暴落したはずの日経平均株価、ダウ平均株価が値上がりしたかと思えば、アメリカの失業率は世界恐慌以降最悪となり、国内の倒産件数は増え続けている。株価と実体経済の乖離が甚だしく「何が起きているのかわからない」というのが正直な感想だ。そこで、経済評論家であり個人投資家でもある加谷珪一氏に、アフターコロナの経済と資産への影響について、話をうかがった。

実体経済が悪化しても、株価が上がる理由とは?

アフターコロナの経済と資産,加谷珪一
(画像=THE21オンライン)

――景気後退は確実とされながら、株価はなかなか下がりません。「実体経済と株価が乖離している」といった声もあります。原因は何でしょうか。

「まずは、一般的な見方からご紹介します。一つは、リバウンドです。実体経済悪化の予想を受け、短期的に株価は落ち込みましたが、反動で上昇。さらに、空売り(信用取引を利用して株を借りて売ること)した株を買い戻す動きが、株価上昇に拍車をかけました。

もう一つは、量的緩和です。中央銀行がバラまいたマネーが市場に溢れ、行き場のないお金が株式市場へと流れました。アメリカでも、FRBが要請した利上げがコロナ禍でストップし、市場を下支えしました。

しかし、これでは説明がつきません。ここからは私見ですが、コロナ禍がむしろ経済や企業への期待感を後押ししているのではないかと考えています。今まで必要だと言われ続けたイノベーションが、コロナ禍をきっかけに始まろうとしているのです。

例えば、自動車産業は数年前から100年に一度のパラダイムシフトだと叫ばれていました。ガソリンから電気へ、ITによる自動運転化、自動車業界は製造業からサービス業へ……。

とはいえ、実際に急激な変化はありませんでしたが、感染症リスク対策としての自動運転が注目されると、今まで進まなかった技術開発が進むのではないかといった投資家たちの期待が高まりました。

つまり、『株価は企業業績を反映した結果』ではなく『株価は将来への期待で決まる』という視点で考えれば、株価上昇の裏側が見えてくるのです。

企業の将来への期待値を表すPER(株価収益率=今の株価が「1株当たりの純利益の何倍か」を示したもの)という指標で考えるとわかりやすいでしょう。仮にPERが一定な状態で企業業績が下がれば、1株当たりの純利益(EPS)は低下するため、株価は下がります。

しかし、将来的に業績が伸びる余地があると考えればPERは高まるので、業績が下がっても株価は上がることもあるのです。

とすると、『景気が悪いのに株価上昇はおかしい』という論調は、必ずしも当てはまらないのではないかと考えられます」

企業の明暗を分けるパラダイムシフト

「米電気自動車(EV)メーカー、テスラの株価が上昇し、トヨタ自動車を抜いて世界首位に躍り出ました。自動車産業のパラダイムシフトを、多くの人が予見したからでしょう。

こうした変化は自動車業界だけではありません。あらゆる産業の抜本的な改革が進むと考えられます。

例えば、各国で拡大していたサプライチェーンは、コロナ禍で破綻しつつあります。すると、近くでモノを生産して近くで提供する地産地消が進むのではないでしょうか。昔から言われていたことですが、3Dプリンターが発達すれば、遠くからモノを調達しなくても、地方の製造業は活動できるようになります」

――マイクロツーリズム(インバウンド消費の低迷を受け、日本人による国内旅行を喚起する考え方。星野リゾート代表の星野佳路氏が提案)のような考え方もあります。地産地消と同じように、今後はあらゆる産業でローカル化が進むのでしょうか?

「広域経済を運営するよりも、各地の拠点を結んでコンパクトに経済を動かす流れにシフトしていくはずです。IT化は、一見いつでもどこでも何でもできる世界を広げると思われがちですが、実は近隣経済を発展させるきっかけになっています。これからは、近い経済圏でのエコシステムを促す企業の株価が注目されるのではないでしょうか。

また、IT化やシェアリングエコノミー、EVの浸透と同時に脱石油も進みます。コロナ禍で石油が暴落した理由は、移動が減って需要が減ったからですが、近距離の移動が常態化すれば、そもそも今ほど石油が必要なくなります。

コロナ禍で急拡大したウーバーイーツを見てください。多くの配達員は、近所に自転車で配達していませんか。

これだけ構造が変わるのですから、当然、業界内の再編も一気に進むはずです。変化に対応できた企業とできなかった企業。前者は伸びる一方で、後者は淘汰されていくでしょう」