老後資金や住宅ローンを完済するための資金として、退職金をあてにしている人は多いでしょう。しかし、実際にいくらもらえるのか把握している人は少ないのではないでしょうか。

求人情報には退職金について明記されていないことが多く、入社後も確認する機会はなかなかないものです。「実は退職金がない」という会社も少なくありません。

今回は、中小企業の退職金相場や自分の退職金を確認する方法について、詳しく解説します。

中小企業の退職金相場をあらゆる角度から確認

退職金平均額は中小企業1,000万円 大企業との差額は?
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日本の事業者数は約360万ですが、その99.7%を中小企業が占めています。また、会社に勤めている人の約7割が中小企業の従業員です。つまり日本の会社員は、ほとんどが中小企業に勤めているというわけです。

東京都産業労働局は、毎年「中小企業の賃金・退職金事情」を調査しています。今回は従業員300人以下の中小企業にスポットを当てて、退職金相場を見ていきましょう。

中小企業の退職金平均額はおよそ1,000万~1,100万円

高校や大学を卒業後直ちに入社して、標準的な昇進をした場合の定年退職金額は以下のとおりです。

<中小企業 モデル退職金>

高校卒大学卒
中小企業1,031万4,000円1,118万9,000円

次に、企業規模別の退職金額を見てみましょう。従業員数が多い会社ほど、退職金相場は高くなります。会社の規模が小さい企業では、学歴による差はそこまで大きくないことがわかります。

<中小企業 モデル退職金 企業規模別>

従業員数高校卒大学卒
10~49人937万9,000円979万2,000円
50~99人1,082万円1,230万9,000円
100~299人1,260万9,000円1,342万8,000円

「大企業」と呼ばれる会社の退職金相場と比較してみましょう。中央労働委員会の「賃金事情等総合調査の概要」では、従業員数1,000人以上かつ資本金5億円以上の大企業についてまとめています。

<大企業 モデル退職金>

高校卒大学卒
大企業 事務・技術(総合職)2,379万2,000円2,511万1,000円

大学を卒業して大企業に勤めた場合の退職金相場は約2,500万円で、中小企業の相場を大きく上回っています。

-中小企業の定義とは

中小企業の定義は業種によって基準が異なりますが、以下のように資本金額や従業員数で決まります。大企業の定義は明確なものがなく、「中小企業よりも規模が大きい企業」を指すのが一般的です。

<中小企業の定義>

業種分類資本金または出資総額常時雇用従業員数
中規模企業小規模企業
製造業その他3億円以下300人以下20人以下
卸売業1億円以下100人以下5人以下
小売業5,000万円以下50人以下5人以下
サービス業5,000万円以下100人以下5人以下

※資本金あるいは従業員数のいずれかを満たすこと(中小企業基本法 第二条)

産業別で見る退職金額の違い

産業別の退職金相場では、業種によって学歴による差が大きいところと小さいところがあることがわかります。「生活関連サービス、娯楽業」「その他サービス業」は大学卒の従業員が少ないため、高校卒と大学卒の退職金額が逆転していると考えられます。

<中小企業 モデル退職金・産業別>

業種高校卒大学卒
建設業1,177万円1,313万8,000円
製造業1,080万4,000円1,148万7,000円
情報通信業864万9,000円1,154万5,000円
運輸業、郵便業821万9,000円893万2,000円
卸売業、小売業1,019万4,000円1,088万4,000円
金融業、保険業1,725万5,000円
学術研究、専門・技術サービス1,007万1,000円
生活関連サービス、娯楽業1,129万6,000円1,104万2,000円
教育・学習支援号(学校以外)656万9,000円
その他サービス業1,019万2,000円996万円

※「-」はデータなし

そもそも退職金があるとは限らない

「会社勤めをしていれば退職金はもらえるもの」と思っている人は、多いのではないでしょうか。

しかし、会社には退職金制度を導入する義務はありません。よって、退職金制度がないとしても違法ではないのです。

退職金制度を導入している中小企業は7割以下

調査によると、退職金制度を導入している大企業は91.0%ですが、中小企業では退職金制度が「ある」と答えた企業は65.9%にとどまっています。

つまり、中小企業の約3割は退職金がないということです。退職金の使い道を計画する前に、まずは勤務先に制度があるかどうかを確認しておきましょう。

退職金がある場合は、就業規則に記載されている

常時10人以上の従業員がいる会社では、労働基準法で労働時間や賃金などのルールを記載した「就業規則」を作成することが定められています。さまざまな項目がありますが、退職金制度を導入している場合は、その適用範囲や退職金の支払い方法、計算方法などを必ず記載しなければなりません。

就業規則の管理は、各会社に任されています。従業員はいつでも自由に閲覧する権利があるので、どこにあるかわからないときは担当部署に問い合わせましょう。

-おおよその退職金額を計算できる

就業規則に記載されている退職金算定方法を見れば、おおよその退職金額を計算できます。

退職金の計算方法は会社によって異なりますが、43.1%が「退職金算定基礎額×支給率」と答えています。基礎額は「退職時の基本給」を用いるところが41.4%と最も多く、「退職時の基本給×一定率」を用いるところが28.9%です。

-受給するための最低勤続年数

退職金を受け取るためには、ある程度の勤続年数を必要とする会社がほとんどです。

退職金受給資格を得るための最低勤続年数は、会社によって異なります。勤続3年以上としているところが多いですが、5年以上とする会社も11.7%あります。また会社都合で退職する場合は、勤続1年以上から支給するところが多いようです。

<退職一時金を受給するための最低勤続年数>

自己都合会社都合
1年未満1.1%6.3%
1年15.3%22.6%
2年11.3%7.9%
3年47.4%28.6%
4年2.4%1.4%
5年以上11.7%7.1%

一時金だけではない さまざまな退職金

一括で支払われる退職金を「退職一時金」と呼び、退職金制度がある中小企業の71.8%が一時金を支給しています。

4.9%の会社では、生涯あるいは一定期間の年金という形で退職金を支給しています。また23.3%の会社では、一時金と年金を併用しています。

-退職年金

退職年金の準備形態は「確定拠出年金(企業型)」が46.4%と最も多く、「確定給付企業年金」39.3%、「厚生年金基金」10.7%と続きます。

確定拠出年金(企業型)は、積立投資を利用した年金制度です。積立金の出資元は会社ですが、運用は従業員自身が行います。途中で退職した場合でも、転職先の企業年金や個人で加入する個人型確定拠出年金(iDeCo)に年金資産を移すことができます。ただし、原則60歳以降でないと受給できません。

-その他

中には、退職金相当額の全額あるいは一部を給与や賞与に上乗せしている会社もあります。退職時や退職後ではなく、在職中に前払いするという方法です。

中小企業の退職金準備のための制度

大企業の多くは退職金を社内で準備していますが、中小企業では外部の共済や保険を利用しているところもあります。外部で準備することのメリットは、退職時の経営状況にかかわらず確実に退職金が支払われることです。

<退職一時金の準備方法>

社内準備60.3%
退職金共済53.3%
退職金保険10.0%
その他7.1%

※複数回答

-退職金共済

中小企業の従業員を対象とした共済制度で、退職時や死亡時に一時金が支払われます。一般の「中小企業退職金共済」のほか、建設業や清酒製造業、林業に向けた「特定業種退職金共済」があります。

退職金額は、「掛金×積立期間」で計算されます。掛金は月額5,000~3万円で、途中で増額することも可能です。一般的に掛金は会社が負担しますが、従業員が負担するところもあるようです。掛金額が少額の場合は、退職金額が相場(モデル金額)の半分以下になるケースもあるため注意が必要です。

<退職金共済 退職金額例>

加入期間掛金額(月額)
5,000円1万円3万円
25年171万400円2,42万800円1,029万2,400円
30年210万6,550円421万3,100円1,263万9,300円
35年252万2,900円504万5,800円1,513万7,400円

※中退共「中小企業退職金共済」2020年3月現在の情報をもとに作成
※加入期間中同じ掛金を続けた場合の共済金額

-退職金保険

民間保険会社で扱っている法人向けの養老保険などを利用する方法です。定年退職時には満期保険金を受け取ることができ、死亡時には同額の死亡保険金が支払われます。

退職金額は、加入プランの満期金額によって決まります。通常は定年年齢を満期に設定するため、定年より前に退職した場合は保険契約を解約することになります。その場合は契約期間に応じた解約返戻金が発生しますが、解約時期によっては少ない、あるいはまったくないこともあります。

通常、契約者および保険料負担者が会社で、受取人は会社あるいは従業員個人に設定されます。受取人が会社の場合は、いったん会社に支払われた満期金(保険金)を従業員に支給することになります。

自分の退職金があるかどうか確認しておこう

終身雇用や年功序列といったこれまでの雇用システムがなくなりつつある中、退職金制度を見直す会社が増えています。退職する際に慌てることがないように、今のうちに退職金の有無を確認しておきましょう。

退職金がない場合は、投資や貯蓄などで計画的な資産形成を始めることをおすすめします。

※上記は参考情報であり、特定ファンドの売買を推奨するものではありません。

(提供:Wealth Road