できる場合
仕入税額控除が全額控除できるのは、課税売上割合が95%以上の場合である。本来、非課税売上は消費税を預かっていない売上であるため、非課税売上を生み出すためにかかった経費は、仕入税額控除ができない。
しかし、全体の売上に占める非課税売上の割合が5%以下と小さい場合は、会社の事務負担のことも考慮し、複雑な計算をせずに全額を仕入税額控除できるルールとなっている。
・全額控除できない場合
仕入税額控除が全額控除できないのは、課税売上割合が95%未満の場合だ。課税売上割合が95%未満の場合は「個別対応方式」と「一括比例配分方式」のどちらか有利なほうを選択して、納める消費税の金額を計算する。それぞれの方式を選択した場合、納める消費税額の計算方法は以下のとおりだ。
〈個別対応方式〉
個別対応方式とは、課税仕入を課税売上対応、非課税売上対応、共通対応の3種類に区分し、課税売上対応のものについては全額控除を認め、非課税売上対応のものについては仕入税額控除不可とし、共通対応のものについては、課税売上割合に対応する部分のみの仕入税額控除を認める方法である。
非課税取引とは、本来は消費税がかかるが、取引の性格や政府の方針などにより、消費税を課さない取引のことである。例えば、土地の売買や貸付、株などの有価証券の売買、利息、住宅の貸付、教科書の販売などは非課税取引となる。
共通取引とは、課税売上と非課税売上の両方に影響を与える取引である。例えば、事務所の家賃などは課税売上を生み出すためにも、非課税売上を生み出すためにも必要なものであるため、共通取引となる。
個別対応方式における仕入税額控除の金額は【課税売上対応に係る消費税額+(共通対応分に係る消費税額×課税売上割合)】で計算する。例えば、課税売上対応に係る消費税額30万円、非課税売上対応に係る消費税額20万円、共通対応分に係る消費税額50万円、課税売上割合80%の場合、仕入税額控除の金額は次のようになる。
- 仕入税額控除の金額=課税売上対応に係る消費税額30万円+(共通対応分に係る消費税額50万円×課税売上割合80%=40万円)=70万円
〈一括比例配分方式〉
一括比例配分方式とは、個別対応方式とは異なり、課税仕入について区分して経理を行わず、課税仕入総額に対応する税額に課税売上割合を掛け合わせて、一括して仕入税額控除の額を算定する方法である。この方法では、仕入や経費などの取引を一つひとつ課税売上対応、非課税売上対応、共通対応の3種類に分ける必要がないため、消費税の計算が楽で事務負担も軽くなる。
一括比例配分方式における仕入税額控除の金額は【課税仕入れに係る消費税額の合計額×課税売上割合】で計算する。
個別対応方式と同じ例を使い、一括比例配分方式の仕入税額控除の金額を計算してみよう。課税売上対応に係る消費税額30万円、非課税売上対応に係る消費税額20万円、共通対応分に係る消費税額50万円、課税売上割合80%の場合、仕入税額控除の金額は次のようになる。
- 仕入税額控除の金額=課税仕入れに係る消費税額の合計額(課税売上対応に係る消費税額30万円+非課税売上対応に係る消費税額20万円+共通対応分に係る消費税額50万円=100万円)×課税売上割合80%=80万円
このように同じ取引内容でも、個別対応方式と一括比例配分方式では、仕入税額控除の金額が違ってくる。
課税売上高の占める割合により異なる計算方法
では、補助金の還付額に焦点をあてて見ていこう。全体の収入のうち消費税のかかる売上高の割合(課税売上割合:【課税売上高÷(課税売上高+非課税売上高】にて計算)が95%以上の一定規模以下の会社など、仮払いした消費税額を全額控除できる場合については、【補助金等の額×10/110=返還する金額】の算式により計算する。
課税売上高が95%未満の場合等で全額の仕入税額控除ができない場合においては、個別対応方式を採用しているか、一括比例配分方式を採用しているかで対応が異なる。
個別対応方式、一括比例配分方式による違い
個別対応方式による場合は、当該投資が課税売上対応か、非課税売上対応か、共通対応かによって返還する金額が異なる。課税売上対応の課税仕入れの場合は、全額控除できる場合と同じく、【補助金等の額×10/110=返還する金額】が計算式となる。
共通対応のものについては、課税売上に相当する部分しか仕入税額控除ができないので、【補助金等の額×10/110×課税売上割合】が計算式となる。非課税売上対応のものについては、仕入税額控除ができていないので、返還は要しない。
一括比例配分方式で計算している場合には、個別対応方式の共通対応の場合と同じく、【補助金等の額×10/110×課税売上割合】が計算式となる。つまり、補助金等の額に含まれる消費税額のうち、実際に仕入税額控除できた金額を返還することとなる。そのため、返還しなくてよい場合というのも出てくる。
土地等非課税仕入れとなるものを購入した場合、免税事業者の場合、簡易課税制度の適用を受ける場合、税抜金額で補助金等の申請をした場合等においては、補助金等の返還を要しないことになる。
補助金・助成金の法人税法の取り扱い
補助金等を受給した場合、経理上は雑収入として計上するのが通常である。税務上は益金となり、法人税の課税の対象となる。しかしながら、補助金等を受給したとして、すぐに税金として国に戻ってしまっては補助金等を受給した意味がなくなってしまう。そのため、課税される時期をできるだけ先延ばしする必要がある。
特定の支出のうち固定資産の取得についての計上
補助金等のなかには、特定の支出の伴わないものと、特定の支出の伴うものがある。特定の支出の伴うものについては、支出の内容が費用のものと、固定資産のものがある。支出の内容が費用のものについては、費用計上とできるだけ同一の事業年度で収入計上ができるように、調整が必要だ。
支出の内容が固定資産のものについては、固定資産の取得価額を一定額減額して固定資産の購入金額とすることができ、これを圧縮記帳という。圧縮記帳は、補助金等を受け取ったときの収益と同じ金額の費用を計上して両者を相殺することにより、税負担を軽減するというものである。
たとえば、国庫補助金1,000万円を受け取って機械を購入した場合を考えてみたい。機械の金額が5,000万円だった場合には、雑収益(国庫補助金受贈益)が1,000万円計上され、それを打ち消すために固定資産圧縮損を1,000万円計上し、収益と費用を相殺する。
そうすると、補助金等に関する益金が一時に計上されることが回避できる。その後、固定資産の金額が減少しているため、減価償却費の金額も減少することとなり、減価償却費が減ることによって、補助金等分の税金は、最終的には計上されることになる。そのため、圧縮記帳は税金を払わなくてもよくなる経理処理ではなく、補助金等を受け取った当初の資金繰りを楽にし、課税を繰り延べる制度であるといえる。
圧縮記帳の2つの方式
一般的に圧縮記帳には、以下の直接減額方式と積立金方式の2種類がある。
直接減額方式とは、たとえば補助金等で印刷機を購入した場合、損金処理により固定資産の価額から直接補助金等の金額を減額する方法をいう。この方法は、会計上の処理と税務上の処理が一致するため、わかりやすいというメリットがある。しかし、資産の金額が実際の残高と異なってしまい、ROAなどの財務指標をおかしくなってしまうといったデメリットがある。
積立金方式は、決算の日までに、剰余金の処分により圧縮記帳積立金を積み立てることで、利益剰余金を減らし、株主の配当財源から補助金等部分を取り除いたうえで、当該積み立てた額を税務上取り崩すことによって課税を繰り延べるのである。この方法は、資産の金額に影響がないので、ROAなどの算定に影響しないなどといったメリットがある。
しかし、税務上別表調整が必要で処理が煩雑なこと、会計上の利益と税金が感覚的に相違してしまうため、わかりづらい点がデメリットとなる。
補助金の返還で迷ったら税理士へ相談を
これまでみてきたように、補助金の返還に関しては、消費税法に関する深い理解が必要になる。処理を誤ると返還しなくてもよいものまで返還することになるため、補助金の返還で迷ったら、税理士等の専門家に相談するのがよいだろう。
文・内山瑛(公認会計士)
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