投資信託で利益が出たら、税金を納める必要がある。源泉徴収で完結する人も多いが、確定申告をしたほうが得になることもある。税金を抑えつつ有利に投資するため、投資信託の税制にはどのようなものがあるのか見ていこう。

1.投資信託で税金が発生する3つのタイミング

投資信託,税金
(画像=William Potter/Shutterstock.com)

投資信託で収益が出ると、税金がかかる。税金が発生するタイミングは、投資信託の分配金を受け取った時と売却した時、償還された時だ。

⑴投資信託の普通分配金を受け取るとき

投資信託の分配金とは運用資産から投資家に還元されるお金のことであり、課税の対象になる。だが、すべての分配金に税金がかかるわけではない。分配金には「普通分配金」と「元本払戻金(特別分配金)」があり、課税されるのは普通分配金のほうだ。

普通分配金とは元本を上回った分から支払われる分配金のことで、投資家の利益になる。そのため、普通分配金には税金がかかる。一方、元本払戻金(特別分配金)は元本を下回る部分から支払われる分配金なので、課税されない。元本払戻金(特別分配金)は、元本を取り崩して投資家に戻しているに過ぎないからだ。

投資信託の普通分配金は受取時に税金が源泉徴収されるため、基本的に確定申告は不要である。

⑵投資信託を売却するとき

投資信託の売却時も、利益が出ていれば税金がかかる。簡単に言えば、投資信託の購入時の基準価額(個別元本)を上回っているかどうかだ。投資信託を追加購入した時や元本払戻金(特別分配金)を受け取った時、分配金を再投資した時は個別元本が変わるため、算出される税額も変わる。

売却時の利益に対する税金は、特定口座で「源泉徴収あり」を選択していれば売却時に源泉徴収される。同じ特定口座でも「源泉徴収なし」や一般口座の場合は源泉徴収されないため、確定申告が必要だ。

投資信託が償還されるとき

投資信託は自分の意志で売却するケースのほか、運用会社側の都合で償還されることがある。償還されるのは投資信託の信託期間(運用期間)が終了した時や、投資信託の規模(純資産総額)が小さくなった時などだ。償還されれば運用資金は戻ってくるが、償還日の基準価額が個別元本を上回っていれば税金がかかる。

投資信託の償還時に発生する税金の取り扱いは、売却時と同じだ。「源泉徴収あり」の特定口座なら自動的に徴収され、「源泉徴収なし」の特定口座や一般口座なら確定申告が必要になる。

2.投資信託の税金の取り扱いは「株式投資信託」と「公社債投資信託」で異なる

投資信託の税金は分配金、売却、償還に対して発生するが、「株式投資信託」と「公社債投資信託」で一部取り扱いが異なる。

株式投資信託とは投資先に株式が組み込まれた投資信託のこと

一般的に販売されている投資信託のほとんどは、株式投資信託だ。

株式投資信託とは、ポートフォリオに株式を組み入れられる投資信託のこと。実際に株式で運用しているかどうかではなく、投資信託の約款で株式も組み入れられることが記されていれば株式投資信託になる。株式をポートフォリオにまったく組み入れず、債券のみで運用する投資信託もほとんどが株式投資信託だ。

公社債投資信託とは約款で株式を組み入れられないことを定めた投資信託のこと

株式投資信託とは違い、約款で株式を組み入れられないことを定めた投資信託を公社債投資信託と呼ぶ。

代表的な公社債投資信託には、証券会社の口座としても利用されるMRF(マネー・リザーブ・ファンド)や外国債券で運用されるMMF(マネー・マーケット・ファンド)がある。公社債投資信託は主に短期債券で運用されるため安全性は高いが、投資信託であり元本保証はない点に注意したい。

株式投資信託と公社債投資信託に共通してかかる税金

株式投資信託と公社債投資信託の特徴は異なるが、税金の取り扱いはほとんど同じだ。どちらも分配金、売却、償還による利益に対して税金が発生する。税率は所得税15%、住民税5%、所得税に対する復興特別所得税2.1%を合計した20.315%だ。

投資信託の分配金にかかる税金は原則として源泉徴収されるが、確定申告で申告分離課税を選択することもできる。申告分離課税とは1年間の分配金の損益を合計し、決められた税率で税金を納める課税方式のことだ。投資信託の売却や償還の利益にかかる税金も、「源泉徴収あり」の特定口座を選択していれば確定申告は不要だが、同様に申告分離課税を選択することもできる。

  株式投資信託 公社債投資信託
分配金 20.315%
(所得税、住民税、復興特別所得税)
売却
償還
(※筆者作成)

株式投資信託と公社債投資信託で異なる税金の取り扱い

株式投資信託と公社債投資信託の税金の取り扱いはほとんど同じだが、異なる点もある。

・公社債投資信託の分配金は利子所得として全額が課税対象

株式投資信託の分配金は、個別元本を基準に普通分配金と元本払戻金(特別分配金)に分かれるが、公社債投資信託にはその区別がなく分配金すべてに税金がかかる。同じ分配金でも、株式投資信託では配当所得になるのに対し、公社債投資信託では利子所得として扱われる。利子所得はその収入がそのまま所得になり、原則として源泉徴収で納税が完了する。

・株式投資信託の分配金は配当控除の対象になる

投資信託の分配金は、給与所得など他の所得とは別に計算する分離課税の対象だが、株式投資信託の分配金については確定申告で総合課税も選択できる。総合課税を選択すれば、他の所得と合算して税金が計算される。総合課税は所得の合計に対して税金がかかるため、所得税・住民税が高くなる可能性があるが、配当控除を受けられる。

配当控除とは投資信託の分配金などについて、総合課税を選択した時に受けられる税額控除のことだ。分配金は受取時に源泉徴収されるため、総合課税の選択によってさらに所得税と住民税がかかり二重課税になる。それを避けるために、一定金額を所得税と住民税から控除する仕組みだ。

ただし配当控除は所得水準により有利・不利が異なり、計算が複雑だ。総合課税にすると健康保険料や配偶者控除にも影響が出ることがあるため、税務署員や税理士などに相談して慎重に判断しよう。

3.投資信託にかかる税金で確定申告が不要なケース

ここまで解説した投資信託の税金は本来なら確定申告による申告分離課税が原則だが、実際は特定口座を選択し、確定申告を不要にする人が多い。そこで、税制口座の違いや確定申告が不要になる他のケースも確認しておこう。

「源泉徴収あり」の特定口座を利用している場合

証券口座を開設する際、口座の種類を選択する。ほとんどの人は「源泉徴収あり」の特定口座を選ぶはずだが、他の口座と何が違うのだろうか。

・特定口座とは

特定口座とは金融機関に1年間の損益を計算してもらい、投資家の税務申告の負担を減らすための口座だ。特定口座の開設にあたって「源泉徴収あり」か「源泉徴収なし」を選ぶことで、投資家自身が納税方法を選択できる。

「源泉徴収あり」の特定口座を選択した場合は口座内で損益を計算し、納税まで金融機関が代行してくれるため、税務申告の作業は発生しない。一方「源泉徴収なし」の特定口座を選択した場合は、損益の計算は金融機関が行ってくれるが、確定申告によって自分で納税することになる。その際も、金融機関が作成する年間取引報告書によって比較的容易に申告できる。

源泉徴収ありと源泉徴収なし、どちらの特定口座でも分離課税による20.315%の税金は変わらないため、基本的には確定申告の手間を省ける「源泉徴収あり」を選択するとよいだろう。確定申告をしたほうがよいケースもあるが、「源泉徴収あり」の特定口座でも後で確定申告をすることもできる。

・一般口座とは

一般口座でも、投資信託に投資できる。

一般口座は1年間の損益を自分で計算し、確定申告をするタイプの口座だ。一般口座では年間取引報告書が作成されないため、1年間の取引履歴を確認して確定申告をしなければならない。確定申告の作業が発生する点は「源泉徴収なし」の特定口座と同じであり、未公開株の取引といった特殊な事情がない限り、あえて一般口座を開設する必要はないだろう。

給与以外の所得が20万円以下の会社員の場合

1年間の取引金額が少額になることが予想される場合は、「源泉徴収なし」の特定口座で取引したほうが税金を抑えられることがある。以下の条件に当てはまる場合は、譲渡益があっても確定申告する必要がないからだ。

・年間の給与収入が2,000万円以下
・給与の支払いが1ヵ所のみで給与所得と退職所得以外の所得が20万円以下

「源泉徴収あり」の特定口座の場合、確定申告をする必要のない金額まで税金が徴収されるため、少額取引を予定しているなら「源泉徴収なし」の特定口座を選んでもよいだろう。ただし、所得税の確定申告をする必要がなくても住民税の申告はしなければならない。

なお、医療費控除などのためにそもそも確定申告しなければならない人は、譲渡所得が20万円以下であっても確定申告が必要だ。

年間を通じて損失が確定し税金が発生しない場合

年間を通じて損失のほうが多い場合は、利益が発生しないため確定申告は必要ない。

投資信託の分配金は受取時に税金が源泉徴収されるが、これも「源泉徴収あり」の特定口座で受けることで同じ口座内の譲渡損失と損益通算ができる。このように口座をまとめておけば確定申告の必要がなくなるため、税務申告の手間を省くために活用したい。

4.投資信託にかかる税金で確定申告するほうがよいケースとは

投資信託にかかる税金はどちらも源泉徴収により確定申告をせず終了できるが、あえて確定申告をする3つのケースを紹介したい。

確定申告をしたほうがよいケース(1)……複数口座の投資信託などを損益通算する

投資信託など金融商品は譲渡益や分配金による利益に対して課税されるが、損失が出た場合は利益から差し引いて税金を減らせる。その仕組みを損益通算と呼ぶ。例えば50万円の利益と20万円の損失がある場合、何もしなければ約10万円の税金(50万円の20%)だが、損益通算すれば約6万円の税金(30万円の20%)で済む。

同じ特定口座(源泉徴収あり)内なら損益通算は自動的に行われ確定申告は不要だが、異なる金融機関の取引を損益通算するためには必要だ。損益通算できる金融商品は投資信託以外も対象になる。NISA口座で取引した投資信託などの金融商品は損益通算の対象外になることは注意しよう

損益通算できる金融商品の例
・株式投資信託
・公社債投資信託
・上場株式
・ETF(上場投資信託)
・ETN(上場投資証券)
・J-REIT
・公社債
(※筆者作成)

確定申告をしたほうがよいケース(2)……投資信託などの損失を繰越控除する

投資信託のなどの金融商品を損益通算すると利益を圧縮できるが、損失が利益を上回る場合は確定申告により繰越控除できる。

繰越控除は、損益通算しても控除しきれない損失を翌年以後3年間にわたって利益と相殺できる制度だ。仮に30万円の損失を2019年に繰越控除して翌年の2020年に10万円の利益が出た場合、それらを損益通算して税金を減らせる。余った20万円の損失も2021年に繰越控除し、利益と相殺できる。

繰越控除は1つの取引口座しかなくても損失があれば確定申告で利用できるが、注意したいのは、繰越控除を継続するには確定申告を毎年しなければならない。損失の繰越は最大3年間だが、途中で確定申告しない年があると繰り越した損失は消滅する。繰越控除の適用を継続させるには、面倒でも確定申告を行うようにしよう。

確定申告をしたほうがよいケース(3)……投資信託の分配金などの配当控除を受ける

投資信託の分配金は源泉分離課税が原則であり、利益に対し所得税15%と住民税5%の税金が源泉徴収される。これを確定申告時に配当控除を利用することで税金を減らせる可能性がある。

配当控除とは、投資信託の分配金や株の配当について総合課税として確定申告すると所得税と住民税から一定額が控除される制度だ。分配金でも公社債投資信託のものは対象にならない。

投資信託の配当控除率は以下であり、所得税と住民税の税率が適用に応じて引き下げられる。課税総所得金額等が1,000万円を超える人はカッコ内の控除率が適用される。

  株式組入割合
50%超 25%超
50%以下
25%以下






50%以下 所得税5%(2.5%)
住民税1.4%(0.7%)
所得税2.5%(1.25%)
住民税0.7%(0.35%)
適用なし
50%超
75%以下
所得税2.5%(1.25%)
住民税0.7%(0.35%)
所得税2.5%(1.25%)
住民税0.7%(0.35%)
適用なし
75%超 適用なし 適用なし 適用なし
(※日本証券業協会『個人投資家のための証券税制Q&A(2019年版)』より筆者作成)

ただし、通常なら所得税15%と住民税5%だが、総合課税を選択すると所得税は所得に応じて5~45%、住民税は一律10%が適用される。そのため、配当控除で一定額が控除されても税率によって所得税は得になっても住民税は高くなることがある。

回避策として所得税と住民税の課税方法を別々に選択する方法がある。まず確定申告で総合課税を選び所得税の配当控除を受け、住民税は市役所など自治体で別途申告書類をもらい提出する。

この方法で住民税が高くなることは避けられるが、所得税の配当控除が有利かどうかは所得によって異なる。確定申告することで扶養控除などに影響する可能性もあるので、利用する時にはメリットの有無を慎重に検討しよう。

5.投資信託の確定申告でよくあるQ&A

投資信託の税金について、よくある質問と回答を以下にまとめた。

投資信託の確定申告に必要な書類は?

e-Taxを使わない場合は、税務署や国税局のホームページで入手できる確定申告書が必要だ。以前は確定申告の際に「特定口座年間取引報告書」や「上場株式配当等の支払通知書」の添付が必要だったが、2019年4月以降は不要になった。源泉徴収票の添付も不要だ。

投資信託の申告すべき損益の確定申告を忘れた場合は?

期限内に確定申告をし忘れた場合は、なるべく早く申告し、期限後申告として取り扱ってもらおう。無申告のままだと重加算税が課されることもあるが、期限後申告を本来の期限から1ヵ月以内に行い、定められた期限までに税金を納めた場合はペナルティが課されない。

確定申告は済ませたものの損失の繰越控除の申告を忘れていた場合、その期限後に修正し、繰越控除も申告する手続きである「更正」を請求できるかどうかは口座区分による。確定申告書を提出済みの場合、「源泉徴収あり」の特定口座では更正の請求はできない。「源泉徴収なし」の特定口座や一般口座は、確定申告書提出後でも認められる可能性がある。

NISA口座の損益は確定申告が必要?

NISA口座で投資信託の損益があっても、確定申告は必要ない。そもそもNISA口座は非課税口座であり、利益が発生しても税金がかからないからだ。その代わり、損失の繰越控除や他の口座との損益通算はできない。

投資信託の譲渡損失は外貨預金の為替差益と損益通算できる?

損益通算は、原則として同じグループに属する所得の中でのみ可能だ。質問の投資信託の譲渡損失は譲渡所得に、外貨預金の為替差益は雑所得に分類されるため損益通算はできない。ただし確定申告で申告分離課税を選択すれば、異なる金融機関の口座でも投資信託の譲渡損失や配当所得、利子所得の損益通算は可能だ。

妻に投資信託の譲渡所得があると夫の配偶者控除に影響がある?

投資信託などの譲渡所得の確定申告をした場合、その金額は合計所得金額に含まれるため配偶者控除や扶養控除などに影響を及ぼす可能性がある。しかし「源泉徴収あり」の特定口座を利用して確定申告をしなければ、合計所得金額には含まれないため配偶者控除などにも影響しない。

6.投資信託にかかる税金とどう付き合えばよいか?

投資信託の収益には税金がかかってしまうが、通常は特定口座(源泉徴収あり)を選んでおけば、確定申告の手間を省ける。投資にかかる税金はパフォーマンスの押し下げ要因にもなるため、NISAやiDeCoといった非課税投資制度も優先的に利用したい。

投資信託にかかる税金は分かりづらいイメージもあるが、税制を上手に活用して賢く資産形成していこう。

執筆・國村功志
大手証券会社で株式・債券・投資信託などの金融商品販売に携わる。その後、ファイナンシャルプランナーの養成団体やFP事務所を経て、現在は資産形成FPとして活動。個人の資産運用経験も活かし、金融機関や一般の人向けに毎月セミナーも開催。CFP®、証券外務員一種保有。

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