日本の現状は「いつ自己破産してもおかしくない家庭」
私はよく、今の日本の財政を「家計」にたとえて説明します。2020年度の税収は税外収入も加えると約70兆円。その状態で90兆円の借金をするというのは、年収700万円の収入の家庭が、900万円の借金をして、1600万円を支出するのと同じことです。
ただ、年収700万円の家庭にとって900万円の借金は、大金ではあっても返せない額ではないでしょう。コロナ禍のような緊急事態なら、やむを得ない出費と言えるかもしれません。
しかし問題は、2020年3月末の時点で、日本の中央政府の公的債務残高(つまり借金)は1115兆円もあるということ。家計にたとえれば、すでに借金が1億1150万円もあり、さらに900万円の借金をしたということです。
とてもではないですが、返すことは不可能。家庭なら間違いなく自己破産だと思います。
国の財政を家計にたとえましたが、「家計と国とは違う」と反論される方も多いと思います。しかし「借金を返さなくてはいけない」という点は国も家計も同じです。家計にしろ国にしろ、「借金を返してくれない」のなら、お金を貸してくれる人(国債を買ってくれる人)などいなくなってしまいます。
「満期が来た国債は借り換えればいいのだから、返さなくてもいい」とおっしゃる方がいるのですが、誤解です。満期が来た国債にはお金を返さなければなりません。返さないとデフォルト(債務不履行)になってしまいます。返済額の調達が必要です。
家計と国の違いは、徴税権があるかないかに過ぎません。国は強制的に税金を集める権利があるので、いざとなれば強引に国民から税金を取れます。年収700万円の家庭に銀行が1億1150万円もの貸金をしてくれるはずがありません。でも国なら、いざとなれば増税で集めた金で借金を返してくれると思うから貸してくれる(=国債を買う)のです。
ただし、大増税という選択は、実際には難しいと思います。増税額があまりに巨額で、この国では政治的に無理だと思います。
すると、選択肢は必然的に、一つしかなくなります。「ハイパー増税」ならぬ「ハイパーインフレ」です。物価が急上昇する一方、借金が大きく目減りするハイパーインフレは、いわば「現代の徳政令」であり、政府の借金をチャラにしてくれるのです。
ただし、そのツケを払うのは言うまでもなく、国民です。今まで必死に貯めてきた貯金が10分の1、100分の1以下になってしまうかもしれないのです。
そして、政府は実際、その手法を取り始めているのです。それこそが、あの「異次元緩和」なのです。
迫りつつあるハードランディングに対し、今すぐ自己防衛を!
間違えていただきたくないのは、これから日本が迎えようとしている「ハイパーインフレ」という危機は、決してコロナ禍が引き起こしたものではないということです。
前述したように、日本の財政状況は元々、ダントツで世界最悪でした。かつ、日銀は世界の中央銀行の中でダントツのメタボであり、かつ財務状況も脆弱です。そんな中、このコロナショックを迎えてしまったということです。
日本だけではなく欧米各国も、コロナショックへの対応のために大規模な財政出動を繰り返しています。それを見て、「なぜ日本だけが危ないというのか」と言う人がいますが、それが答えになります。このままではまさに、日本は「一人負け」となってしまうのです。
今後起こりうる悲劇はコロナのせいではなく、長年「財政再建を怠ってきた」ツケ、人災なのです。コロナ禍は、その悲劇の引き金でしかないのです。
藤巻健史(経済評論家)
(『THE21オンライン』2020年07月15日 公開)
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