THE OWNER特別連載「経営者のお悩み相談所 〜経営コンサルタントが一問一答!〜」第10回目は「コロナ下での営業の質と量をオンライン等の活用で、どのように効果性を高めていけばよいか?」という経営者のお悩みについてお答えします。

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【今回のご質問】
コロナの影響により対面の営業が困難になる中で、攻撃力の質と量をオンライン等の活用によりどのように効果性を高めていくかについてご意見を伺えたらと思います。

【ご回答】
① 顧客心理に沿った確実な営業と、②営業先との関係性を深化していく取り組みが重要かと思います。

ご質問ありがとうございます。コロナ下、コロナ後の営業はどうあるかというご質問ですね。ここでは、情報通信技術活用や営業マネジメント強化のように、頻繁にWebに掲載されている情報ではなく、本質的な違いについて考えてみたいと思います。

杉野 洋一(すぎの よういち)
杉野 洋一(すぎの よういち)
(同)Initiatives代表。IT系企業、会計ファームにて広くクライアントを支援する傍ら、韓国・インドにて教育・指導・通訳に従事するなど多様な文化・企業環境において活躍。中小企業診断士として独立後は中小企業を中心に「真にクライアントに寄添う経営支援」を信条とし、目標制度や管理会計に取り組んでいる。▶https://initiatives.jp/

コロナでの最大の影響は顧客との対面営業ができなくなること

【第9回】会社を拡大していく中での中途入社社員への文化浸透のための方策は?
(画像=THE OWNER編集部)

コロナの中で一番大きい影響が顧客との対面営業ができなくなることです。コロナ後にあってもリモートワークが大幅に普及した現在から、過去のように皆が出社する就業形態には戻らない可能性が高いでしょう。当然、直接訪問よりもビデオ会議による商談が選ばれる場面が増えます。

営業の行動量については、移動がなくなった分、増加させる余地が増えました。更に、新人営業担当者の育成という意味でも、オンラインの場合には録画して後から見直すことができたり、上司が同行する場合も移動時間がなかったりするので、大幅に時間が削減できます。

もし、御社で営業の行動量が増えてないとすれば、訪問先が不足しているのか、あるいは他の原因があるのか、探ってみる必要があります。リード(アプローチ先)が不足しているのであれば、キャンペーン、ニュースリリース、公告、会合での名刺交換、リスト会社からのリスト購入等の対策を検討しても良いかもしれません。逆に社内にリモートワーク未対応業務が多く、それに時間を取られているかもしれません。このような場合には業務の見直しと業務改善を行いましょう。

量は増やしやすい一方で、質的にはどうでしょうか。直接会って商談するのと、ビデオ会議で商談するのでは何が違うのでしょうか。

質的影響1: 顧客はより論理的に各社を比較する

質的影響の一つ目は、顧客はより論理的に各社の提案を比較するということです。対面での営業では、優秀な営業担当者がその場の雰囲気を旨く制御して、受注まで持っていけたかもしれません。ところが、オンライン商談では、例えば、顧客担当者の声色、目線、表情などの情報が対面に比べて大幅に不足します。オンライン商談であれば、例え顧客担当者が当社営業担当者の話を全く聞いておらず、Webニュースを見ていたとしても全く分かりません。

逆に顧客担当者も当社の営業担当者から受ける印象も薄くなります。対面訪問の場合には、スーツ着用で清潔な身なり、エレガントなビジネスマナーが、商談開始の入り口になりました。オンライン商談の場合は、これらの情報を顧客担当者に与えることが難しくなります。結果として、顧客担当者は当社営業担当者の印象で判断しないという状況になります。

上記のように、商談の中身以外の情報はオンラインでは切り捨てられます。結果として、顧客担当者は商談の内容を吟味したうえで、より論理的に各社提案を比較するようになると考えられます。

課題1: 顧客心理に沿った確実な営業が必要

このような状況下では、より確実なステップで受注まで持っていく営業活動が必要となります。顧客担当者が知りたいという思うこと以外の情報は切り捨てられてしまいますので、顧客担当者の心理状態を確実に把握し、それに沿った営業活動が必要になるというわけです。

少し分かりにくいので例を挙げてみます。例えば、当社は法人営業をしており、顧客心理に基づく営業プロセスとして1. 認知、2. 理念への共感・必要性の理解、3. 学習、4. 試用、5. 納得、6. 契約という順序を想定し、この心理モデルに沿って、各回の商談内容を考えています。この中で、「2. 理念への共感・必要性の理解」では、顧客の価値観に当社が賛意を示すとともに、当社商品の企画意図をお伝えし賛同してもらう、当社商品の必要性や価値について顧客に理解してもらうということを着地点に置いています。これをないがしろにして先に進むことはありません。勿論、1つの順序が1回の商談というわけではなく、顧客心理をヒアリングから推定し、順序を飛ばすこともありますし、複数の順序を1回にまとめる場合もあります。

このように受注までのプロセスを細かい順序に区切ることにより、一つ一つのプロセスの成果を明確にし、管理していくわけです。順序のそれぞれで営業用資料やデモを用意し、次に進みづらい箇所があれば改善していきます。

このように受注や購買にまで至る顧客の心理状態を順序だてて説明することを、専門用語で「購買行動モデル」と言います。B2C(一般消費者向けビジネス)では、AIDMAが有名です。営業・マーケティングは会社毎にある言われるほど、個々の会社に合った形があります。是非、自社に合うものをご検討ください。

質的影響2: 顧客担当者が感じる重要度が落ちる

2つ目の本質的な影響は、顧客担当者が本件について重要度を感じにくいということです。人間は無意識の内に物事の重要度を判定し、優先度をつけて行動しています。人間の特性上、実際にあった人に心的な重要度は高まりますし、また時間をかけて訪問してくれたという心理的負担もあります。ところが、オンラインでは、この実際に会ったことによる重要度の上昇は対面訪問よりもずっと低くなります。

皆さんにも同じ経験があるのではないでしょうか。やはり、オンラインだけの人より、実際に会った人の方が印象に残り、尚且つその後も返事をしないとという気持ちが強いということはありませんか。

このような顧客担当者にとっての重要度の低下を補うためには、こまめな連絡で接触回数を増やしていき、より顧客の役に立つ情報提供を行うという2点が必要になります。

関係を深化する施策

前述のように、顧客担当者への重要度の低下を補うためには、

  1. 接触回数を増やすということ
  2. より有益な情報提供を行うこと

が必要です。勿論、1回1回の商談の質を高めることは言うまでもありません。個々の商談の質を高める方法は前述の方法をお試しください。

まず簡単なのは接触回数を増やすことです。こまめに連絡を取り、顧客担当者が当社営業担当者に対して感じる重要性を上げるわけです。ただ、策なくしてこの方法を行うと、顧客担当者にうるさがられてしまうかもしれません。これでは徒労どころか逆効果になってしまいます。

そこで、顧客担当者に喜ばれることが何かを検討します。例えば、一般的には法人の購買担当者は稟議で決裁を取ることが多いですので、その際に添付する機能・価格比較表をコピペで作れれば、顧客担当者の負担は軽減します。もう少し広く考えると、顧客担当者は、情報を収集し、自社に最善の選択をまとめ、上司を説得しているわけです。このプロセスにうまく食い込むことが、顧客担当者に喜ばれることに繋がります。

具体的なチャネルとしては、

  • ホワイトペーパー: 機能解説等を文書にまとめたもの
  • 報告書: 市場分析、トレンド分析等
  • セミナー
  • 提案書: パワポ資料

が良く使われているようです。最近では解説動画もあります。

ここでの要点は自社商品の宣伝は控えめにして、市場トレンドや重要機能の解説、各社製品の比較を主とし、しかも最後まで読むと自社製品の優位性が理解できる内容となっていることです。

いかがだったでしょうか。ご参考になったでしょうか。ご不明な点がありましたら、再度ご質問ください。より詳しくご回答します。(提供:THE OWNER

文・杉野洋一((同)Initiatives代表)