畑違いの起業でも、銀行での経験が活きた

――69歳にして、蓄電池という未経験の業種での起業。年齢や畑違いの分野への挑戦は、ハンデにはならなかったのだろうか。

「それは私も気にしなかったわけではありません。起業する前、堀場製作所の堀場雅夫さんが書かれた本を読むと、『ベンチャーを興すなら40代に限る』『それまでのキャリアを活かせ』、この二つがベンチャーの要諦だと書いてありました。

40代は色んな勉強をしてきて社会のことがわかってくる年代で、しかもまだエネルギーが残っているから、起業に適している。そして、起業するなら、せっかく学んだことを活かしなさい、という教えです。

私は堀場さんにお目にかかるために京都に行き、『69歳での起業です。しかも元銀行員がモノ作りをして大丈夫でしょうか』と尋ねました。すると堀場さんは、『電池は電気を溜める。銀行は金を貯める。一緒じゃないか』とおっしゃいましたね(笑)」

――その言葉は、堀場氏流の激励だったのだろう。吉田氏は、自身の起業経験を振り返り、「50代以降の人が活かすべき最も重要なキャリアは、マネジメントの経験」だと話す。

「起業は一人ではできません。色んな人の技術や発想を束ねて、彼らのやる気を高めるには、マネジメントの力が必要です。マネジメントは人の気持ちがわからなければできませんから、経験がモノを言います。40代よりも、50代、60代と歳を重ねるほど有利ではないかと思っています。

堀場さんの言われるキャリアの活かし方とは、そういう意味だと理解しています。私は30代から支店長を務め、ヒト、モノ、カネを使って収益をどう上げていくのか、というマネジメントの勉強をさせてもらいました。

私の場合、資金集めでも銀行での経験が大いに役立ちました。電池の研究開発、工場建設から量産までに必要な資金として、現在までに32社から336億円を出資していただいています」

マネジメントの本質「尖った人をより尖らせる」

――中高年世代が強みとするマネジメント力は、日本企業でますます強く求められるようになると吉田氏は話す。

「日本の企業の弱さは、コーディネートする力がないことです。飛行機を例に取ると、日本は優れた部品を作りますが、それらを総合して飛行機を作ることは得意ではありません。一方、米国は飛行機を作りますが、部品は自国では作らずに日本などで作って、コーディネートしています。

日本企業も、今後は優れた部品を供給するだけでなく、飛行機を作れるくらいの総合力を備える必要があるでしょう。50代以降の人たちがマネジメント力を発揮して、色んなリソースを組み合わせることができれば、それが企業の力になっていくと思いますね」

――マネジメント力を鍛えるために、50代が意識するべきことは何だろうか。

「社内の部長職の人たちによく言うのは、『あなたたちの給料が高いのは、部下に自分の言うことを聞かせるためじゃないよ。尖った人たちを思いっきり尖らせて、その隙間を埋めるためだよ』ということです。

私たちの社会は、どうしても同質性を求めがちですが、同じような考え方や行動をする人が集まっても、小さくまとまってしまいます。異質で尖った人たちを集めて、それぞれの良さや強みを活かしながら組織の力にしていくのが、マネジメントの役目です。そのことをぜひ意識していただきたいと思います」