結果の概要:雇用者数、失業率ともに前月に続き、予想を上回る改善幅
7月2日、米国労働省(BLS)は6月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+480.0万人の増加(1)(前月改定値:+269.9万人)と、+250.9万人から上方修正された前月から雇用の伸びが加速、市場予想の+323万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)も大幅に上回った(後掲図表2参照)。
失業率は11.1%(前月:13.3%、市場予想:12.5%)と、こちらも2ヵ月連続の低下となったほか、市場予想を上回る低下幅となった(後継図表6参照)。労働参加率(2)は61.5%(前月:60.8%、市場予想:61.2%)と前月から+0.7%ポイント上昇し、市場予想も上回った(後掲図表5参照)。
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(1)季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
(2)労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。
結果の評価:6月中旬までの順調な回復を確認、懸念される新型コロナ感染増加の影響
非農業部門雇用増加数は5月と6月の合計が+750万となった。これは3月と4月の雇用減少幅の合計である▲2,200万人から3分の1を取り戻したことになる。とくに、外出制限などの新型コロナ感染対策の影響を大きく受けた娯楽・宿泊が3月と4月の合計▲830人強の減少から5月と6月の合計+350万人の増加となるなど回復が目立っている。
一方、6月雇用統計の調査週(6月7日~13日)以降に経済活動を早期に緩和した南部や西部の州を中心に新型コロナの感染者数が急増しており、全米で20超の州で経済活動を再制限する動きがでているため、労働市場への影響が懸念される。
時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比が▲1.2%(前月:▲1.0%、市場予想:▲0.8%)と、前月、市場予想を上回る落ち込みとなった。賃金の減少は、前月に続き娯楽・宿泊などの低賃金労働者の雇用が増加して、全体の賃金レベルを押し下げたがことが大きい。
また、前年同月比も+5.0%(前月改定値:+6.6%、市場予想:+5.3%)と、+6.7%から下方修正された前月、市場予想を下回った(図表1)。
これまでみたように、労働市場は新型コロナの影響で統計開始以来最大の落ち込みとなった4月から、2ヵ月連続で回復が持続していることを確認する結果となった。もっとも、前述のように6月中旬以降に新型コロナの感染拡大を受けて再び経済活動を制限する動きが広がっているため、7月以降も労働市場の回復が持続するのか、労働市場への影響が懸念される。
事業所調査の詳細:娯楽・宿泊、小売りなどの雇用が大幅に増加
事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+426.3万人(前月:+254.8万人)と2ヵ月連続で増加したほか、前月から増加幅が拡大した(図表2)。
民間サービス部門の中では、娯楽・宿泊が前月比+208.8万人(前月:+140.3万人)とサービス業雇用増加分のおよそ半分を占めた。また、小売業が+73.9万人(前月:+371.5万人)と大幅な増加となった。これらの業種では外出制限が緩和された影響が大きいとみられる。
さらに、これらの業種以外でも、医療・社会扶助サービスが+47.5万人(前月:+37.0万人)、となったほか、人材派遣業が+14.8万人(前月:+4.7万人)と増加したことから、専門・ビジネスサービスが+30.6万人(前月:+16万人)となるなど、幅広い業種で雇用が増加した。
財生産部門は前月比+50.4万人(前月:+68.4万人)と2ヵ月連続の増加となったものの、前月から伸びは鈍化した。製造業は+35.6万人(前月:+25.0万人)と前月から伸びが加速したものの、建設業が+15.8万人(前月:45.3万人)と前月から伸びが鈍化するなど、まちまちの結果となった。
一方、政府部門は前月比+3.3万人(前月:▲53.3万人)と、こちらは4ヵ月ぶりに増加に転じた。内訳をみると、連邦政府が+0.1万人(前月:▲0.9万人)となったほか、州・地方政府が+3.2万人(前月:▲52.4万人)と前月の大幅な減少から増加に転じたことが大きい。
前月(5月)と前々月(4月)の雇用増加数(改定値)は、前月が+269.9万人(改定前:+250.9万人)と19.0万人上方修正された一方、前々月が▲2,078.7万人(改定前:▲2,068.7万人)と、こちらは▲10.0万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+9.0万人の上方修正となった(図表3)。
BLSの公表に先立って7月1日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+236.9万人(前月改定値:+306.5万人、市場予想:+290.0万人)と、▲276.0万人の減少から大幅な増加に上方修正された前月から伸びが鈍化したほか、市場予想も下回った。5月が雇用増加に修正されたため、雇用統計同様にADP統計も労働市場が5月から回復に転じたことを確認する結果となった。
6月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が29.37ドル(前月:29.72ドル)となり、前月から▲35セント減少した。また、週当たり労働時間も34.5時間(前月:34.7時間)と前月から▲0.2時間減少した。この結果、週当たり賃金は1,013.27ドル(前月:1,031.28ドル)と、前月から3ヵ月ぶりの減少となった(図表4)。
家計調査の詳細:失業率は1.2%ポイント程度過少評価されている可能性
家計調査のうち、6月の労働力人口は前月対比で+170.5万人(前月:+174.6万人)と2ヵ月連続で増加した。内訳を見ると、失業者数が▲323.5万人(前月:▲209.3万人)と2ヵ月連続の減少となったものの、就業者数が+494.0万人(前月:+383.9万人)と失業者の減少幅を上回る増加となり、労働力人口を押し上げた。非労働力人口は▲154.7万人(前月:▲159.5万人)と、こちらも2ヵ月連続で減少した。
これらの結果、労働参加率は61.5%とこちらも2ヵ月連続で上昇した(図表5)。もっとも、新型コロナの影響がでる前(20年2月)の63.4%からは依然として▲1.9%ポイント低い水準に留まっている。
また、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は6月が81.5%(前月:80.7%)と前月に続き+0.8%ポイントの上昇となった。男女の内訳は、男性が87.9%(前月:87.2%)と前月から+0.7%ポイント上昇したほか、女性も75.4%(前月:74.3%)と+1.1%ポイント上昇した。
一方、6月の失業率は11.1%となった(図表6)が、BLSは過去2ヵ月と同様に過小評価されている可能性を示唆した。BLSは、家計調査の調査期間に、職はあるものの欠勤していると回答した人のうち、欠勤理由として「その他」を挙げる人数が284.5万人に上ったとした。これは、平年の89.5万人から大幅な増加となっている。このため、BLSは「その他」を理由に欠勤したと回答したうち、およそ2百万人は本来失業者として認識しなければならない人が就業者として認識されている可能性を示唆している。BLSはこれらの要因により、失業率は実態より▲1.2%ポイント程度押し下げられているとみており、これらの影響がなければ6月の失業率は12.3%であったとしている。
6月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は139.1万人(前月:116.4万人)と前月から+22.7万人増加した。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアも7.9%(前月:5.6%)と前月から+2.3%ポイント増加した(図表7)。さらに、平均失業期間は15.7週(前月:9.9週)と前月から+5.8週長期化した。
最後に、周辺労働力人口(247.1万人)(3)や、経済的理由によるパートタイマー(906.2万人)も考慮した広義の失業率(U-6)(4)は、6月が18.0%(前月:21.2%)と前月から▲3.2%ポイント低下した(図表8)。また、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+6.9%ポイント(前月:+7.9%ポイント)と、前月から▲1.0%ポイント縮小した。
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(3)周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
(4)U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員
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