輸出入ともに前年比で20%台の大幅減少

貿易統計
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財務省が6月17日に公表した貿易統計によると、20年5月の貿易収支は▲8,334億円の赤字となり、事前の市場予想(QUICK集計:▲10,717億円、当社予想は▲7,828億円)を下回る結果となった。輸出が前年比▲28.3%(4月:同▲21.9%)、輸入が前年比▲26.2%(4月:同▲7.1%)といずれも前年比で20%台の大幅減少となったが、輸入の減少額が輸出の減少額を上回ったため、貿易収支は前年に比べ1,320億円の改善となった。

輸出の内訳を数量、価格に分けてみると、輸出数量が前年比▲27.3%(4月:同▲21.3%)、輸出価格が前年比▲1.4%(4月:同▲0.7%)、輸入の内訳は、輸入数量が前年比▲14.9%(4月:同1.4%)、輸入価格が前年比▲13.4%(4月:同▲8.3%)であった。

2020年1-3月期の実質GDPは前期比年率▲2.2%へ上方修正

6/8に内閣府が公表した2020年1-3月期の実質GDP(2次速報値)は前期比▲0.6%(年率▲2.2%)となり、1次速報の前期比▲0.9%(年率▲3.4%)から上方修正された。1-3月期の法人企業統計の結果が反映されたことにより、設備投資が前期比▲0.5%から同1.9%へと大幅に上方修正されたことがその主因である。その他の需要項目では、住宅投資(前期比▲4.5%→同▲4.2%)が上方修正される一方、民間消費(前期比▲0.7%→同▲0.8%)、民間在庫変動(前期比・寄与度▲0.0%→同▲0.1%)、公的固定資本形成(前期比▲0.4%→同▲0.6%)は下方修正された。

2020年1-3月期の成長率のマイナス幅は2019年10-12月期の前期比年率▲7.2%から縮小したが、消費税率引き上げの影響で大きく落ち込んだ後であることを踏まえれば、経済の実態は見た目以上に厳しい。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)
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(画像=ニッセイ基礎研究所)

季節調整済の貿易収支は▲6,010億円と3ヵ月連続の赤字となったが、4月の▲10,431億円から赤字幅が縮小した。輸入が前月比▲12.0%となり、輸出の減少幅(同▲5.8%)を上回った。

5月の通関(入着)ベースの原油価格は1バレル=25.0ドル(当研究所による試算値)となり、4月の42.4ドルから大幅に低下した。原油価格(ドバイ)は4月に20ドル台前半(月平均)まで下落した後、足元では30ドル台後半まで持ち直している。通関ベースの原油価格は6月に30ドル台半ば、7月には40ドル台まで上昇することが見込まれる。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

輸出は欧米向けが急減する一方、中国向けは持ち直し

20年5月の輸出数量指数を地域別に見ると、米国向けが前年比▲49.4%(4月:同▲36.9%)、EU向けが前年比▲34.8%(4月:同▲27.7%)、アジア向けが前年比▲11.4%(4月:同▲11.8%)、うち中国向けが前年比▲0.4%(4月:同▲2.2%)となった。

20年5月の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前月比▲21.7%(4月:同▲20.8%)、EU向けが前月比▲11.5%(4月:同▲21.5%)、アジア向けが前月比▲4.0%(4月:同▲0.0%)、うち中国向けが前月比2.0%(4月:同11.7%)、全体では前月比▲7.1%(4月:同▲16.6%)となった。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

多くの国で都市封鎖が行われていた欧米向けが急激に落ち込む一方、経済活動の再開、工場の再稼働が早かった中国向けがすでに持ち直していることから、アジア向けは落ち込み幅が小さい。

5月に入り、欧米でも経済活動が部分的に再開されているため、輸出は6月から持ち直しに向かう可能性が高い。ただし、世界的に経済活動の水準が元に戻るまでには時間を要するため、輸出の回復ペースは急激な落ち込みの後としては緩やかなものにとどまるだろう。

20年1-3月期のGDP統計では、訪日客の急減を反映しサービスの輸出が前期比▲19.1%の大幅減少となる一方、財の輸出は同▲2.3%と小幅な減少でとどまった(財貨・サービスの輸出は前期比▲6.0%)が、4-6月期は財輸出の減少幅が急拡大する可能性が高い。現時点では、4-6月の財貨・サービスの輸出は、財、サービスともに急激に落ち込むことから、前期比▲20%台後半の減少を予想している。

一方、20年5月の輸入数量指数(当研究所による季節調整値)は前月比▲8.6%(4月:同4.7%)となったが、20年4、5月の平均は1-3月期を5.3%上回っている。このため、4-6月期のGDP統計の外需寄与度は大幅なマイナスとなる可能性が高い。


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斎藤太郎(さいとう たろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 経済調査室長・総合政策研究部兼任

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