事業承継時の自社株評価は経営者にとって頭の痛い問題の一つです。特に経営内容の良い会社ほど頭を使う必要があります。事業承継は大きく分けると会社の実質的な「経営支配権の移転」、言い換えると「経営者の地位の移転」と支配権のエビデンスとなる「自社株移転」の2つです。後者の「自社株移転」時には、譲渡所得課税や相続税といった税務も絡んできます。

自社株は上手に移転することにより移転コストを下げることが可能です。例えば時価と相続税評価額間で乖離がある不動産を購入することで移転コストを下げる方法などがあります。本記事では、事業承継時の対策として不動産購入は有効かについて確認していきましょう。

自社株評価の基本的な考え方

不動産投資
(画像=nespix/stock.adobe.com)

中小企業の大部分が、取引相場のない株式会社だと考えます。その場合の評価方法は、「原則的評価方法」「特例的評価方法」の2つです。次に原則的評価方法を採用した場合、「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」があります。一般的には、類似業種比準方式による評価方式のほうが、純資産価額方式より有利だとされている傾向です。

類似業種比準方式の計算時、自社株が高くなるときの利益を引き下げる対策方法は以下のようなものがあります。

  • 1株あたりの配当金額を下げる
  • 高収益部門のスピンアウト
  • 役員報酬の引き上げや役員退職金の支払い
  • 不良債権の表面化など

純資産価額方式で計算する場合の金額を引き下げる方法は、前述した不動産を購入する方法があります。これは類似業種比準方式にも使うことが可能です。

なぜ不動産購入が自社株評価を下げられるか

一般的に都心の土地、借地権といった含み益になりやすい不動産を持っている企業の株価は、純資産価額方式で評価すると含み益が純資産に上乗せされ評価額が高くなります。それを回避する方法が時価と相続税評価額が乖離している不動産を購入しその評価の含み損を使って含み益と相殺する方法です。

事例

項目金額
帳簿上資産5億円(時価評価15億円)
負債2億円
純資産3億円
資本金1,000万円
(1株50万円:発行済み株式20株)

上記の会社が所有する不動産を時価評価したところ帳簿価格との差が10億円(昔購入した不動産の価値が現在では大幅にアップした状態)生じていました。一方負債は増えていませんので2億円のままです。大雑把に計算すると含み益から発生する法人税などが実効税率37%とすると3億7,000万円となります。つまり純資産額は以下のように算出可能です。

・純資産額=資産15億円-負債2億円-法人税等控除額3億7,000万円=9億3,000万円

純資産額9億3,000万円を発行済株式数20株で割ると1株あたり4,650万円になります。以下の左図が簿価ベースでの会社の現状の貸借対照表、右図が含み益を加味した貸借対照表です。

YANUSY編集部
(画像=YANUSY編集部)

そこで時価と相続税評価額の乖離がある不動産を全額借入金で購入します。(時価10億円 相続税評価額6億円)

仕訳
借方貸方
不動産10億円借入金10億円

購入した不動産は、課税時期から3年以内は通常の取引価格による評価となりますが、3年経過後は相続税評価額により評価できます。ここで注意しなければならないのは、購入後から3年でなく課税時期から遡って3年経過後であり決算期でない点は注意が必要です。この結果、課税開始から3年経過後には、資産に加算される不動産の相続税評価額が6億円に対し不動産購入にかかる借入負債は10億円です。

したがって差し引き4億円の純資産を減少させる効果が期待できるわけです。

YANUSY編集部
(画像=YANUSY編集部)

ここで1株あたりの評価額を計算すると「純資産額=資産21億円(簿価15億円+評価差額6億円)-負債12億円-法人税等控除額2億2,200円=6億7,800万円」となります。これを発行済株式数20株で割ると1株あたり3,390万円です。対策前は1株4,650万円だったものが対策後には1株3,390万円まで下がり1株あたり差し引き1,260万円の評価を減らすことができました。

法人の事業承継対策として不動産を購入することは、このように多額の評価減を行うことが可能です。しかしアパートなどの不動産投資は、場所の選択を間違えると利回り低下などで会社の経営悪化につながりかねません。さらに借入金が発生するため、どれだけ低利で調達できるかが重要です。事業承継の対策をする場合は、できるかぎり税理士や不動産コンサルタントなど専門家を交えて総合的にアドバイスを受けることをおすすめします。(提供:YANUSY

【あなたにオススメ YANUSY】
副業ブームの日本!サラリーマン大家になるなら覚えておきたいこと
2019年以降の不動産投資は「コミュニティ」が欠かせない
賃貸業界の黒船になるか。インド発のOYOの実態
不動産所得での節税に欠かせない必要経費の知識
賃貸管理上でのトラブル対応術とは?