災害のたびに拡散されるデマや噂。新型コロナウイルスについても、様々な情報が流れて、多くの人が振り回されている。それによって迷惑や実害を被った人も多い。

不安な中でも、デマや噂に振り回されない方法を、心理カウンセラーの大嶋信頼氏に教えてもらった。(取材・構成:塚田有香)。

※本稿は月刊誌『THE21』2020年7月号より一部抜粋・編集したものです。

デマを信じてしまうのは「孤独」が原因だった!?

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(画像=THE21オンライン)

――新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、根拠のないデマや噂がたびたび拡散されている。トイレットペーパーの買い占めが起こったり、医師を騙る人物による偽の情報がチェーンメールで出回ったり、感染者に関する誤った情報がSNSで広まって無関係な個人や店舗が誹謗中傷を受けたりと、数え上げればきりがないほどだ。

なぜ人はこうも簡単にデマや噂に振り回されるのか。心理カウンセラーの大嶋信頼氏は、そのメカニズムをこう解説する。

「きっかけとなるのが、孤独です。新型コロナウイルスの影響で人との接触が減り、単身者の場合はテレワークによって一人で過ごす時間が増えたことで、多くの人が孤独を感じるようになりました。

人は孤独になると不安が増幅し、『自分だけが損をする』という心理に陥ります。『他の人たちがトイレットペーパーを買い占めたら、自分だけが買えなくなる』『外へ出かけている人もたくさんいるのに、自分だけが真面目に外出を自粛している』などと考えてしまうわけです。

すると、『怒りの発作』が起こり、破壊的な人格に変容します。そして、デマや噂などの破壊的な情報を真に受けて、自らも破壊的な行動を起こします。

『自分だけがトイレットペーパーを買えないのは許せない』と怒りを感じて、自分も買い占めに走る。『自分だけが我慢しているのは許せない』と怒りを感じて、外へ出て遊んでいる人を通報したり、営業している店舗を非難したりする。『自粛警察』と呼ばれる攻撃的な人たちがたくさん生まれたのは、まさに孤独によるものです」

左脳だけで判断すると嘘を嘘だと見抜けない

――さらに、現代人の脳がデマや噂を真に受けやすくなっていることも要因だと指摘する。

「人間は左脳で論理的に考え、右脳で感覚的にイメージします。左脳と右脳は脳梁でつながっていて、右脳の感覚を左脳が受け取って論理的に処理したり、左脳の論理を右脳が受け取ってイメージしたりと、本来であれば左脳と右脳の両方がバランス良く働く仕組みになっています。

例えば誰かと話しているとき、右脳が働いていれば、『この人が言っていることの2割くらいは本当だが、残りの8割は嘘だな』などと感覚的に判断できます。

このように、全体に対する割合や物事の関係性を素早く理解できるのは、右脳が持つ空間認識能力が働いているから。すると、相手の言うことをすべて真に受けず、『この人、また適当なことを言ってるよ』と聞き流すことができます。

つまり、人間の右脳には嘘を見抜く機能がもともと備わっているのです」

――ところが、中には右脳が正常に働かない人もいる。

「右脳と左脳がうまくつながっていない人は、すべてを左脳で判断しようとします。しかし脳に入ってくる情報量は膨大で、その一つひとつについて、明確な根拠をもとに筋道立てて論理的に判断することなど不可能です。また、論理的に破綻がないからといって、その情報が真実だとは限りません。

だから、左脳だけで情報を判断すると、どれが本当でどれが嘘なのかわからなくなってしまう。その結果、SNSで流れてくる情報や他人が話していることをすべて真に受けて、デマや噂に振り回されやすくなるのです。

右脳はちゃんと感覚的に判断して、『いやいや、この話が本当なわけがないだろう』とツッコミを入れていても、左右の脳がちゃんとつながっていないと、それが左脳に届きません」

――ビジネスの世界では、数字やデータにもとづいて論理的に考えることが正しい判断につながると言われている。だが大嶋氏は、論理的思考が万能だと考えるのは危険だと指摘する。

「そもそも情報とはあくまで一つの可能性であり、論理的に考えてもどれが正しいか判断できるわけではありません。

『数字やデータは事実じゃないか』と思うかもしれませんが、新型コロナウイルスに関する報道を見てもわかる通り、間違った数字やデータがもっともらしく伝えられるケースはいくらでもあります。

専門機関であるはずのWHOでさえ、当初は『新型コロナウイルスが人から人へ感染するリスクは低い』と誤った情報を発信していました。

この情報を聞いたとき、もしあなたが『WHOが言うのだから本当だろう』と信じてしまったなら、それは左脳で論理的に考えているから。一方で、『それって本当?』と直感的に思った人もいるでしょう。それは右脳が働いている証拠です。

正しい判断をしたいなら、その直感をムリに封じ込めず、むしろもっと自分の感覚を信じることが大事です」