20年4月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比13.1%減(前月:同0.0%増)と急減した(図表1)。輸出の伸び率は、今年1-2月に中華圏の旧正月の連休時期のずれの影響で大きく変動した後、新型コロナの世界的な感染拡大を背景とする外需の急減や商品価格の下落、各国が感染対策として実施した活動制限措置の影響が4月に入って本格的に表れ、大きく減少した。なお、非貨幣用金や医薬品、電子製品・部品などの出荷増は、前月に続いて輸出の落ち込みを一部緩和した。5月以降、各国は国内の活動制限措置を緩和し始めており、先行きの輸出は一段の落ち込みを免れるものの、減少傾向は続くだろう。

ASEAN,貿易統計
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ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、4月は北米向け(同2.2%増)が増加傾向を維持したものの、EU向け(同17.2%減)と東南アジア向け(同26.8%減)が急減したほか、東アジア向け(同5.4%減)が3カ月ぶりに減少した(図表2)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

タイの20年4月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比2.1%増(前月:同4.2%増)と低下した。輸出は昨年減少傾向が続いたが、年末から持ち直しの動きがみられる。3月から新型コロナの感染拡大を背景とした外需の急減や商品価格の下落、4月の国内の活動制限措置などが輸出の下押し要因となる一方、非貨幣用金や食品、電子製品の出荷に後押しされて増加した。また輸入額は前年同月比17.1%減(前月:同7.3%増)と2カ月ぶりに減少した結果、貿易収支は24.6億ドルとなり、前月から8.7億ドル改善した(図表3)。

輸出を品目別に見ると、全体の約8割を占める主要工業製品は同4.0%増(前月:同6.4%増)と増加傾向を維持した(図表4)。工業製品の内訳を見ると、主力の自動車・部品(同49.0%減)や機械・装置(同11.6%減)、石油化学製品(同17.3%減)など減少した品目は多かったが、非貨幣用金(同1091.0%増)が急伸したほか、電子機器(同3.3%増)も増加傾向を維持した。また鉱業・燃料は同42.2%減(前月:同19.7%減)となり、石油製品(同48.3%減)を中心に2カ月連続で減少した。また農産物・加工品は同4.0%増(前月:同1.1%減)と、9カ月ぶりのプラスに転じた。天然ゴム(同20.7%減)やタピオカ(同12.6%減)は大きく減少したものの、コメ(同23.1%減)や畜産物(同55.1%増)、加工食品(同6.1%増)、果物(同2.9%増)、ゴム製品(同12.2%増)など品目ごとのバラつきはみられるものの、総じて増加した品目が多かった。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

ベトナムの20年4月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比13.9%減(前月:同6.0%増)と大きく低下した。輸出の伸び率は昨年、概ね好調に推移したが、今年1-2月に旧正月の連休時期のずれとサムスン電子の新型スマホの輸出開始の影響が重なって上下に大きく振れた後、4月に新型コロナ感染対策として実施した社会隔離措置や外需急減といった悪影響が表れて減少した。また輸入額も前年同月比11.4%減(前月:同4.7%増)とマイナスとなった結果、貿易収支は▲9.4億ドルとなり、前月から29.2億ドル悪化した(図表5)。

輸出を品目別に見ると、まず輸出全体の約2割を占める電話・部品が同35.5%減(前月:同1.2%減)と大幅に減少した一方、電気製品・同部品が同18.0%増(前月:同30.7%増)と好調を維持した(図表6)。また繊維関連では、織物・衣類が同31.6%減(前月:同7.7%減)とマイナス幅が一段と拡大すると共に、履物が同17.2%減(前月:同6.5%増)と3カ月ぶりのマイナスとなった。農林水産物を見ると、コーヒー(同15.3%増)こそ増加したものの、食料備蓄のための輸出制限を実施したコメ(同10.9%減)や野菜(同26.0%減)、水産物(同2.3%減)、天然ゴム(同49.9%減)などがそれぞれ減少した。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が20.5%減(前月:同1.2%増)と落ち込んだほか、好調が続いた地場企業も同0.2%増(前月:同17.8%増)まで大きく鈍化した。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

マレーシアの20年4月の輸出額(ドル建て、通関ベース)の伸び率は前年同月比27.9%減(前月:同9.5%減)となり、2ヵ月連続で大幅に低下した。昨年から続く輸出の減少傾向は昨年末から循環的底入れの動きがみられていたが、3月から新型コロナ感染拡大と国内の活動制限令、外需低迷の影響が表れ、主力の電気・電子製品や燃料、パーム油を中心に減少した。また輸入額も前年同月比13.0%減(前月:同7.6%減)と減少した結果、貿易収支は▲8.0億ドルとなり、前月から36.7億ドル悪化した(図表7)。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同27.3%減(前月:同13.2%減)と、主力の電気・電子製品(同26.0%減)を中心に低下して2カ月連続の二桁減となった(図表8)。また鉱物性燃料は同29.6%減(前月:同0.7%増)と5カ月ぶりに減少した。天然ガス(同24.8%減)と原油(同37.4%減)に続き、前月まで好調だった石油製品(同26.4%増)の出荷も減少した影響が大きい。このほか、動植物性油脂が同9.4%減(前月:同7.3%増)、化学製品が同20.9%減(前月:同9.8%減)となり、それぞれ落ち込んだ。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

インドネシアの20年4月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比7.2%減(前月:同0.4%減)と低下した。輸出の伸び率は昨年、世界的な需要減退と商品価格の下落を背景に主力の資源関連が振るわず低迷し、今年3月からは新型コロナ感染拡大や4月の大規模社会的制限令の実施、外需の急減、商品価格の下落の影響が表れて減少している。また輸入額が前年同月比18.6%減(前月:同0.7%減)とマイナス幅が拡大した結果、貿易収支は▲3.7億ドルとなり、前月から10.9億ドル悪化した(図表9)。

全体の9割を占める非石油ガス輸出が同6.4%減(前月:同3.3%増)、石油ガス輸出が同17.7%減(前月:同42.7%減)となり、それぞれ減少した(図表10)。品目別に見ると、電気機械(同20.4%増)や鉄・鉄鋼製品(同7.9%増)、動植物性油脂(同30.8%増)は増加傾向を維持した一方、機械類(同7.6%減)や自動車・同部品(同52.4%減)が急減した。また織物類(同37.6%減)や紙製品(同18.1%減)といった軽工業品、鉱産物(同26.6%減)も減少した。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

シンガポールの20年4月の輸出額(石油と再輸出除く、ドル建て、通関ベース)は前年同月比4.6%増(前月:同12.4%増)と鈍化した。輸出の伸び率は昨年から電子製品や化学製品といった主力の輸出品が落ち込んで低迷していたが、足元では世界的な新型コロナの感染拡大を背景に医薬品や非貨幣用金、食品の出荷が伸びており、3ヵ月連続で増加している。なお、総輸出額は同16.8%減(前月:同5.1%減)、総輸入額は同17.1%減(前月:同4.2%減)となり、それぞれ低下した。結果として、貿易収支が18.5億ドルとなり、前月から6.3億ドル悪化した(図表11)。

輸出(石油と再輸出除く)を品目別に見ると、まず全体の約3割を占める電子製品が同5.3%減(前月:同1.1%増)と低下し、2ヵ月ぶりのマイナスとなった(図表12)。電子製品の内訳を見ると、主力のIC(同4.9%増)は増加したものの、PC(同46.9%減)やPC部品(同8.7%減)、ダイオード・トランジスタ(同17.3%減)が減少した。一方、電子製品と並び全体の約3割を占める化学は同26.4%増(前月:同1.0%減)と大きく上昇して2カ月ぶりのプラスとなった。化学製品の内訳を見ると、石油化学製品(同28.4%減)が大幅に減少したものの、医薬品(同161.4%増)が好調だった。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

フィリピンの20年4月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比50.8%減(前月:同27.8%減)となり、一段と減少した。輸出の基調は、昨年まで電子製品と一次産品の増加を支えに概ねプラス圏の伸びが続いていたが、今年3月から新型コロナ感染拡大とルソン島全域で実施した都市封鎖、外需低迷の影響が表れて大幅に減少している。また輸入額も前年同月比65.3%減(前月:同26.2%減)と一段と減少した。結果として、貿易収支は▲5.0億ドルとなり、前月から18.7億ドル改善した(図表13)。

輸出シェア上位10品目を見ると、まず輸出全体の5割強を占める電子製品は同48.6%減(前月:同24.0%減)と大幅に低下した(図表14)。電子製品の内訳を見ると、主力の半導体デバイス(同41.9%減)をはじめ、電子データ処理機(同70.7%減)やオフィス機器(同72.0%減)などがそれぞれ急減した。その他9品目のうち、石油製品(同1,755.3%増)や製錬銅(同80.4%増)、パインアップル(同25.7%増)など増加した品目もあるが、その他製造品(同64.0%減)や機械・輸送用機器(同63.6%減)、ココナッツオイル(同55.5%減)、その他鉱物製品(46.7%減)、生鮮バナナ(同28.0%減)、金(同9.5%減)など大幅に減少した品目が多かった。

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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

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