シンカー:財政拡大などによって米国のネットの資金需要が過剰で、市中のマネーの拡大・縮小を左右するリフレ・サイクルが強くなりすぎているのか疑問があるようだ。ネットの資金需要の拡大によるリフレ・サイクルの上振れが過剰な総需要につながっているかは、国際経常収支の赤字が拡大しているかどうかで判断ができる。ネットの資金需要の拡大が、家計貯蓄率の上昇につながらなかった分が、総需要の追加的な拡大となり、貯蓄・投資バランスとして、国際経常収支の赤字の拡大になるからだ。消費の回復がまだ十分ではなく家計の貯蓄率が大きく上昇しているため、資金循環統計ベースの米国の国際経常収支の赤字はまだそれほど拡大しておらず、米国の経済政策はまだ過剰ではないとみられる。企業の支出はまだ弱く、企業貯蓄率はプラスという総需要を破壊する異常な状態であり、その結果として失業率の水準はまだ高く、FEDが金融引き締めに動くことはあり得ない。2022年には経済正常化で、家計と企業の貯蓄率が低下するとみられ、国際経常収支の赤字は拡大していき、総需要の拡大を示し、失業率もしっかり低下するだろう。米国の国際経常収支の赤字幅が増加し、しかもFEDの金融緩和が継続するということは、米国の総需要が拡大する中でグローバルなドル供給が増加することを示唆し、グローバル・ディスインフレからグローバル・インフレへの転換を促進するだろう。総需要の拡大ペースとそれにともなう失業率とインフレの動きが、FEDの金融政策を左右することになる。米国の資金循環統計の動きをしっかり追っていくことは重要である。米国経済の分析にとって重要である企業貯蓄率とネットの資金需要のレシピを解説する。

会田卓司,アンダースロー
(画像=PIXTA)

米国資金循環データ抽出方法

① FRBのウェブサイトにアクセスする( https://www.federalreserve.gov/datadownload/Choose.aspx?rel=z1 ) 。左側にあるBuild packageをクリック。

② 一番上の ”1. Data set(choose one)” にFinancial Accounts of the United States — Z.1 が選択されているのを確認してContinueをクリック。

③ “2. Series prefix” でFU Transactions, NSA を選択して Continue をクリック。

④ “3. Sector” で 15 Households and nonprofit organizations (S14+S15)、 21 State and local governments (S1312+S1313)、 31 Federal government (S1311)、 26 Rest of the world (S2) を選択して Continue をクリック。

⑤ “4. Instrument type” で 50000 Net lending (+) or borrowing (-) (financial account) を選択して Continue をクリック。

⑥ “5. Series type” で 5 Computed series が選択されているのを確認して Continue をクリック。

⑦ “6. Frequency (choose one)” で Quarterly が選択されているのを確認して Add to package をクリック。

⑧ Review your package で Format package をクリック。

⑨ Format your package にある Choose a format for you data file. で右側にある Dates をチェック。

⑩ Dates の下の From を 1970 First Quarter に、To を最新の日付(現時点で2021 First Quarter)を選択。

⑪ 下にスクロールして File type で Excel 2003, or newer をチェック、 Go to download をクリック。

⑫ Download your package の下のほうにある Download file をクリック。

⑬ ダウンロードしたデータに以下のコードが入っているか確認。

l Z1/Z1/FU155000005.Q
l Z1/Z1/FU215000005.Q
l Z1/Z1/FU265000005.Q
l Z1/Z1/FU315000005.Q

⑭ ダウンロードしたエクセルファイルの4つの系列を新しいエクセルファイルにコピーする。

⑮ 単位がMillion なので 1000 で割って Billion に変換する。

GDPデータ抽出方法

① 1Federal Reserve Economic Data にある米国GDPのページにアクセス ( https://fred.stlouisfed.org/series/NA000334Q )

② 右上にある Download をクリックし、Excel(data) を選択。

③ ダウンロードしたエクセルファイルにある系列を先ほど作成したエクセルファイルにコピー。単位が Million なので、1000 で割って Billion に変換する。

貯蓄率の計算方法

① 各四半期ごとに資金循環統計の State and local government (地方政府) と Federal Government (中央政府) の和を計算し、一般政府の資金過不足を作成する。

② Households and nonprofit organizations (家計)、先ほど作成した一般政府、 Rest of the world (海外) の和を計算し、マイナス1をかけたものが企業の資金過不足になる (一般政府、企業、家計、海外の資金過不足の和は必ず0になる)。

③ 出来上がった一般政府、企業、家計、海外の資金過不足の4四半期累計を計算する。

④ それを同じく4四半期累計の名目GDPで割り100でかけたものが、四半期のそれぞれの部門の貯蓄率である(一般政府の貯蓄率=財政収支)。

⑤ 企業貯蓄率の場合は断層を調整するため、2016年10-12月期から2017年7-9月期の貯蓄率にそれぞれ2.0を引く。一方で、家計貯蓄率は同期間にそれぞれ2.0を足す。

⑥ 4部門(一般政府、企業、家計、海外)の貯蓄率の合計はゼロとなる。

ネットの資金需要の計算方法

① 各四半期ごとの企業貯蓄率と政府貯蓄率 (一般収支) の和がネットの資金需要となる。

図1:米国のネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)

米国のネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)
(画像=BEA、 FRB、岡三証券 作成:岡三証券)

図2:米国の国際経常収支と家計貯蓄率

米国の国際経常収支と家計貯蓄率
(画像=BEA、 FRB、岡三証券 作成:岡三証券)

田キャノンの政策ウォッチ:7月の鉱工業生産指数のプレビュー

8

・本レポートは、投資判断の参考となる情報提供のみを目的として作成されたものであり、個々の投資家の特定の投 資目的、または要望を考慮しているものではありません。また、本レポート中の記載内容、数値、図表等は、本レポート作成時点のものであり、事前の連絡なしに変更される場合があります。なお、本レポートに記載されたいかなる内容も、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。投資に関する最終決定は投資家ご自身の判断と責任でなされるようお願いします。

岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司

岡三証券エコノミスト
田 未来