2019年末ごろから世界的に感染が拡大した新型コロナウイルスだが、全ての企業のビジネスにダメージを与えたわけではない。売上減によって経営が窮地に陥っている企業もあれば、コロナ禍を追い風に業績が向上している企業もある。
新型コロナウイルスによる経済損失は8兆8,000億ドル規模に
新型コロナウイルスは日本経済、そして世界経済にも甚大なダメージを与えている。
アジア開発銀行(ADB)は2020年5月、世界経済の損失額は8兆8,000億ドル(約945兆円)規模に上る可能性があるとの試算を発表している。8兆8,000億ドルと言えば、世界合計のGDP(国内総生産)の約1割だ。
この1ヵ月前の4月の段階では、損失は4兆ドル(約430兆円)規模との予想だったが、その額を倍以上に引き上げた格好だ。
新型コロナウイルスの感染者の増減の状況は、国によって異なるが、完全終息の時期はまだまだ不透明な状態だ。ワクチン開発に期待がかかるが、ウイルスの変異などによってさらに深刻な事態となれば、世界経済の損失額はさらに増えることが予想される。
新型コロナウイルスの影響で倒産してしまった企業たち
このような状況の中、旅行需要の低下や消費自粛などによって多くの会社が売上減に苦しんでいる。東京商工リサーチの最新データによれば、新型コロナウイルス関連での負債1,000万円以上の倒産件数は、7月6日時点で311件に上っている。
まず、新型コロナウイルスの影響で倒産してしまった企業を紹介していこう。
WBFホテル&リゾーツ(ホテル運営)
大阪に本社を置くホテル運営会社の「WBFホテル&リゾーツ」は、4月27日に民事再生法の適用を申請した。海外からの旅行客の急激な減少によってキャンセルが相次ぎ、一部のホテルが休業に追い込まれた結果、業績の悪化が鮮明となった。
資金の借り入れを行っていた金融機関に対し、返済の猶予などを要請していたが、経営の立て直しの目途が立たなくなり、最終的に民事再生法の適用を申請するに至った。東京商工リサーチによれば、申請を行った4月27日時点の負債額は160億円とされている。
レナウン(アパレル)
レナウンといえば、かつては「レナウン娘」のテレビCMでブランドの知名度を一気に高めた、日本のアパレル大手だ。そのレナウンも新型コロナウイルスの影響に耐えられなかった。5月15日に東京地裁が民事再生手続きの開始を決定し、倒産となった。
レナウンは東証1部に上場していただけに、ほかの倒産案件以上に大きく注目を集めた。もともと、コロナの感染が拡大する前も業績の低迷に苦しんでおり、売掛金の回収がうまく進んでいなかった中でコロナによる売上減が決定打となり、経営破綻に至った。
エターナルアミューズメント(アミューズメント施設運営)
アミューズメント事業を展開していたエターナルアミューズメントも、自己破産するに至った。4月1日に東京地裁に申請を行っている。同社の主な事業は、商業施設におけるアミューズメントコーナーの運営やアニメ雑貨の販売店の運営だ。
新型コロナウイルスによる緊急事態宣言や自治体からの外出自粛要請で、アミューズメント施設への客足は一気に遠のいた。このような状況の中で、同社は一部店舗を休業せざるを得ず、売上減となった。
新型コロナウイルスが追い風となった企業たち
逆に新型コロナウイルスが追い風となり、業績に良い影響が出た代表的な企業は次の通りだ。
神戸物産(業務スーパー)
「業務スーパー」を展開する神戸物産は好調だ。「巣ごもり需要」によって自宅で料理をするニーズが増え、食品を低価格で販売する業務スーパーには追い風となった。同社の売上高は、2月は前年同月比25.2%増、3月は同33.7%増、4月は同34.8%増、5月同30.0%増と、いずれも前年実績を上回っている。
ファイバーゲート(Wi-Fiサービス)
商業施設や家庭向けにWi-Fiサービスを展開するファイバーゲートも、新型コロナウイルスが追い風となっている。テレワークやオンライン授業などでWi-Fi需要が増え、2020年5月には通期決算(2019年7月〜2020年6月)の純利益予想を従来から14%ほど上積みした。
藤久(手芸用品小売)
手芸用品の専門店などを展開する藤久も好調なようだ。マスク不足の懸念などから手作りでマスクを作る人が増え、藤久の専門店で販売する手芸用品やミシンの販売が伸びた。藤久の株価は2020年3月には400円台近くまで落ち込んだが、2020年7月は1,000円を超える水準で推移しており、ビフォーコロナの株価水準を大きく上回っている。
苦境に陥った企業もあれば、追い風となった企業も
新型コロナウイルスの多くの企業の業績に大きなインパクトを与えた。この記事で紹介したように、苦境に陥った企業もあれば、追い風となった企業もある。コロナ禍はまだしばらく終息しないことが予想され、各社の業績の変化に対する注目度は引き続き高い状況が続く。(提供:THE OWNER)
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)