新型コロナウイルスは人々のさまざまな行動を制限し、窮屈さを感じさせている。一方、女性からは「化粧しなくていいから楽!」という声も挙がっている。リモートワークで出社しなくてよくなり、仮に出社したとしてもマスクをつけて勤務するなら、ほとんど化粧をしなくてもよくなった。そしていま、このような状況に化粧品業界が苦しんでいる。
今年売れなかった商品の1つに化粧品がある…なぜ?
2020年、あまり売れ行きがよくなかった商品の1つに「化粧品」があると言われている。外出自粛によって買い物の機会が減ったから、という単純な理由だけではない。そもそも女性が化粧をする機会が減ったことにも原因があると言われている。
新型コロナウイルスの影響でリモートワークを導入する企業が増えた。リモートワークの場合、ZoomやSkypeでのテレビ会議などを除けば、家族以外誰とも会わないまま1日が終わることもある。それはつまり、わざわざ手間をかけて化粧をする必要がないということだ。
出社や外出の際も、マスクをつけていることにより化粧の必要性が薄れた。新型コロナウイルスの感染拡大はマクロ的には経済に大きな打撃を与えたが、ミクロ的にはこのような小さな「メリット」もあるわけだ。
もちろん一概に「化粧=面倒臭いもの」とレッテルを張るつもりはない。好きで化粧をしている人ももちろん多い。しかし「仕方ないから化粧をする」というシーンが少なくなるだけで、女性にとってはどれだけ楽だろうか。帰宅してからの化粧落としの時間も節約できる。
化粧品各社の業績はどういう状況か?
「女性×化粧」という視点では、新型コロナウイルスは前述のような変化を社会にもたらした。このような状況に危機感を抱いているのが化粧品業界だ。化粧の機会が減るということは、それだけ商品の売れ行きが悪くなるということだからだ。
では化粧品各社の企業業績は、具体的にどのように推移しているのだろうか。
資生堂
化粧品大手の資生堂は2020年11月、2020年12月期第3四半期の連結業績(2020年1~9月)を発表した。売上高は前年同期比22.8%減の6,536億7,500万円、営業利益は同91.4%減の89億600万円で、最終損益は前年同期の724億5,800万円の黒字から136億6,800万円の赤字に転落している。
通期(2020年1~12月)の業績予想も合わせて発表しており、最終的には赤字額は300億円まで膨らむ見通しだという。店舗の休業や消費者の外出自粛が響いたほか、訪日外国人旅行者が大幅に減少したことも大きい。インバウンド客は化粧品会社にとっても大きな収益源だったからだ。
しかし、かねてから力を入れていたEC(電子商取引)部門は大きく伸びており、コロナ禍の収束とともに業績が徐々に回復していくことが期待されている。資生堂は徹底的にコストを削減し、「危機に打ち勝ち、構造転換の改革を進め、2023年に完全復活を目指す」という。
コーセー
同じく化粧品大手のコーセーも、新型コロナウイルス感染症の影響から減収減益の状況となっている。2021年3月期第2四半期の連結業績(2020年4~9月)は、売上高が前年同月比23.7%減の1,302億9,000万円で、最終損益は赤字転落こそ免れたものの、同83.0%減の30億9,300万円のプラスにとどまった。
資生堂と同様に、外出自粛などの影響やインバウンド客数の激減によって、日本国内では売上が大きく落ち込んだ。しかし、アジア地域での売上高は中国を中心に回復し、前年同期比では売上高が17%増となっている。
コーセーは第2四半期中にバーチャルストア「Maison KOSÉ」を開設するなど、新たな取り組みもスタートさせており、何とかこの厳しい状況を乗り切ろうと奮闘している印象だ。
マンダム
マンダムも苦しい。10月末に発表した2021年3月期第2四半期の連結業績(2020年4~9月)は、売上高が前年同期比24.5%減の335億4,800万円で、営業利益は同80.6%減の8億9,500万円まで落ち込んだ。
マンダムは男性事業も積極的に展開しているが、日本国内は男性事業と女性事業ともに大幅な減収となっている。海外事業も減収となった。
通期の最終損益は6億7,000万円の黒字を確保する見通しだが、強みである事業領域が新型コロナウイルスの影響でいずれも厳しい状況に陥っていることには変わりはない。マンダムは「除菌市場」への本格参入も発表しており、どれだけ業績の下支えにつながるか注目される。
化粧品が小売店での売れない商品の上位に
調査会社インテージによれば、小売店における日用消費財の販売金額下落ランキング(2020年)で、上位10品目のうち化粧品関連の商品が5つ含まれる結果となった。口紅や頬紅(チーク)、ファンデーションなどだ。コロナ禍が収束すればある程度状況が改善すると思われるが、ウイルスの変異種の感染拡大などで収束が長引く可能性もある。予断を許さない状況はまだまだ続く。(提供:THE OWNER)
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)