資産管理会社を設立することで節税効果が期待できる、とよく言われています。しかし、株式や不動産など、収入の得る方法は人それぞれです。一言で節税といっても、具体的にどのようなメリットや効果があるのか、イメージがわかない人も多いのではないでしょうか。今回は、資産管理会社を設立するメリット・デメリットや状況別の活用方法を紹介していきます。

目次
そもそも資産管理会社とは
節税に効く、資産管理会社の果たす3つの役割
タイプ別に見る資産管理会社の活用のメリット
資産管理会社のデメリットや注意点は?
まとめ:所得が高い人や資産の大きい人は資産管理会社を検討する価値がある

そもそも資産管理会社とは

資産管理会社
(画像=kai/stock.adobe.com)

資産管理会社とは、個人の株式や不動産といった資産を管理するために設立された会社のことをいいます。通常の法人と同じように、株式会社もしくは、合同会社として法務局に登録して設立することができます。

通常の法人と異なるのは、目的が個人資産の管理に特化している点です。誰でも簡単に設立でき、個人の資産管理に比べて税務上のメリットが高いことから、主に富裕層の個人で設立、利用されています。

節税に効く、資産管理会社の果たす3つの役割

資産管理会社の主なメリットは以下の3点です。

(1)「節税効果」
所得の高い個人よりも、法人にかかる税金の方が税率は低い場合が多く、経費も認められやすい。

(2)「所得の分散」
資産管理会社で親族等を雇用することによって、親族にも資産からの収益を分配することができる。

(3)「相続税対策」
生前贈与や収益の分配によって、相続財産の増加を抑制することができる。

以下に、資産家のタイプ別に上記のメリットをより詳しく見ていきたいと思います。

タイプ別に見る資産管理会社の活用のメリット

資産管理会社の役割と、資産に対する節税効果を考えるとき、資産管理会社を活用する人は、主に3つのタイプがあると考えられます。第一に個人事業主や副業を持つサラリーマンなどで、所得税が高いと感じている人、第二に資産家で相続税対策が必要な人、第三にオーナー社長で後継者に自社株を渡したい人です。それぞれのタイプから、資産管理会社が、どのような役割を果たすのか、具体的に見ていきましょう。

タイプ1:個人事業主や副業を持つサラリーマン

個人事業主や副業を持つサラリーマンにとって、資産管理会社を設立することで、節税効果が期待できます。この節税効果は、主に法人税と所得税の税率の差から生まれます。

・個人にかかる所得税と、会社の事業にかかる法人税では、税率が違う
個人にかかる所得税は累進課税であり、所得が多くなるほど税率は高くなります。現在、所得税の最高税率は45%です。

▽所得税の税額速算表

課税される所得金額(A)所得税率(B)控除額(C)税額=(A)×(B)-(C)
195万円以下5%0円(A)×5%-0円
195万円超 330万円以下10%97,500円(A)×10%-97,500円
330万円超 695万円以下20%427,500円(A)×20%-427,500円
695万円超 900万円以下23%636,000円(A)×23%-636,000円
900万円超 1,800万円以下33%1,536,000円(A)×33%-1,536,000円
1,800万円超 4,000万円以下40%2,796,000円(A)×40%-2,796,000円
4,000万円超45%4,796,000円(A)×45%-4,796,000円

一方、法人にかかる法人税は、中小企業の場合なら、年800万円以下の所得には15%(2021年3月までの軽減税率。本則は19%)、年800万円超の部分の所得には23.2%となります。

現在は、地方法人税や法人事業税なども加えた、法人にかかる税金の合計を示す法人実効税率で見ても、最大で約30%程度です。

▽普通法人の法人税税率

区分適用関係(開始事業年度)
平28.4.1以後平30.4.1以後平31.4.1以後
普通法人資本金1億円以下の法人など(注1)年800万円以下の部分下記以外の法人15%15%15%
適用除外事業者19%(注1)
年800万円超の部分23.40%23.20%23.20%
上記以外の普通法人23.40%23.20%23.20%

(注1) 平成31年4月1日以後に開始する事業年度において適用除外事業者(その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人等をいいます。以下同じです。)に該当する法人の年800万円以下の部分については、19%の税率が適用されます。

個人事業主にとっての所得とは、売り上げから経費などを差し引いたものです。サラリーマンにとっても、副業で行う事業については同じ考え方で所得を計算します。

個人では、所得が330万円を超えると所得税率は20%となり、住民税を加えると約30%です。法人税率との比較から考えて、所得がこのラインを超えてくると、資産管理会社にすることの節税メリットが見えてくるということになります。

当然、所得が多くなるほど、法人税率との差が広がるため、節税効果は大きくなります。ただし、サラリーマンの場合、給与収入を資産管理会社の収入にすることはできません。

・資産管理会社にすることで、経費として認められる範囲が広くなる
資産管理会社は法人ですので、役員の退職金や出張手当が経費になるなど、個人事業に比べ、経費として認められる範囲が広くなります。また損失が出た場合、繰り越し控除が法人の方が長いといったメリットもあります(個人では最長3年、法人では最長10年)。

また、資産管理会社から受け取る役員報酬や給与からは、所得税の計算上、受け取った金額から「給与所得控除」を差し引くことができる点も節税となります。

ただし、サラリーマンの場合は、もともと勤めている企業からの給与収入が大きければ、すでに所得税率は高率となっているはずです。資産管理会社からも役員報酬を受け取った場合、合算した所得にまた高い所得税率が科されることになります。

このため、資産管理会社の役員には所得の高くない配偶者などに就いてもらい、配偶者に役員報酬を支払って税金を引き下げるなどの工夫が必要です。もちろんこの場合、配偶者には資産管理会社に勤務しているという実態が必要となります。

タイプ2:相続税対策が必要な資産家

個人が収益を生む資産を保有しているままだと、その人の資産はどんどん大きくなっていきます。そしてその分だけ、相続が発生した時の相続税も大きくなります。

・収益を資産管理会社に集め、親族への給与支払いで相続対策を行う
資産管理会社を設立していれば、収益は会社に蓄積されることになります。さらに、親族などを資産管理会社の社員にして、給料を支払うことによって、会社の資産(将来の相続財産)の増加を抑えることができます。

また、親族への給与の支払いを通じて、親族の預金などの資産を引き上げておくことができます。それによって、相続発生後の納税資金に充てることができます。相続財産が非上場株式や不動産などが中心であった場合には、すぐに売却できないこともあります。相続税が多額となった場合、相続人が納税資金の捻出に非常に苦労することが多いのです。

・株式の生前贈与がしやすい
また、資産管理会社の株式は生前贈与の活用にも便利です。たとえば資産が不動産であれば、不動産のまま小口に分けて贈与するというのは、不動産取得税や登録税などを考えても現実的ではありません。一方で、資産管理会社の株式であれば、ずっと柔軟に生前贈与を行うことができます。発行株式数の分だけ、小口に、何度でも、贈与が可能です。株式の贈与には、株価に応じた贈与税が受け取る側に発生しますが、これは不動産であっても同様です。

相続税対策に、生前贈与は高い効果があります。相続発生前までに相続財産を減らし、相続税の軽減を図ることができるためです。贈与税には暦年課税という制度があり、一人あたりが受け取る贈与の年間110万円までには贈与税がかかりません。また贈与する側は何人にでも贈与することができます。

タイプ3:自社株を後継者に渡したいオーナー社長

非上場会社のオーナーが後継者に自社株式を生前に譲り渡したい場合にも、資産管理会社の活用を検討できます。自社株式を資産管理会社に保有させ、その資産管理会社の株式を後継者に保有させる形をとります。

この場合、資産管理会社をオーナーが設立する方法と後継者が設立する方法があります。オーナーが設立した場合には、後継者への譲渡や生前贈与で株式が移転します。後継者が設立した場合には、株式移転の必要はありませんが、オーナーからの資産買取の資金を後継者が用意する必要があります。どちらが有利か、あるいは適切かについてはケースバイケースであり、税理士などへの相談も必要と思われます。

ただどちらの場合も、資産管理会社の株価を純資産価額方式で評価する場合には、蓄積された利益から37%の法人税相当額(2020年8月現在)が控除されます。このため、その資産管理会社にさらに相続が発生した際には、相続税が有利となります。

また万が一、後継者の方がオーナーより先に亡くなってしまうようなケースでも、後継者の相続人が相続するのは資産管理会社の株式です。自社株式が部外者に渡るリスクを下げられると考えられます。

資産管理会社のデメリットや注意点は?

一方で、資産管理会社を設立するデメリットもあります。それらも認識しておかないと、設立したことでかえって不利益が出てしまうこともあり注意が必要です。

資産管理会社の設立の注意点1:設立時やその後の運営にコストがかかる

・設立時にかかる費用
一般的に、株式会社の設立には法人登記費用として25万円程度、合同会社の設立には10万円程度かかるとされます。また、設立後は約7万円程度の法人住民税が、利益が出ていなくても毎年科されます。さらに、個人の場合よりも法人のほうが、税務や経理にかかる費用が高くなることが想定されます。

また、資産管理会社の設立時には、保有資産を資産管理会社に移すコストもかかります。特に資産が不動産である場合には、不動産取得税や登録免許税、司法書士代などがかかり、さらには不動産鑑定に費用がかかる場合も少なくないと思われます。

不動産取得税は不動産の価格(課税標準額)の4%(2021年3月末までは、住宅と土地に対しては3%)、譲渡の場合の登録免許税は価格の2%(2021年3月末までは、1.5%)です。不動産鑑定料は対象によって様々ですが、数十万円といった額がかかることが多いです。

・利益が出た場合の税金
会社に資産を移した際には、税務上は譲渡とみなされ、利益が出ていれば譲渡税が課されます。譲渡したものが土地建物等である場合は分離課税、それ以外のものである場合は総合課税となります。いずれの場合も所有期間が5年以下であれば、税率は5年超の時よりもかなり高くなります。

・社員の社会保険料
社員が1人であっても、会社となれば社会保険に加入しなければなりません。社員の社会保険料は、会社が半分を負担するため、これもコストとなります。

ただし、もともと会社員でなかった人が資産管理会社を設立した場合には、国民年金から厚生年金への加入に代わることになり、厚生年金の方が国民年金に比べて保障は手厚いため、これをメリットと考える人もいるかもしれません。

資産管理会社の設立の注意点2:事業承継税制の適用が受けられないケースもある

事業承継税制とは、非上場会社の後継者が先代から会社を引き継ぐときに、贈与税や相続税の納付が猶予または免除される制度です。2019年に10年間限定で要件が緩和され、かつ節税効果も高くなっており、要件さえ合えば非常に魅力的な制度です。

また2019年からは、同様の制度が青色申告の個人事業主(不動産賃貸業は対象外)にも認められることとなりました。こちらも10年の期間限定です。

ただし、資産管理会社はこの制度を利用することができない点には注意が必要です。この制度における「資産管理会社」とは、以下の会社のことをいいます。

・有価証券、自ら使用していない不動産、現金・預金等の特定資産の保有割合が総資産額の70%以上の会社(資産保有型会社)

・特定の資産から運用収入が総収入金額の75%以上の会社(資産運用型会社)

例外として、常時5人以上の社員を雇用し、商品販売等の業務を相続や贈与の発生前に3年以上継続している、などの要件を満たしていれば、制度利用は可能とされます。しかし、それらの要件を全て充足することは難しい場合が多いと考えられます。事業承継税制のメリットは大きく、資産管理会社の設立によって受けられる節税メリットなどを上回るケースも想定されます。このため、この制度の利用を検討しているなら、資産管理会社の設立には十分な検討が必要となります。

まとめ:所得が高い人や資産の大きい人は資産管理会社を検討する価値がある

資産管理会社の設立については、設立時および維持にコストがかかることから、誰にでも効果が高いと言い切れるものではありません。しかし、節税や相続対策としてのメリットが多いことも事実です。所得の高い方や、資産の大きい方は、一度検討してみる価値はあると思います。(提供:JPRIME

著者 岡山 愛


【オススメ記事 JPRIME】
超富裕層が絶対にしない5つの投資ミス
「プライベートバンク」の真の価値とは?
30代スタートもあり?早くはじめるほど有利な「生前贈与」という相続
富裕層入門!富裕層の定義とは?
世界のビリオネア5人が語る「成功」の定義