安定的な家賃収入を期待でき、税負担も抑えられる「1棟マンション」の所有は、相続対策の切り札として人気を博しています。一方で、少額から気軽に取り組める相続対策として、「不動産小口化商品」もにわかに注目を浴びています。これら2つの違いやメリット、注意点についてわかりやすく説明します。
目次
生前贈与を進めつつ、資産構成の見直しを図るのが相続対策の基本
とかく相続対策と言えば、「いかにして相続税の負担を軽くするか」というポイントに視点が集中しがちでしょう。しかし、詳しくは後述しますが、そのことだけに目を奪われていると、相続税は節税できても受け継がれた資産の価値が損なわれかねません。
もちろん、それでも相続税の節税は重要なテーマであることも確かです。そういった観点に立てば、①存命中にできるだけ相続資産を減らす、②「相続税評価額」が低くなる資産にシフトするという2つの対策を進めることが重要となってきます。
①については、贈与を受ける側1人当たり年間110万円まで非課税となる基礎控除枠を活用し、その枠内にとどまる範囲内で早いうちから相続人へと相続財産の移転を進めていくのが基本です。そして、②の相続税評価額が低くなる資産として活用されているのが不動産です。
現金や預貯金の「相続税評価額」が額面通りであるのに対し、土地の場合は取得費用の約 8割に減額されます。しかも、その土地を第三者に貸し付けていると、さらに約8割の評価額となります。
また、建物の「相続税評価額」も購入価格の約4 割に減額され、第三者に貸し付けていると、約7割の評価額となるため、同じ資産価値の現金や預貯金と比べて課せられる相続税がかなり異なってきます。このように「相続税評価額」が低くなるのは、不動産がすぐには換金しづらく、他人に貸し出しているとさらに容易には処分できないことなどが考慮されてのことです。
「相続税評価額」を抑え、安定的な収益を期待できる「1棟マンション」
ただし、こうして「相続税評価額」を低く抑えられることに着目して節税一辺倒の相続対策を進めると、思わぬ後悔を招く恐れも出てきます。「とにかく賃貸不動産を所有しておけばいい」という発想で取り組むと、安定的な需要が見込めない物件に手を出してしまい、安定的な家賃収入が得られない不良資産となりかねません。
経費の負担やローンの返済で赤字経営が続けば、たとえ相続税の節税は果たせたとしても、そのような資産を相続した人は途方に暮れることになりそうです。特にマンションの1室だけを購入する区分所有は、空室が発生した途端に家賃収入が途絶えてしまいます。
節税とともに安定的な賃料収入を求めるなら、東京23区内において高い賃貸需要が見込まれるエリアで、1棟マンションを所有するのが堅実だと言えるでしょう。
都内の人気エリアに建つ1棟マンションの中でも、新築の物件は長くコンスタントな需要を期待できそうです。もちろん、そういった不動産に投資するためには、相応の資金が必要となってきます。
その点、地方都市の物件は割安で表面上の利回り(家賃収入÷不動産の取得価格)は高くなりますが、異動や進学のシーズン以外で空室が発生すると長期化しかねないというリスクも潜んでいます。資産を受け継いだ相続人に感謝されるような不動産を遺すという観点に立てば、人気エリアの1棟マンションが“最適解”ということになりますが、それを手に入れるためにはまとまった資金が求められ、ローンの活用が前提となってくるでしょう。
また、強いて1棟マンションのデメリットを挙げるなら、複数の相続人が存在していた場合に分け合うのが難しいことです。兄弟姉妹における共有名義は揉め事の火種になりがちですから、相続人の数に応じて分けやすいように複数の物件を所有することを検討したほうがよさそうです。
生前贈与の手段として注目度が高まる「不動産小口化商品」
もっとも、複数の1棟マンションを所有するには、周到なプランニングや資金調達が求められてくるのも確か。もっと少額から気軽に取り組むことができ、複数の相続人の間で分けやすいというポイントに着目すれば、不動産小口化商品が視野に入ってくるでしょう。
不動産小口化商品は、特定の不動産を1口当たり数万〜1000万円程度の金額に小口化して販売し、物件から得られる家賃収入や売却益を出資額に応じて購入者に分配するという仕組みになっています。
少額から利用できることともに、不動産を所有しているケースと同等の税制が適用され、相続対策にも活用できることが不動産小口化商品の大きなメリットです。ただ、「匿名組合型」と「任意組合型」という2つのタイプがあり、相続税対策につながるのは後者だけである点に注意しましょう。
「任意組合型」は出資者(購入者)が共同で不動産に投資するという形態になっており、その所有物件は一般的な不動産と同じ方法で「相続税評価額」が算定されます。つまり、「任意組合型」の不動産小口化商品を所有すれば、額面通りの評価となる預貯金などよりも「相続税評価額」を大幅に抑えられ、相続税の節税を図ることが可能なのです。
小口化されているので相続の際にも分けやすいですし、エリアの異なる複数の物件への分散投資も比較的容易です。しかも、不動産小口化商品は生前贈与の具体的な手段としても活用できます。
贈与を受ける側1人当たり年間110万円の非課税枠内で不動産小口化商品の生前贈与を行っていくと、贈与税がかかることなく所得移転を進められます。そして、贈与された側(将来の相続人)は不動産小口化商品から得られる分配金をプールしておけば、相続税の納税資金も準備できます。
両者のメリットとデメリットを理解し、万全の相続対策を!
資産家でなくてもローンを用いることで1棟マンションへの投資は十分に可能ですし、大きな節税効果とともにまとまった家賃収入も期待できます。しかしながら、相続人の数が多いケースなどでは不動産小口化商品のほうが活用しやすいケースも出てくるでしょう。
また、相続対策はできるだけ早いうちから地道に進めていくのが効果的で、その点でも不動産小口化商品による生前贈与が有効策となってきます。不動産小口化商品で着々と生前贈与を進めつつ、並行して1棟マンションにも投資し、安定的な家賃収入をもたらす優良な資産を遺すという策を打てば、受け継いだ人たちに心から感謝される万全の相続対策となりそうです。
なお、不動産小口化商品の設定・運用・販売を担う事業者は、①宅建業法の免許を取得、②資本金1000万円以上、③純資産が資本金の100分の90以上、④国土交通大臣または都道府県知事による事業者としての登録を受けるなどといった要件を満たすことが義務づけられています。こうして厳格なルールが設けられていることも、利用するうえでの安心材料となってくるでしょう。
まとめ
「1棟マンション」は現金・預金などと比べて「相続税評価額」が大幅に低くなり、その分だけ相続税負担を抑えられますし、安定的な家賃収入も期待できます。その反面、多額の投資が必要で、相続人の数が多い場合にはどのように分け与えるのかについて、きちんと考えておかなければなりません。
その点、もっと少額から始められ、複数の相続人の間で分け合うのも容易なのが「不動産小口化商品」です。相続の発生に備えて早いうちから取り組める生前贈与の選択肢としても有効です。(提供:税理士が教える相続税の知識)