2020年3月、「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律案」が国会に提出された。「年金改革法」とよばれるこの法案が5月29日に成立したことは記憶に新しい。今後、保険の適用や年金受給がどう変わるのか、改正のポイントについて解説する。

社会保障の適用範囲が広がった

「年金改革」最前線 年金改革法で何が変わる ?
(画像=ktktmik / stock.adobe.com)

人口減少や高齢化が進む日本では、人手不足が深刻な問題となっている。この社会的・経済的背景を鑑みるに、今後高齢者や女性の就業機会が増え、長期間にわたり多様な雇用形態で働くことは避けられないだろう。

今回の改正では厚生年金や国民年金といった公的年金だけでなく、社会保険や確定拠出年金、iDeCo (個人型確定拠出年金) も含めた大掛かりな制度の見直しが行われた。

いずれも、年金財政を安定させ高齢者やパートタイマーのような短時間労働者の老後資金を確保する狙いも含まれている。見直しの対象となった項目で特に注目されているのは、社会保障の適用範囲が広がったことがまず挙げられるだろう。

中小企業のパートタイマーも社会保険に加入できるように

現行の制度では、従業員数が500人以下の企業で働く短時間労働者 (パートタイマーやアルバイト) は厚生年金の加入の対象となっていない。そのため、社会保険には加入することになるものの、その保険料は全額自己負担となっていた。

正社員の場合は勤務先が保険料の半額を負担するようになっていたため、明らかな不平等が生じていた。しかしながら、今回の改正によって短時間労働者も厚生年金へ加入できるようになったことは朗報といえるだろう。そのため、厚生年金と併せて社会保険にも加入でき、その保険料も事業主が半額負担できるようになった。

加入対象の拡大は段階的に進められるようになっており、2022年10月から従業員101人以上500人以下、2024年10月から従業員51人以上100人以下の企業に適用されるようになる。こうしたステップを踏むのは、性急に拡大すると保険料の負担が中小企業の経営を圧迫しかねないためだ。

「在職老齢年金」の見直し

続いて挙げられる改正のポイントは、「在職老齢年金」とよばれる制度の見直しだ。「在職老齢年金」とは、60歳以降も働き続けながら年金を受け取った場合に、「給与+年金」の金額が一定以上に達すると、年金の支給が停止されるという制度のことだ。

今回の改正では、「特別支給の老齢厚生年金」をもらう人を対象として制度の見直しが行われた。

シニアの社会参加を促す

過去の年金制度改革では、基礎年金の支給開始時期が60歳から65歳に引き上げられた。その際に急な制度変更がシニアの生活に及ぼす影響を緩和するために、暫定的な対応として、「特別支給の老齢厚生年金」を支給するようになった。

具体的な対象となっているのは、男性が1961年4月1日以前に生まれた人、女性が1966年4月1日以前に生まれた人で、60~65歳になるまでの期間に厚生年金の一部が支払われるようになっている。

該当期間中も働いている場合、現行の制度では「給与+年金」が月額28万円を超えると、超過額に応じて「特別支給の老齢厚生年金」の一部または全部が支給停止となる。

今回の改正では、この上限額28万円を47万円へと引き上げた。引き上げることによって、シニアの社会参加を促すことが狙いの一つと考えられる。

公的年金、確定拠出年金 (企業型) 、iDeCoの支給開始年齢にも変化

年金の受給開始年齢の見直しも、私たちの老後に大きく関わってくる。現行の制度では、厚生年金と国民年金はどちらも65歳から支給開始となるのが原則だ。その一方で、本人が望んで届出を行えば、60~70歳の間で開始時期を変更して受け取ることができる。

今回の改正では、自分自身の希望で選択できる支給開始年齢の時期が60~75歳に拡大した。また、公的年金とは別に勤務先を通じて加入する確定拠出年金 (企業型) 、個人が任意で加入するiDeCoについても、現行の60~70歳から60~75歳に支給開始年齢の選択可能期間が広がった。

一方で、一定の条件さえ満たせれば、加入可能年齢の上限が確定拠出年金 (企業型) の場合65歳から70歳に、iDeCoの場合は60歳から65歳に延長することが可能だ。受給開始年齢と加入可能年齢の見直しは、定年後も働くのが常識となりつつある今の姿を反映したものだといえるだろう。

また、自分の意思で確定拠出年金 (企業型) とiDeCoを併用できるようになった点も改正ポイントの一つとして挙げられる。

年金制度は時代の変化に応じて変わっていく

年金制度は社会や経済の状況によって、度々見直されてきた。今回の改正では、社会保障の適用範囲の拡大や、在職老齢年金の見直し、公的年金の支給開始年齢の変更などがみられた。また、確定拠出年金 (企業型) とiDeCoを併用できるようになるなど、時代の変化に応じた改正が行われたことが特徴として挙げられる。

こうした制度変更について知っているのと知らないのでは、老後の暮らしの様相も変わるだろう。それだけに、みずから積極的に情報をゲットしながら将来に備えておくことが大切だ。(提供:大和ネクスト銀行


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