金融政策の概要:予想通り、従前の金融政策を維持。22年までゼロ金利政策の維持を示唆

6月米FOMC
(画像=PIXTA)

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が6月9-10日(現地時間)に開催された。FRBは、市場の予想通り、政策金利を据え置いたほか、量的緩和政策を継続するなど、従前の金融政策を維持することを全会一致で決定した。

今回発表された声明文では、景気の現状判断でこれまでの政策効果もあって「金融環境が改善した」とした。また、金融政策ガイダンス部分では「経済活動の持続的拡大、力強い労働市場、委員会の2%で対称的な目標に近いインフレ率を支えるために現行の金融政策スタンスが適切」との表現を維持した一方、量的緩和政策の米国債や住宅ローン担保証券(MBS)の保有増加ペースを前回の「必要な額」から「少なくとも現行ペース」とより明確化した。

半年ぶりに提示されたFOMC参加者の経済見通しは、前回(12月)から、新型コロナの経済への影響を反映して20年の成長率、失業率、インフレ率が大幅に下方修正(失業率は上昇)されたほか、21年、22年見通しも大幅に修正された。一方、長期見通しの変更は小幅に留まった。

また、政策金利見通し(中央値)は、前回から大幅に下方修正されて22年まで実質ゼロ金利政策を継続することが示された一方、長期見通しは据え置かれた。

金融政策の評価:実質ゼロ金利政策の長期化を示唆。必要に応じて追加対策を実施

政策金利など従前の金融政策が維持されたことは予想通り、また、20年の経済成長見通しなどが大幅に下方修正されたことや、インフレの政策目標達成時期が見通せない中で22年まで実質ゼロ金利政策維持の見通しが示されたことにも違和感がない。

一方、パウエル議長が、政策金利が非負制約に近づく中での追加金融緩和手段として、「明確なフォードガイダンス」や「イールドカーブコントロール」に言及したことは予想外であった。

同議長はこれまでも、「経済を支援するためにあらゆる手段を用いることにコミットしている」とし、必要に応じて様々な追加対策を実施する方針を示してきたが、当研究所は、追加対策は金融市場の流動性低下や資金繰り支援のための資金供給ファシリティ―の拡充と予想していた。

今回、パウエル議長が言及したことでこれらの政策が採用される可能性が高まったと言えよう。もっとも、5年金利が0.3%近辺と既に史上最低水準にあるため、今後金利が大幅上昇するなどの局面以外では、イールドカーブコントロールを導入した場合の政策効果は限定的であろう。

声明の概要

●金融政策の方針

  • 委員会はFF金利の目標レンジを0-0.25%に維持することを決定(今回変更なし)。
  • FRBは家計や企業の信用の流れを支えるため、今後数ヵ月に亘って少なくとも現行ペースで米国債やエージェンシーの住宅ローン担保証券(RMBS)、商業用不動産ローン担保証券
  • CMBS)の保有を増やすことで市場機能を円滑に維持し、より広範な金融環境に金融政策を効果的に伝達する(米国債などの保有増加を前回の「必要額」“the amounts needed”から「少なくとも現行ペース」”at least at the current pace”に変更。
  • 翌日物とターム物のレポ取引を大規模に提供(今回変更なし)。

●フォワードガイダンス

  • 経済が最近の出来事を乗り切り、最大限の雇用と物価安定の目標を達成する軌道にあると委員会が確信するようになるまで、この目標レンジを維持する(今回変更なし)。
  • 金融政策のスタンスに対する将来的な調整のタイミングと規模を決める上で、委員会は最大限の雇用確保の目標と対照的な2%のインフレ目標に関連付けながら、経済情勢の現状と予測の面から精査する(今回変更なし)。

●景気判断

  • 新型コロナの流行は米国全土と世界各地に甚大な人的、経済的困難を引き起こしている(今回変更なし)。
  • このウイルスと公衆衛生を守るための対策は、経済活動を急激に低下さえ、失業を急増させている(今回変更なし)。
  • 需要の弱まりと大幅に下落した原油価格は、消費者物価の上昇を抑制している(今回変更なし)。
  • 金融環境は、経済および、家計や企業への信用の流れを支えるための政策措置を一部反映して改善した(金融環境の評価を前回の「著しく影響を及ぼした」”significantly affected”から改善した”improved”に上方修正)。

●景気見通し

  • G現在進行中の公衆衛生の危機は、経済活動に大きな影響を与えるだろう(変更なし)。
  • 短期的には雇用やインフレなど、中期的には経済見通しに大きなリスクをもたらす(変更なし)。

FOMC参加者の見通し

FOMC参加者(FRBメンバーと地区連銀総裁の17名 )の経済見通しは(図表1)の通り。前回(12月)見通しとの比較では、成長率が20年に大幅なマイナス成長に下方修正された一方、急激な景気減速の反動もあって21年と22年は上方修正された。また、失業率は22年にかけて低下基調が予想されているものの、水準は前回から大幅に引き上げられた。最後に物価(PCE価格指数の総合指数は)は22年にかけて前回から下方修正された結果、22年の予測期間において物価目標の2%を下回る見通しが示された。

6月米FOMC
(画像=ニッセイ基礎研究所)

一方、22年までの見通しは前回から大幅に修正されたものの、長期見通しについては成長率のみ▲0.1%下方修正されたものの、その他は据え置かれた。

政策金利の見通し(中央値)は、20年から22年まで前回から大幅に下方修正され、20年から22年まで0.125%と現在の政策金利水準(0%~0.25%)の継続が見込まれている(図表2)。

6月米FOMC
(画像=ニッセイ基礎研究所)

さらに、ドット・チャートをみると、予測者17名のうち20年と21年は全員が政策金利据え置きを予想しているほか、22年も15名が据え置きを予想しており、予想のバラつきが極めて限定的となっている。

このため、FOMC参加者の経済見通しが大幅に修正されない限り、実際に政策金利が長期に亘って据え置かれる可能性が高い。

最後に、長期見通しは2.5%で前回から変更がなかった。


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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員

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